贈与をしたとき、何を残しておけばいいのか——これは相談でよく出てくる質問です。税務調査で実際に何が確認されるかを知っておくと、普段の対応が変わります。
そして、ここで多くの方が誤解しているのが「贈与税の税務調査」というイメージです。実は、贈与だけを対象にした税務調査はほとんどありません。
贈与の中身が問われるのは、その先で行われる「相続税の税務調査」のときです。この順番を理解することが、証拠管理を考える出発点になります。
贈与が問われるのは「相続税の調査」のとき
税務調査で贈与が確認されるのは、贈与をした方が亡くなり、相続税の申告をしたあとです。
調査官は、亡くなった方(被相続人)の通帳の動き、過去の振込記録、生前の財産の移動を一つひとつ確認していきます。
このとき調査官が特に注目するのが、「生前に動いていたお金が、本当に贈与として成立していたのか」という点です。
名義は子や孫になっているけれど、実態としては亡くなった方の財産のままだったのではないか——いわゆる「名義預金」を疑われる場面です。
ここで重要なのは、贈与をした本人がもう亡くなっているという事実です。「これは確かに贈与だった」「あげるつもりで渡した」と説明したくても、いちばんの当事者がいません。
だからこそ、生前に「贈与であった」と事実認定してもらえる状態を作っておくことが、何より大事になります。
税務調査で確認される主なポイント
調査の現場で実際に見られるのは、おおむね次のような点です。
通帳と振込記録です。いつ、いくら、誰から誰へお金が動いたのかが確認されます。
現金手渡しは記録が残らず、贈与の事実を示しにくいため、振込で記録を残しておく方が説明しやすくなります。
贈与税の申告の有無です。基礎控除(年110万円)を超える贈与をしていれば、本来は申告が必要です。申告をしていれば「贈与として処理していた」という一つの根拠にはなります。
そして受贈者がそのお金を実際に管理していたかどうかです。これが名義預金と区別されるうえで、もっとも重視されるポイントです。
名義預金と区別されるために必要なこと
名義だけ子や孫にして、通帳も印鑑も親が持ったまま、本人は口座の存在すら知らない——これは典型的に名義預金と判断されてしまうパターンです。
贈与として認められるには、もらった側が「自分の財産」として実際に管理・使用できる状態にあることが必要です。
具体的には、口座の通帳・キャッシュカード・印鑑を受贈者自身が保管していること、口座の届出印が親のものと別であること、本人がそのお金を自由に使える状態にあることなどが挙げられます。
「贈与する」と「ただ名義を借りる」の違いは、結局このコントロールが誰にあるかに行き着きます。
贈与契約書は必須か
贈与契約書は法律上の必須要件ではありません。口頭でも贈与は成立します。
しかし、相続の調査では贈与した本人がいない以上、「贈与の合意が確かにあった」ことを書面で残しておく意味は大きいと考えています。
贈与契約書には、誰から誰へ、いつ、いくらを贈与したのか、双方が合意したことを記載し、それぞれが署名・押印します。
日付を後から書き換えていないことを示すため、確定日付を取っておく方法もあります。
契約書がないからといって直ちに贈与が否認されるわけではありませんが、証拠の積み重ねが薄いほど、説明の負担は重くなります。
本人不在の場で事実を認定してもらうための備え、と考えると分かりやすいかもしれません。
記録の残し方の実務的なポイント
整理すると、生前にやっておきたいのは次のような対応です。
- 贈与は振込で行い、記録を残すこと。
- 基礎控除を超えるなら贈与税の申告をすること。
- 贈与契約書をその都度作成すること。
- 受贈者本人が通帳・印鑑を管理する状態にしておくこと。
- そして、これらを贈与の年ごとに一式まとめて保管しておくことです。
いずれも特別なことではありませんが、「本人がいなくなったあとに、第三者が見て贈与だと分かるか」という視点で揃えておくと、判断に迷いにくくなります。
贈与の証拠は、贈与をしている「今」しか作れません。相続が起きてからでは間に合わない備えだからこそ、普段の一手間が後々の安心につながります。
ご自身のケースでどこまで揃えておくべきか迷われたときは、早めのご相談をおすすめします。
