「子どもや孫の将来のために」と、親が子や孫の名義で少しずつ積み立ててきた預金。ご家庭ではよくあるお話ですが、実は相続税の税務調査で、もっとも多く問題になる論点のひとつがこの「名義預金」です。
名義預金とは、口座の名義は配偶者や子、孫でも、実質的には親(亡くなった方)のお金だったと判断される預金のこと。良かれと思って作った口座が、相続の場面で思わぬ火種になることがあります。
今回は、調査で名義預金がどう見られるのか、そして生前・申告の段階で何を整えておけばよいのかを、「備え」の視点から整理します。
なぜ名義預金は調査で問題になるのか
相続税の税務調査は、申告書を提出してからしばらく経って行われることが多く、その中心テーマのひとつが「その預金は誰のものか」という預金の帰属です。
ここで誤解されやすいのが、判断の基準は「名義が誰か」ではなく「実質的に誰のお金か」だという点です。具体的には、次のような事情から総合的に判断されます。
- 通帳・印鑑・キャッシュカードを、実際に誰が管理していたか
- 入金されたお金の出どころ(原資)は誰か
- 名義人本人がその口座の存在を知り、自由に使える状態だったか
【モデルケース】
父Aさんは、孫Bさんが生まれた年から毎年100万円ずつ、Bさん名義の口座に入金してきました。20年で残高は約2,000万円。通帳と印鑑はAさんが自宅で保管し、Bさんは口座の存在を知りませんでした。
「年110万円以下だから贈与税はかからない」と考えていたAさんですが、Bさんには受け取った認識がなく、自由に使える状態でもありません。
この場合、そもそも贈与が成立していないとして、約2,000万円がAさんの相続財産と判断される可能性が高くなります。
いまはマネーロンダリングの関係や個人情報保護の観点から家族であっても自分以外の名義の預金口座を作ることのハードルはかなり高くなっていますが、少し以前まではこういうことは割と緩く運用されていたという面があります。
金融機関の窓口でお子さんは配偶者、お孫さん名義の預金口座をご本人に知らせずに作れてしまっていたのです。
その影響が相続税申告の税務調査において出てきているというのがここ10年ほど、特に相続税の大きな改正があり課税対象者が増えた後の税務調査の重点的チェックポイントになっています。
名義預金と見なされないための考え方
贈与は、あげる側の「あげます」と、もらう側の「もらいます」という双方の合意で成り立つ契約です。そのうえで、受け取った人が自由に使える状態になっていることが本質です。生前の贈与では、次の点を意識しておきましょう。
- 通帳・印鑑・キャッシュカードは、もらった本人が管理する
- 可能であれば贈与契約書を作成し、現金手渡しではなく振込で記録を残す
- 年間110万円を超える贈与をした年は、贈与税の申告をきちんと行う
すでに親が管理している子や孫名義の口座がある場合は、今からでも見直しが可能です。
名義人本人に口座の存在と経緯を伝え、通帳や印鑑を本人に渡して管理してもらう、今後の入金は贈与契約書を交わしたうえで振り込む、といった形に切り替えていくことが考えられます。
ただし、過去の入金分がさかのぼって本人のものになるわけではないため、これまでの分の扱いは専門家と相談しながら整理するのが安心です。
「名義を分けただけ」では対策になりません。これは、先日の非公開裁決シリーズでご紹介した「形式だけ整えた対策は否認される」というお話と地続きです。
また、相続や遺贈で財産を受け取る方への生前贈与は、一定期間分(改正により段階的に最長7年)が相続財産に加算される点にも注意が必要です。
よくある勘違いとしては贈与税の申告をしているから贈与が成立している、という認識です。贈与税の申告があることと贈与契約が成立しているかは別の問題になります。
贈与が成立していても贈与税申告をしていなかった、失念していたということはありますし、逆に贈与税申告をしていても親や祖父母が子や孫の名義で勝手に申告をしており、贈与の認識が受贈者になかったということもあり得ます。
申告の段階で整えておくべきこと
相続が起きたら、亡くなった方の名義以外の口座も含めて、資金の流れを早めに棚卸ししましょう。
配偶者・子・孫名義の口座に、亡くなった方のお金が入っていないかを確認することが出発点です。税務署は金融機関への照会で、過去の入出金の流れを確認できます。
判断に迷う口座があっても、「隠す」のではなく「経緯を説明できる形」に整えるのが基本です。
いつ、誰が、いくら入金したのか、誰が管理していたのかを資料とともに整理しておけば、調査でも落ち着いて説明できます。
そして、グレーな口座こそ申告前に専門家と方針をそろえておくことが大切です。調査で指摘されてから説明を組み立てる「後出し」は、どうしても不利になりがちです。
申告漏れとなれば過少申告加算税や延滞税がかかり、意図的に隠したと判断されれば、より重い重加算税の対象にもなり得ます。名義預金の扱いは、税務調査を見越したうえでの申告時のかなめなのです。
まとめ
- 名義預金は「名義」ではなく「実質」で見られる。名義を分けただけでは対策にならない
- 生前は「本人が管理し、記録を残す」、申告時は「経緯を説明できる形に整える」。この二段構えが備えになる
- まずはご家庭で「誰の口座に、誰のお金が入っているか」を一度確認してみることから
相続申告や、生前の名義の整理でお悩みの方は、スポット相談もご利用ください。
