「都道府県から『個人事業税』の納付書が届いたのですが、これは何ですか?」
ここ最近、こうしたご相談が続けて寄せられました。所得税や住民税は名前を聞いたことがあっても、個人事業税は馴染みが薄く、通知が届いて初めてその存在を知ったという方が少なくありません。
しかもクリエイターの場合、「そもそも自分の仕事は、個人事業税がかかる業種なのか」という独特の論点があります。同じ「漫画家」という肩書きでも、売上の中身で扱いが変わりうるのです。
この記事では、漫画家・同人作家・イラストレーター・同人ゲームクリエイターの方に向けて、個人事業税の基本と「かかる人・かからない人」の分かれ目を整理します。
脅かす話ではなく、通知が来ても慌てないための話として読んでください。
1. 個人事業税は「都道府県に納める、もうひとつの税金」
まず全体像です。事業をしている個人にかかる税金は、それぞれ納め先が違います。
- 所得税 …… 国に納める
- 住民税 …… 市区町村・都道府県に納める
- 個人事業税 …… 都道府県に納める
個人事業税は、地方税法で定められた業種(いわゆる「法定業種」。全部で70業種あります)に該当する事業を営む個人にかかります。税率は業種によりおおむね3〜5%、多くは5%です。
実務上いちばん大きいのが「事業主控除」です。年間290万円の控除があり、前年の事業の所得がこれを超えた部分にだけ課税されます。
つまり課税業種にあたる仕事をしていても、事業所得が290万円以下なら税額は生じません。
注意点:所得税で使える青色申告特別控除(現状で最大65万円)は、個人事業税の計算では使えません。「65万円を引いた後の所得が290万円以下」ではなく、引く前の金額で判定される点にご注意ください。
また、個人事業税のための申告は原則として不要です。確定申告をしていれば、その内容をもとに都道府県が計算し、通常8月ごろに納税通知書が届きます。
自分では何も手続きをしていないのに、あとから通知だけが来る——「急に来た」と感じやすいのは、この仕組みのためです。
2. クリエイターは課税業種にあたるのか——ここが分かれ目
個人事業税は、法定業種にあたる場合にだけかかります。そしてクリエイターの仕事は、この該当・非該当がケースによって分かれます。
まず、文筆・芸術としての創作活動そのもの——漫画家・作家・画家などは、70業種のリストに列挙されていないため、課税対象外として扱われることが多いとされています。原稿料が収入の中心という方は、この整理に乗るケースが多いでしょう。
一方で、次のような活動は、課税業種に該当しうるとされています。
- イラスト・キャラクターデザインなどの受注制作 → 「デザイン業」にあたると判断されることがある
- 同人誌・グッズなどを制作して販売 → 「出版業」「物品販売業」等にあたると判断されることがある
- 同人ゲーム・ソフトの制作販売 → 事業の実態により、「請負業」等にあたると判断される可能性がある
ポイントは、「肩書き」ではなく「実際に何をして稼いでいるか(実態)」で判断されることです。
同じ漫画家でも、原稿料が中心の人とグッズ物販・デザイン受注が中心の人とでは、扱いが変わりうる。ここが、クリエイターの個人事業税がややこしくなる理由です。
複数の活動が混ざっている場合、どの業種と見るかは、都道府県が実態をもとに判断します。
だからこそ、「原稿料」「デザイン受注」「同人誌・グッズ販売」「DL販売」などの区分ごとに売上と所得を分けて把握しておくことが、後々の説明材料になります。
3. 法定業種のリストは「古いまま」——だから判断が揺れる
もう一歩踏み込んだ話をします。実はこの70業種というリストは、かなり以前に定められたもので、現在の働き方・稼ぎ方に追いついていない、という状況があります。
デジタルで作品を配信する、販売サイトでコンテンツを売る、支援サイトで継続的な支援を受ける——こうした収入の形は、リストが作られた当時には想定されていません。
それでも判断は既存の業種に当てはめて行うほかなく、結果として都道府県ごとに運用の差が出たり、似た仕事なのに扱いが違ったりすることが起こります。
リストが実態に合っていない以上、将来的に見直される可能性はあります。今は非課税として扱われている創作活動についても、制度改正で扱いが変わることは、理屈のうえではありうる話です。
「今かかっていないから、これからもかからない」と決めつけないこと。毎年届く通知の内容を確認する習慣を持っておくのが、いちばん現実的な備えです。
4. 通知や問い合わせが来たら——「きちんと対応する」ことが何より大事
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
都道府県税事務所から、納税通知書とは別に「事業内容を確認したい」という照会が届くことがあります。
事業の中身がはっきりしない場合や、業種判断を確かめたい場合に送られてくるものです。ここで放置してしまうのが、いちばん避けたい対応です。
回答がなければ、都道府県は手元の確定申告書などの情報だけで判断せざるを得ず、結果として実態と異なる業種で課税されてしまうことがあります。
「きちんと説明していれば非課税だったのに」という事態は、防げるものです。
照会が来たときに説明できるよう、次の点を整理しておくとスムーズです。
- 収入の内訳(原稿料/デザイン受注/同人誌・グッズ販売/DL販売 など、区分ごとの金額)
- 主な取引先と、依頼される仕事の具体的な内容
- 制作から販売までを自分で行っているのか、受注制作なのか、といった業務の形
あわせて、確定申告書の「事業の種類」欄や「事業税に関する事項」欄の書き方も、業種判断に影響することがあります。実態に合った記載になっているか、毎年の申告時に確認しておきましょう。
なお、通知が届いた=即確定ではありません。納得がいかない場合は、都道府県税事務所に事業内容を説明して確認できます。
逆に、物販やデザイン受注が実態として大きいのに「創作者だから非課税のはず」と思い込んでいると、後から指摘を受ける可能性もあります。どちらの方向にも決めつけない、というのが安全な構えです。
まとめ
- 個人事業税は、所得税・住民税とは別の、都道府県に納める税金。法定業種(70業種)にあたる場合にかかり、年290万円の事業主控除がある(納税した金額は経費になる)
- 漫画家・作家など純粋な創作は課税対象外とされることが多い一方、デザイン受注・グッズ物販・ソフト販売などは課税業種に該当する可能性がでてくる。判断は肩書きではなく「実態」
- 法定業種のリストは古く、現在の働き方に追いついていない。都道府県ごとの運用差もあるとされ、将来的に見直される可能性もある
- 都道府県税事務所から問い合わせが来たら、放置せずきちんと対応する。説明できる材料(収入の内訳・仕事の内容)を用意しておく
- まずは「自分の稼ぎの中身(創作/デザイン/物販/ソフト)」を分解してみる。それが、かかる・かからないを見極める第一歩
個人事業税の通知が届いた、都道府県税事務所から問い合わせが来た、業種判断が不安——そんな場合は、スポット相談もご利用いただけます。収入の内訳を一緒に整理し、どう説明するかまでご案内します。
※本記事は一般的な取扱いを整理したものです。個人事業税の業種判断や運用は都道府県によって異なり、また制度改正により変更される場合があります。具体的な判断については、お住まいの都道府県税事務所または税理士にご確認ください。
