夏のイベントが終わり、通帳やプラットフォームの管理画面にまとまった売上が入っている。嬉しい一方で、「この後、何をどう処理すればいいのか」で手が止まってしまう方は少なくありません。
前回の記事では「まとまった売上が入った時こそ相談のタイミング」というお話をしました。今回はその実務編です。
イベント本番が明けたこの時期にこそ、記録と区分を整えておく価値があります。売上の記憶が鮮明なうちに手を打っておけば、翌年の確定申告でも、その先の消費税でも、慌てずに済みます。
1. まず「入った売上」を一箇所で把握する
イベント売上の最大の特徴は、入金ルートが分散することです。
- 当日の現金頒布
- 書店・イベント委託(数か月後に精算されるものも)
- BOOTH・DLsite等の電子販売
- 支援サイトや投げ銭
これらがバラバラのまま年末を迎えると、ほぼ確実にどこかが抜けます。今の時期に、入金元ごとに「いつ・いくら・何の売上か」を一覧にしておいてください。表計算ソフトで十分です。
通帳の入金記録、各プラットフォームの明細、当日の頒布数メモ——この3つを突き合わせられるのは、記憶が残っている今だけです。
特に注意したいのが現金売上です。記録が最も曖昧になりやすく、後から復元できません。
釣り銭準備金と売上をきちんと分け、「頒布数×単価」で概算だけでも残しておきましょう。当日のスペースで書いた正の字のメモが、そのまま帳簿の裏付けになります。
そしてもう一つ、見落とされがちなのが売れ残った在庫です。同人誌やグッズの残部は、税務会計上「棚卸資産」として扱われます。
印刷費を全額その年の経費にできるわけではなく、売れ残った分は翌年以降に繰り越されるという考え方です。
売上と対で在庫を把握しておかないと、後の申告で利益の金額がずれてしまいます。イベント直後の今、残部を数えておくのが一番確実です。
2. 経費とセットで、この時期に整理する
売上を並べたら、対応する経費も同じタイミングで整理します。
イベントにかかった費用——印刷費、スペース参加費、什器、交通費、宿泊費、外注したイラストやデザインの報酬——を、売上と同じ「このイベント」に紐づけて整理しておくと、後から見返したときの納得感がまったく違います。
「なぜこの支出が事業のためだったのか」を説明できる状態にしておくことが、経費計上の土台になります。
領収書が出ない支出もあります。同人印刷の一部や、当日の細かな支払いなどです。
この場合は、支払いの記録や通帳・クレジットカードの利用明細で補完します。日付・相手先・金額・内容をメモで残しておけば、それも記録として意味を持ちます。
売上が大きい年ほど、経費の計上漏れは“もったいない”ものになります。
所得が増えれば適用される税率も上がりやすく、拾い切れなかった経費の一つひとつが効いてくるからです。記憶が鮮明なうちに、拾えるものは拾い切っておきましょう。
3. 消費税の課税事業者化に「備える」
ここからが、跳ねた年にこそ考えておきたい話です。
消費税は、原則として基準期間(個人事業者は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、課税事業者になります。
つまり、今年の夏に入った売上は、再来年の自分に効いてくるということです。今年の実感と、実際に納税義務が発生するタイミングには、2年のズレがあります。
判定にあたって特に誤解が多いのが、複数プラットフォームの売上は合算して判定するという点です。
「委託分は別」「支援サイトの分は別」といった切り分けはできません。事業として得た課税売上を、すべて足して見ます。
また、インボイス(適格請求書発行事業者)に登録済みの方は、売上の大小にかかわらず課税事業者です。
登録している限り勝手に免税事業者には戻ることはありません。戻るには別途、取りやめの届出と一定の期間が必要になります。
「自分は免税のつもりだった」という認識のズレは、この機会にぜひ確認してください。
なお、インボイス登録をきっかけに課税事業者になった方向けの負担軽減措置(いわゆる2割特例、2027年以降は3割特例)には適用できる期間の区切りがありますので、ご自身がいつまで使えるのかも併せて確認しておくと安心です。
補足として、前々年ではなく前年の上半期(1月〜6月)の課税売上高で判定される場合もあります(給与等の支払額との両方が基準を超えた場合)。
従業員の給与がない個人の方は該当しないことが多いのですが、規模が大きくなってきた方は頭の片隅に置いておいてください。
まとめ
- 売れた後こそ、記録と区分を整える好機。分散した売上を一箇所に集め、在庫と経費まで対で押さえる。
- 今年の売上は、消費税では“再来年の自分”に返ってくる。1,000万円のラインとインボイス登録の有無を、今のうちに確認しておく。
- 本人が気が付いていない間に課税事業者になっていて申告納付漏れが生じている状態が一番ダメージが大きい。
消費税の納税義務者判定は一般の方がちょっと確認しただけでは分からないぐらい複雑になってしまっています。
少なくとも売上が1,000万円を超えた、もしくは超える見込みのかたは事前に相談をしておくのが安心です。
