「今年は当たったけれど、税金でこんなに持っていかれるとは思わなかった」——売上が跳ねた年の翌年に、いちばん多く聞く言葉です。
日本の所得税は累進課税です。何年もかけて積み上げてきた仕事の成果を一年でまとめて受け取ると、同じ総額でも税額はずっと大きくなります。
この山を少しならしてくれるのが「平均課税」という制度です。使える方は限られますが、当てはまるときの効き方は非常に大きいです。しかも、去年の申告で使い忘れていても、後から取り戻せる可能性があります。
1. まず「変動所得」に当たるかどうか
平均課税を使えるかどうかは、収入の中身で決まります。対象になるのは「変動所得」と呼ばれるもので、原稿料、印税、作曲料、著作権の使用料などが該当します。
(このほか、漁獲やのりの採取、はまち・まだい・ひらめ・かき・うなぎ・ほたて貝・真珠等の養殖による所得も含まれますが今回は割愛します)
クリエイターの方がつまずきやすいのは、次のあたりです。
- 同人誌をイベントや通販でご自身で頒布した売上は、著作物を「売った」対価であって、原稿料でも著作権使用料でもありません。変動所得には当たらないと考えるのが基本です
- グッズの販売、イラスト制作の報酬、デザインの受託も、同じく変動所得ではありません
- 同人ゲームのダウンロード販売は、契約がプラットフォームへの販売委託なのか、利用許諾に基づくロイヤリティなのかで見方が変わりえます。契約書の内容を確認する必要があります
つまり「今年はよく売れた」というだけでは使えません。
商業誌の原稿料、コミックスや電子書籍の印税、著作権使用料がまとまってある方が、主な対象になります。ご自身の収入がどちらに寄っているかを、最初に確かめてみてください。
2. 使えるかどうかの判定と、効き方のイメージ
判定は、いわゆる「20%基準」で行います。
- 前々年・前年に変動所得がない場合、またはその合計額の2分の1が今年の変動所得に満たない場合は、今年の変動所得と臨時所得の合計が、今年の総所得金額の20%以上あることが要件です
- 前々年・前年の変動所得の合計額の2分の1が今年の変動所得以上ある場合は、臨時所得だけで20%以上あるかどうかで判定します。実質的に、変動所得だけでは使えません
要するに「前の2年に比べて、今年だけ大きく跳ねた」という形が要件です。裏を返せば、跳ねた状態が続くと前2年の水準が上がっていき、平均課税はどこかで使えなくなります。
売上が大きく増えたその年、とりわけ開業から2〜3年目までが、いちばん適用の可能性が高い時期だとお考えください。
計算は、今年の変動所得から前年・前々年の変動所得の合計額の2分の1を差し引いた金額(に臨時所得を加えたもの)を「平均課税対象金額」とし、課税総所得金額からその5分の4を除いた金額でまず税額を計算します。そこで求めた低い平均税率を、残る5分の4の部分に掛ける、という順序です。
ひとまとめに受け取った所得を、あたかも分けて受け取ったかのように扱うことで、税率のジャンプを抑える仕組みだと理解しておけば十分です。細かい計算は、税理士か申告ソフトの仕事になります。
いわゆる5分5乗と呼ばれる計算方法で仮に1,000万円の変動所得がある場合には、1,000万円の5分の1である200万円に所得税率を乗じて計算して、その税額を5倍するイメージです。
3. 使い忘れても、あとから取り戻せる —— 更正の請求
平均課税を使うには、申告書にその旨を記載し、計算の明細書を添付する必要があります。
以前はこれが当初申告のときだけの要件でしたが、平成23年度の改正で見直され、修正申告書や更正請求書に記載・添付することでも適用できるようになりました。
したがって、去年の申告で使い忘れていても、更正の請求(法定申告期限から5年以内)によって取り戻せる可能性があります。さかのぼれるのは過去5年分。
まずは手元にある過去の申告書を開いて、平均課税の欄と明細書の有無を確認するところからです。とくに、売上が大きく増えた年の申告書は必ず見ておきたいところです。
ただし、実際に取り戻すまでには、いくつか壁があります。
- 更正の請求は、税額が過大だったことを納税者の側が示す手続きです。立証責任はこちらにありますので、当時の申告書に加えて、契約書・支払調書・入金明細まで揃えられるかが実務上の分かれ目になります
- 当時の収入を「変動所得に当たるもの/当たらないもの」に区分し直す必要があります。変動所得に対応する必要経費も按分して差し引くため、収入だけを抜き出して計算すると誤ります
- 住民税には平均課税の仕組みがありません。軽くなるのは所得税だけで、住民税は変わりません。「思ったほど戻らない」と感じる原因の多くはここにあります
- 当時の申告内容を見直す過程で、別の誤りが見つかることもあります。取り戻せる額と、かかる手間や影響を天秤にかける判断が必要です
まとめ
- 平均課税は、跳ねた年の税率のジャンプをならす制度。対象は原稿料・印税・著作権使用料などの「変動所得」で、同人誌の直接頒布やグッズ売上は当たらないと考えるのが基本です
- 「前の2年に比べて今年だけ大きい」形が要件。売上が大きく増えた年、開業2〜3年目あたりがいちばん効き、跳ねた状態が続くとやがて使えなくなります
- 使い忘れていても、過去5年分は更正の請求で取り戻せる可能性があります。ただし立証するのは納税者側ですので、当時の資料を揃え、区分し直す手間がかかります
現実的な第一歩は、過去の申告書を引っ張り出し、その年の収入の内訳を「原稿料・印税・著作権使用料」とそれ以外に分けてみることです。
あわせて、契約書と支払調書、入金明細が手元に残っているかも確認してみてください。それだけで、使えるかどうかの見当はおおよそつきます。
