前回、税務調査で「何を見られるか」という話をしました。今日はその手前、「税務調査は、当日より前で勝負が決まる」という話です。
「税務署から連絡が来た」と聞くと、多くの方は当日のやり取りを想像します。何を聞かれるのか、うまく答えられるのか、と。
ただ実務の感覚でいえば、結果を左右しているのは当日のアドリブではありません。連絡が来てから当日を迎えるまでの、準備の期間です。怖がる前に、まず準備の全体像を持っておきましょう。
税務調査には「準備できる期間」がある
まず押さえておきたいのは、個人・法人の一般的な税務調査は、基本的にある日突然やってくるものではないということです。(査察案件や無予告調査を除きますが、これらはいま非常にまれです)
原則として事前に「事前通知」があります。通知では、調査を行う日時と場所、対象となる税目、対象期間(年分)、調査の目的といった項目が伝えられます。
全体の流れは、おおむね次のとおりです。
事前通知 → 準備・事前相談 → 調査当日 → 指摘事項・見解のすり合わせ → 修正申告 または 是認
つまり、通知から当日までの間には、必ず準備のための時間があるということです。ここを使えるかどうかが、最初の分かれ道になります。
日程についても、業務の都合など合理的な理由があれば変更を申し出ることができます。
「来週です」と言われて慌てて受けるより、少し余裕のある日程に調整して準備に充てるほうが、結果的に有利に働くことが多いはずです。
なお、現金商売の一部などでは無予告の調査もありますが、多くはこの流れをたどります。
事前相談で整える3つのこと
では、準備期間に何をするのか。税理士と行う事前準備は、大きく3つに整理できます。
① 書類の点検
帳簿・請求書・領収書・通帳・契約書・在庫記録などを対象年分の揃え、抜けや不整合を先に洗い出します。事前の資料準備はとても大事です。もし必要な書類がない場合にはどのように対処するかも含めて検討します。
② 想定問答の整理
対象年分で論点になりそうな箇所——現金売上の計上、経費の私的按分(自宅家賃や車両費など)、期末在庫の計上といったところ——をあらかじめ予想し、「どう説明するか」を事前に固めておきます。
裏づけとなる資料とセットで用意できていれば、当日の説明は驚くほど短く済みます。
③ 当日の心構えの共有
アドリブで答えない。分からないことは即答せず「確認のうえ後日回答します」と持ち帰る。聞かれていないことまで話さない。この3つを事前に共有しておくだけでも、当日の空気はずいぶん変わります。
そして、顧問税理士がいない方も、調査の連絡が来た段階からスポットで税理士に立ち会いを依頼できるケースがあります。「顧問がいないから自分ひとりで受けるしかない」と抱え込む必要はありません。
税務調査が来てからだと対応としては後手に回ってしまいできることがかなり限られますので早めのご相談が安心です。
いちばん大きい差は、指摘される前に“自主的に直す”こと
準備を進める中で、自分の申告の誤りに気づくことがあります。実は、ここが事前相談のいちばん価値の大きい場面です。
同じ誤りでも、調査官に指摘されてから直すのと、指摘される前に自主的に修正申告するのとでは、加算税の重さが変わるからです。
過少申告のケースでいえば、調査で更正を予知した後の修正申告には、過少申告加算税が10%(一定額を超える部分は15%)課されます。
一方、事前通知の後であっても、更正を予知する前に自主的に修正申告した場合は5%(同10%)に軽減されます。さらに、事前通知が来る前に自主的に直していれば、過少申告加算税は課されません。
金額が大きくなるほど、この差は無視できません。「隠す」より「先に直す」ほうが、金銭的にも心理的にも軽く済むことが多いのです。
ただし、何をいつ、どこまで直すべきかの判断は単純ではありません。明らかな誤りなのか、見解の相違の範囲なのか。直すとして、どの年分まで遡るのか。ここは、事前相談で税理士と詰める価値がもっとも大きいところです。
まとめ
- 税務調査は当日のアドリブ勝負ではなく、事前通知から当日までの準備で結果が決まる
- 整えるのは「書類・想定問答・心構え」の3つ
- 顧問税理士がいなくても、スポットで立ち会いを依頼できる
- 最大のポイントは、指摘される前に気づいた誤りを“自主的に直す”こと
現実的な第一歩は、調査の連絡が来たら、日程を調整してでも早めに税理士に相談することです。準備の時間は、こちらから作ることができます。
