青色申告をしているのに、特別控除が「10万円」のまま——漫画家さん、同人作家さん、イラストレーターさんのご相談で、実はとても多いケースです。
本来なら65万円まで取れるのに、要件を一つ満たしていないだけで10万円に下がっている。控除の差額は「所得から引ける金額」の差なので、そのまま税金の差になります。
しかも、2027年(令和9年)分から青色申告特別控除のルールが変わります。
最大75万円への引き上げが話題になりがちですが、10万円で止まっている方、あるいは紙で申告している方にとっては「55万円控除がなくなる」ことのほうが、地味に、でも確実に効いてきます。
今日は、なぜ10万円で止まるのか、改正で何が変わるのか、どうすれば上げられるのかを、順を追って整理します。
1. 10万・55万・65万・75万は何が違うのか
青色申告特別控除は「青色にした=65万円」ではありません。帳簿の付け方と、申告書の出し方で段階が決まります。現行制度と、2027年分からの改正後を並べるとこうなります。
| 帳簿・申告の方法 | 〜2026年分(現行) | 2027年分〜(改正後) |
| 複式簿記+期限内にe-Tax+優良な電子帳簿(または一定のデータ連携) | 65万円 | 75万円 |
| 複式簿記+期限内にe-Tax | 65万円 | 65万円 |
| 複式簿記+紙で期限内に提出 (優良な電子帳簿あり) | 65万円 | 10万円 |
| 複式簿記+紙で期限内に提出 | 55万円 | 10万円 |
| 簡易簿記(単式) | 10万円 | 10万円(前々年の収入1,000万円超は0円) |
| 期限後申告 | 10万円 | 10万円 |
※令和8年度税制改正により、令和9年(2027年)分以後の所得税から適用。2026年分(2027年2〜3月に申告するもの)はまだ現行ルールです。
ポイントは色をつけた2行です。改正後は「紙で出す」だけで、複式簿記をきちんとつけていても10万円に下がります。いま55万円を受けている方は、何もしなければ控除が45万円減ることになります。
ご自身がいまどの段階かは、昨年の確定申告書の控えで確認できます。青色申告決算書(損益計算書)の「青色申告特別控除額」の欄を見てみてください。そこが10万円なら、以下のどこかでつまずいています。
2. 10万円で止まる“よくある原因”
- 複式簿記でつけていない。売上と経費を並べたお小遣い帳のような記帳(簡易簿記)の場合、上限は10万円です。
- 複式簿記でつけているのに、貸借対照表を添付していない。損益計算書だけ出していると、55万・65万の要件を満たしません。
- 申告期限を過ぎてしまった。期限後申告になると、帳簿が完璧でも10万円です。締切直前に原稿の〆切が重なって……というのは、クリエイターの方に本当によくあります。
- クラウド会計を入れたのに、使いこなせていない。ソフトは契約したものの、結局入力が追いつかず、最後は手計算の数字で申告している——というケースです。
3. 2027年からの改正で「地味に効く」こと
55万円控除がなくなり、e-Taxが事実上の必須に
これまでは「複式簿記+紙の申告」で55万円が取れました。e-Taxに抵抗がある方でも、紙のままそこそこの控除を受けられたわけです。
改正後はこの区分がなくなり、65万円以上を受けるには期限内のe-Tax(電子申告)が必須になります。
結果として、会計ソフトを使う人が大半になる
e-Taxで貸借対照表・損益計算書まで送信するには、手書きの帳簿やExcelの集計表から毎回手で転記するのは現実的ではありません。
複式簿記の帳簿を作り、決算書を出し、そのままe-Taxにつなげる——この流れを考えると、会計ソフト(freeeなどのクラウド会計や、確定申告ソフト)を使うのが前提になってきます。
つまり、これまで「紙でも55万円取れるから」とソフトを使わずに済ませてきた方も、2027年分からは会計ソフト+e-Taxの体制に切り替えないと、控除が10万円まで落ちます。
制度の見出しは「75万円に引き上げ」ですが、多くの方にとって本当の影響はこちらです。
4. 65万円に上げるための段取り
「来年からいきなり全部」は挫折のもとです。次の順番で、一つずつ整えていきましょう。
- 会計ソフトで複式簿記の状態を作る。銀行口座や事業用カードをソフトに連携させ、明細を取り込んで仕訳する形にすると、日々の入力がぐっと楽になります。
- 貸借対照表まで出せる状態にする。期首の残高(開始残高)を正しく入れておくことが前提です。ここがずれていると、年末に貸借が合わなくなります。
- e-Taxの準備をしておく。マイナンバーカードとスマートフォン(またはICカードリーダー)があれば、会計ソフトから直接送信できるものがほとんどです。
- 期限内に送信する。3月15日を過ぎると10万円です。原稿スケジュールと重ならないよう、2月中の送信を目標にしておくと安心です。
いまが2026年10月ということを考えると、2026年分は現行ルールで申告しつつ、年内に会計ソフトとe-Taxの環境を整え、2027年1月1日から新しい体制で記帳を始めるのが一番スムーズな流れです。
5. 75万円は「記帳のペース」で決める
では、みんな75万円を目指すべきかというと、そうとは限りません。
75万円控除には、65万円の要件に加えて「優良な電子帳簿」として帳簿を保存すること(または請求書データ等との一定の自動連携)が求められます。
ここで大事なのが、優良な電子帳簿は「その年の初めから備え付けて、取引を順次記録していく」ことが前提だという点です。取引の入力は、遅くとも最長2か月程度のサイクルで行っていく必要があります。
- 年に一度、確定申告前にまとめて入力する方は、75万円の対象外と考えてください。会計ソフトが優良な電子帳簿に対応していても、使い方が要件を満たしません。
- 少なくとも2か月に1回、できれば毎月入力する記帳スケジュールを回せる方が、75万円の対象になります。
- 年の途中から切り替えても、その年は75万円になりません。狙うなら1月1日スタートで準備が必要です。
一方で、〆切前は何週間も帳簿に触れない、イベント前後はそれどころではない——という方も多いと思います。こまめな記帳が難しいなら、無理に75万円を狙わず、65万円を確実に取りにいくので十分です。
金額で比べると判断しやすくなります。所得税と住民税を合わせた税率が20%の方の場合(国民健康保険料などへの影響は別)、目安は次のとおりです。
- 10万円 → 65万円:控除が55万円増え、税金はおよそ11万円軽くなります。
- 65万円 → 75万円:控除が10万円増え、税金はおよそ2万円軽くなります。
最優先は「10万円から65万円へ」の一段目です。75万円は、毎月の記帳が苦にならない方がプラスアルファで狙うもの、という位置づけで考えるのがおすすめです。
6. 途中でつまずきやすいポイント
- 開始残高:会計ソフトを使い始める年の1月1日時点の預金残高や、事業主貸・事業主借の扱いで迷う方が多いところです。最初に正しく入れておけば、あとが楽になります。
- 事業用と生活用の区別:画材や資料用の書籍、サブスク、同人誌の在庫など、仕事と私用が混ざりやすいのがクリエイターの特徴です。事業用の口座・カードを分けておくと、連携したときの仕訳がぐっと整理されます。
- 期限:どんなに帳簿を整えても、期限後申告なら10万円です。最後の一手を落とさないようにしましょう。
まとめ
- 10万円で止まっているのは、たいてい「制度を知らない」か「あと一手が抜けている」だけです。
- 2027年分からは55万円控除がなくなり、紙で申告すると10万円に。65万円以上には期限内のe-Taxが必須となり、会計ソフトの利用が事実上の前提になります。
- 複式簿記 → 貸借対照表 → e-Taxで期限内、の順に整えれば、まず65万円に届きます。
- 75万円は、最長でも2か月ペースで記帳できる方向け。年一入力の方は対象外なので、こまめな記帳が難しければ65万円で十分です。
まずは、昨年のご自身の申告がどの要件でつまずいていたかを確認するところから始めてみてください。
