「同人の売上も、商業の原稿料と同じように考えればいいんですか?」――ご相談の中で、よくいただく質問です。
同人作家さんのご相談を受けていると、税務の答えより先に、業界の仕組みを知っているかどうかで話の通じ方が変わると感じます。同業の税理士から「同人のことはよく分からなくて」と聞かれることもあります。
そこで今回から、クリエイティブ業界をお金の流れから観察するシリーズを始めます。1本目は同人作家です。市場の特徴とお金の動き方を追っていくと、税務で気をつけるところが自然に見えてきます。
同人という市場――税理士の目にはどう見えるか
まず目につくのは、取り分の大きさです。自分で作って自分で売るので、売上のうち手元に残る割合は、商業出版の紙の本の印税率(一般に1割前後と言われます)よりずっと高くなります。
DL販売(電子印税)でも、プラットフォームの手数料を引いたあとの取り分はかなり大きいです。(プラットフォームにもよりますが高いところですと6~7割)
次に、商業と同人を行き来する作家さんが多いことです。商業誌の連載で疲れてしまい、場所を替えて同人に来る方もいれば、同人で売れてから商業の仕事が来る方もいます。
どちらの場合も、収入の種類が変わる「移行の年」に、税務のご相談が増えます。
商業誌でスタートして連載継続のハードさなどで気力体力ともに落ちて疲れてしまい、しばらく休んで同人作家のほうに切り替える、ということも見聞きします。
反対に同人作家からキャリアをスタートして、商業誌の連載(スマホコミックなど含む)を並行するということもあるようです。
そして、担当編集がいないことは商業誌連載との大きな違いです。
締切も品質もお金の管理も、すべて自分で決めて自分で回す、自律と自立が求められる世界です。経理が後回しになりやすいのは、誰にも言われないからでもあります。
成人向けの市場も大きく、売上が大きく伸びる作家さんもいます。一方で、始める人もやめる人も多く、年間でもキャリアのなかでも売上の波は大きめです。プラットフォームの規約変更などで、売り場そのものが変わることもあります。
お金は「先払い・後入金」――売り方ごとに入る時期が違う
同人の1年は、夏と冬の大型即売会や、ジャンルごとのオンリーイベントを軸に回ります。入稿、印刷、頒布、委託・通販、再販というサイクルです。
印刷代は先に出ていき、売上はあとから入ってきます。しかも入金の時期は、売り方によって違います。
| 売り方 | 入金の時期 | 主な手数料 |
| イベントでの頒布 | その場 | キャッシュレス決済の手数料 |
| 書店委託(メロンブックス等) | 精算まで数か月かかることも | 委託手数料 |
| 通販(BOOTHなど) | 注文ごと | 決済・システム手数料 |
| DL販売(FANZA、DLsite等) | 月締めで翌月以降 | 販売手数料 |
| 支援サイト(pixivfanboxなど) | 月額で毎月 | サービス手数料 |
手数料を差し引かれて入金される場合は、売上を総額で計上し、手数料を経費にするのが原則です。プラットフォームごとの整理の仕方は、こちらにまとめています。
▶ 関連記事:同人・DL販売・支援サイトの売上を、どう整理するか――プラットフォームごとの入金と、申告でまとめるときの考え方

税務が交わる4つの点――年またぎ・在庫・波・行き来
お金の流れを追っていくと、税務と交わる点は4つに集まります。
1つ目は、年をまたぐときです。年末のイベントでは、印刷代も頒布の売上も12月に出ますが、書店委託の精算は翌年に入ってきます。入金が翌年でも、売れた年の売上として計上するのが原則です。
▶ 関連記事:ご依頼をいただいたとき、最初に確認すること〈売上編〉――計上もれ・ダブり・期ズレ・支払調書
2つ目は、在庫が残るときです。刷った年と売れる年は、たいていずれます。年末に残っている在庫の分は、その年の経費にはなりません。
▶ 関連記事:棚卸し漏れと経費率の異常――税務調査に選ばれやすい申告の特徴
3つ目は、売上の波が大きいときです。売上が跳ねた年の翌年は、予定納税(前年の税額をもとに、所得税の一部を前もって納める仕組み)や住民税が重くのしかかります。波の大きい市場ほど、納税資金を取り分けておきましょう。
▶ 関連記事:漫画家・同人作家の「収入の柱」の考え方――一本足から複数の柱へ、税務から見たリスク分散
4つ目は、商業と同人を行き来するときです。商業の原稿料や印税は、平均課税(収入の波をならして税額を計算する制度)の対象になりえますが、同人誌を自分で頒布した売上は対象になりません。移行の年は、収入の種類ごとに分けて見ておくことが大切です。
▶ 関連記事:跳ねた年の税金を、平らにならす(変動所得の平均課税)
まとめ
- 同人は取り分が大きく、商業との行き来も多い市場です
- 担当編集がいない分、お金の管理も作品制作のスケジュールもすべて自分でコントロールする必要があります
- 同人誌の紙媒体の場合、お金は「先払い・後入金」で、入金の時期は売り方ごとに違います
- 税務が交わるのは、年をまたぐとき、在庫が残るとき、波が大きいとき、商業と行き来するときです
まずは、ご自身の1年のイベントと、売り方ごとの入金の時期を、カレンダーに書き出してみましょう。お金の地図が見えると、申告の準備もぐっと楽になります。
次回は、商業誌連載のお金の流れを観察します。
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