漫画家・同人作家の方から法人化のご相談をいただくときによくお伝えするのが、役員報酬設定の難しさです。
会社に残すにしても、個人の役員報酬を増やすにしても、そのバランスを取るのは非常に難しいケースが多いです。今回はその部分について少しお伝えしてみます。
役員報酬の基本的な内容
ご自身で制作した作品を法人でリリースし、法人で収益を受け取りますので、法人からそれに見合った役員報酬を受け取ることが可能です。
この部分があるため、所得税の節税をしたいと考える人は法人化を検討するケースが多いです。
ただ、役員報酬については基本的な事項を押さえておいた方が良いので、先に触れておきます。
役員報酬を決めるタイミングは、基本的に決算が終わって申告のタイミングです。法人の場合は、申告をする際に「決算確定」という株主総会での決議を経て決算の内容を確定させます。
作家本人が役員でもあるため、ここで決めます。ですので、役員報酬を決めるタイミングは事業年度に1回というのが基本です。
また、金額の上げ下げはもちろん途中でやろうと思えばできるのですが、法人税の計算上は経費にならないケースもありますので、その点は注意が必要です。
さらに、役員報酬からは所得税だけではなく、住民税と社会保険料も天引きされます。
役員報酬から天引きされる社会保険料(健康保険料+厚生年金保険料)については、法人側からもほぼ同額を負担することになります。
見かけ上は天引きされた社会保険料だけを負担しているように見えますが、法人からも負担しています。
ほぼ同額ということは、役員報酬に対して天引きされる金額のほぼ2倍の社会保険料がかかっていると考えてもらって良いです。
また、事前確定届出給与を活用するケースもあるかと思いますが、漫画家・同人作家の方だと難易度が上がるケースが多いです。
難易度が上がる要素
役員報酬の金額設定の難しさは一般的な中小企業でも同じですが、漫画家・同人作家の方特有の問題もあります。
それは法人化を行った時の問題に近いので、ここでは難易度が上がる要素について少し触れておきます。
1. 売上金額の上下動が激しい
一般的な中小企業でも起こり得ることですが、漫画家・同人作家の場合は特に作品のリリースのペースが落ちてくると低空飛行になってしまうケースが多いです。
作品を出して1ヶ月、長くても2〜3ヶ月ほどで売上は自然と落ちてくるケースが多いです。リリースが何らかの事情で遅れると、収益の見込みがどんどん遅くなり、少なくなります。
2. 社会保険料の負担が大きい
役員報酬は1年間基本的に定額になります。先ほどお伝えしたように、天引きされる社会保険料に加えて法人側からも社会保険料を負担しますので、固定費としてはかなり上がるケースが多いです。
年間の社会保険料は最大で300万〜360万円ほどになりますので、個人事業主のままで文芸美術国保と国民年金で50万円前後になるケースと比べると、かなりの差があります。
そういったことを見越した上で役員報酬を決定するという難しさがあります。
また、役員報酬を増やすほど所得税ももちろん上がっていきますので、どのくらいの割合で法人に残すか、また個人で役員報酬として取るかというバランスを取るのが非常に難しくなります。
3. 法人側でどれくらい残したいか
中小企業の場合は事業承継などを見越してある程度会社にお金を残しておきたいというニーズが大きいです。
一方で法人化した漫画家・同人作家だと、基本的にはその法人を誰かが引き継ぐということは考えづらいので、ご自身だけで完結する形を考える必要が出てくるケースが多いです。
そうなると、どれくらい会社に残しておきたいか、役員報酬をいくらに設定するか、退職金を設定するのかなど、いろんな要素がさらに複雑に絡み合ってきます。
まとめ
節税を目的にした法人化にしてしまうと、このあたりのバランスが崩れ始めたときに「やっぱりやめておいた方が良かった」ということになりかねません。
ですので、安易に法人化を勧めるつもりもありませんし、漫画家・同人作家の場合は文芸美術国保によって社会保険料を低く抑えられるというメリットは大きいです。
その点を考慮して、法人化を行うかどうかは慎重に判断することをおすすめします。
