「家族に手伝ってもらっている」——その処理、正しくできていますか
売上が増えてきた漫画家・同人作家のかたからよく聞くのが、「一人では回らなくなってきた」というお話です。
配偶者にグッズの発送や在庫管理を頼んでいたり、コミケの搬入を親御さんに手伝ってもらっているというケースは珍しくありません。
そのとき「家族だからお金を払わなくていい」「払っても経費にはならない」と思っているかたが多いのですが、これは必ずしも正しくありません。
正しく処理すれば節税につながりますし、逆に誤った処理をしていると税務調査で指摘されるリスクがあります。今回はこの点を整理してみます。
まず整理する——家族への報酬が経費になる場合・ならない場合
原則:家族への給与は経費にできない
所得税法上、生計を一にする親族への給与は、原則として必要経費に算入することができません。
「実際にお金を払っているのに経費にならない」という状況が生まれるのはこのためです。家族間のやり取りは経費として認めないというのが原則の考え方です。
例外:青色事業専従者給与は経費にできる
ただし、一定の条件を満たせば経費にすることが可能です。それが「青色事業専従者給与」の制度です。
青色申告をしていること、そして事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していることが条件になります。
届出に記載した金額の範囲内であれば、支払った給与を全額経費として計上することができます。
注意点としては「専ら事業に従事している」という条件があることです。
配偶者が他に仕事を持っている場合には、原則として専従者として認められません。実態として事業に専念しているかどうかが問われます。
白色申告の場合:専従者控除
青色申告をしていないかたの場合には、「専従者控除」という制度があります。こちらは届出が不要で、配偶者であれば最大86万円、その他の親族は最大50万円を控除できます。
ただし、青色申告の専従者給与と比べると控除額が小さくなるケースが多く、また給与の金額を自分で設定できません。
「白色から青色に切り替えることで専従者への給与を経費として最大限活用できる」という点は、青色申告に切り替えるメリットの一つとしてお伝えしています。
青色事業専従者給与を使うときの注意点
届出の期限と記載内容
青色事業専従者給与の届出には期限があります。事業を開始した年であれば開始から2か月以内、それ以外は適用したい年の3月15日までに提出が必要です。
年の途中で専従者がいることとなった場合にはその日から2か月以内の届け出となります。
届出には氏名・職務内容・給与の金額・支給時期を記載します。届け出た金額を超えて支払っても、超過分は経費として認められませんので、給与額の設定は慎重に行う必要があります。
「労務の対価として相当な金額」という条件
専従者給与として認められるには、同じ業務を他人に頼んだ場合の相場と比べて著しく高い金額でないことも注意点のひとつです。
実際にどんな仕事をしているかを日頃から記録しておくことは、税務調査対策として有効です。
コミケの搬入・グッズ発送・在庫管理・SNS管理など、業務内容を具体的に整理しておくとよいでしょう。
配偶者が専従者になると配偶者控除が使えなくなる
専従者給与を支払うと、配偶者控除・配偶者特別控除は適用できなくなります。この点はよく見落とされるところです。
「専従者給与を払う節税効果」と「配偶者控除を失う損失」を比較して、どちらが有利かを検討することが必要です。給与額が少ない場合には、配偶者控除を残したほうが結果的に有利になるケースもあります。
どちらが有利かは所得の状況や給与額によって変わりますので、一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
家族への報酬を「外注費」として払うケース
生計を別にしている親族への外注費
別居している兄弟や実家の親など、生計が独立している場合には「生計を一にする親族」には当たりませんので、外注費として経費計上することができます。
ただし「外注か給与か」の判断は、第三者への外注と同じ基準で行います。指揮命令下に置いている・専属的に働いてもらっているといった実態がある場合には、給与と認定されるリスクがあります。
源泉徴収の必要性
生計別の親族への報酬が外注費として認められる場合でも、源泉徴収が必要なケースがあります。
原稿料・デザイン料等の性格がある報酬は源泉徴収の対象になります。「家族だから源泉徴収しなくていい」という誤解が多いですが、家族かどうかと源泉徴収の要否は別の話です。
ただし外注費を支払う本人が源泉徴収義務者の場合に限ります。そもそも源泉徴収義務者ではないという場合には源泉徴収の必要はありません。
無償で手伝ってもらっている場合のリスクと機会損失
無償で手伝ってもらうこと自体に、税務上のリスクはありません。
ただし節税の機会を逃している可能性があります。配偶者が実質的に事業を支えているのであれば、専従者給与の制度を活用することで所得を分散できる可能性があります。
「お金のやり取りをしたくない」「面倒くさい」という理由で手続きをしていないうちに、毎年少しずつ節税の機会を失っているケースは少なくありません。
こういった相談でお客様からよく聞くのが「そういう方法があるとは知らなかった」というお話です。
ただ、家族同士で同じ船に乗っているとも言えますので所得を分散する、リスクマネジメントで、ということであれば無理をして給与の支払いをする必要はありません。
状況に応じて検討していただくのがよいでしょう。
まとめ——家族を巻き込んで事業をするなら最初に仕組みを作る
青色申告をしていないかたは、まず青色申告への切り替えを検討してみてください。青色専従者給与や各種特典の活用に必要な前提条件になります。
専従者給与を使う場合は届出の期限を必ず確認してください。
「払っているのに経費にならない」という状況は、事前の手続きによって防ぐことができます。
