「原稿料から源泉徴収で引かれているので、確定申告はしなくていいですよね?」——ご相談でとても多い質問です。
結論から申し上げると、これは危ない勘違いです。無申告の入口になりやすく、しかも損をしていることが少なくありません(引かれすぎた分が戻ってこない)。
この記事では、原稿料・印税・イラスト料から引かれている源泉徴収が確定申告でどう精算されるのかを整理し、あわせて「無申告のまま放置すると何が起きるのか」までお伝えします。
責める話ではなく、足元を確認して、損も追徴も避けるための話として読んでいただければと思います。
1.そもそも源泉徴収は、何を「前払い」しているのか
原稿料・印税・イラスト料などを支払う側(出版社・企業)は、報酬から一定率を差し引いて国に納めています。これが源泉徴収です。
率は原則として10.21%(1回の支払額のうち100万円を超える部分は20.42%。いずれも復興特別所得税を含みます)。
ここで押さえていただきたいのは、これはあくまで「あなたの所得税の前払い」であって、「これで納税が完結した」わけではないという点です。
会社員の給与であれば、勤務先が年末調整で1年分を精算してくれます。しかしフリーランスの報酬には、精算してくれる人がいません。自分で確定申告をして精算する必要があります。
つまり、正しい理解はこうなります。
- ×「引かれている=申告不要」
- ○「引かれている=あとで自分で精算する」
2.申告しないと「損」——戻ってくるはずのお金
源泉徴収は、報酬の額に対して一律に引かれます。つまり、経費を引く前の金額がベースです。
一方、実際の所得税は「売上−経費」で計算した所得をもとに決まります。そのため、先に引かれていた源泉徴収の合計額のほうが、本来納めるべき税額より多くなっているケースは珍しくありません。この差額は、確定申告をすれば還付されます。
とくに次のような年は、還付が出やすくなります。
- 資料費・画材費・アシスタント代・通信費などの経費が多かった年
- 収入が少なめだった年、休載や制作準備で稼働が落ちた年
「申告しなくていい」と思って放置している方は、本来戻るはずのお金を取りこぼしている可能性があります。
前回の記事でご紹介した平均課税のように、所得税そのものを下げる打ち手と組み合わせれば、精算のメリットがさらに大きくなることもあります。
確定申告は「取られる手続き」ではなく、「戻ることもある精算手続き」です。
3.申告しないと「危ない」——追徴と無申告の入口
逆に、源泉徴収されていても、それだけでは足りないケースもあります。ほかに源泉徴収されていない収入がある場合や、所得が大きい場合には、確定申告で追加の納税が必要になります。
そして、最も注意していただきたいのが、収入の種類が混ざっている方です。
- 源泉徴収される収入……出版社からの原稿料、印税、企業からのイラスト料・キャラクターデザイン料 など
- 源泉徴収されない収入……同人誌の直接売上、イベント売上、ダウンロード販売、グッズ販売、支援サイト・投げ銭の収入 など
後者は、源泉徴収がありません。つまり申告しなければ、丸ごと申告漏れになります。
「原稿料は引かれているから大丈夫」と思っていたら、同人誌やDL販売の売上がまったく申告されていなかった——これは実際によくあるパターンです。
自分の収入のうち、源泉されているもの・されていないものを仕分けること。これが、無申告を防ぐ最大のポイントです。
4.無申告のダメージは、税金だけでは終わらない
ここからは、あえて厳しい話をします。無申告のまま時間が経つと、負担は雪だるま式に膨らみ、その影響は税金の枠を超えていきます。
(1) 税金そのものが重くなる
本来納めるべき税金(本税)に加えて、無申告加算税が課されます。さらに、売上を隠す・帳簿を偽るといった仮装隠蔽があったと判断されれば、重加算税という最も重いペナルティの対象になります。
加えて、納付が遅れた期間に応じた延滞税もかかります。ここに消費税が絡めば、負担はさらに大きくなります。
(2) 悪質と判断されれば、刑事事件になりうる
無申告は、税法上「犯罪」として処罰の対象が定められています。単純な無申告のほか、不正な手段で税を免れたと判断されれば、拘禁刑や罰金といった刑事罰の対象になります。
起訴されて有罪判決を受けた場合、罰金は本税・加算税・延滞税とは別に科されます。つまり、二重三重の負担です。
実際に検挙されるのは悪質と判断されたケースが中心ですが、「まさか自分が」と考えている方ほど、放置している期間が長くなりがちです。
(3) 作家活動そのものへの影響
そして、クリエイターの方にとって見過ごせないのが、税金以外の影響です。
- 報道されれば、作家名・作品名とともにインターネット上に残り続ける
- 出版社・製作委員会・スポンサーとの信頼関係が損なわれる
- アニメ化・ドラマ化・ゲーム化などメディア展開が進んでいる作品ほど、関係する企業が多く、影響が広い範囲に及ぶ
- 連載の打ち切り、企画の中止、放送・配信・イベントの見合わせといった判断がなされる可能性
- 契約の内容によっては、中止に伴って生じた損害の賠償を求められる可能性も否定できない
作品が大きくなるほど、周囲に関わる人と会社が増えます。無申告という個人の問題が、作品全体を巻き込むリスクに変わってしまう。ここが、他の業種以上に注意していただきたい点です。
節税になるどころか、無申告にはいいことが何一つありません。
一方で、期限を過ぎていても、税務調査で指摘される前に自主的に申告すれば、ペナルティは軽くなります。気づいた時点が、いつでも一番早いタイミングです。
まとめ
- 源泉徴収は「所得税の前払い」。引かれていても、確定申告で精算するのが原則
- 経費を引いた実際の所得で計算すれば、還付になることも多い(申告しないと取りこぼす)
- 源泉されない収入(同人誌の直接売上・DL販売など)が混ざっている人は、申告しないと丸ごと漏れて無申告になる
- 無申告が発覚したときの負担は、本税+加算税+延滞税にとどまらず、刑事罰や作家活動そのものにまで及びうる
- まずは「自分の収入のうち、源泉されているもの・されていないもの」を仕分けてみることが、現実的な第一歩
源泉徴収されている収入とそうでない収入が混在していて不安な方、何年か申告していない状態が続いている方は、スポット相談もご利用ください。まずは状況を整理して、いまできる現実的な選択肢をご案内します。
