「同人ゲームが想像以上に売れました」「夏のイベントで完売しました」——この時期、うれしいご報告をいただくことが増えます。
ただ、そのすぐあとに続くことが多いのが、「これ、税金どうなるんでしょう?」というご相談です。
まとまった売上が入ったときは、気持ちが浮つくと同時に、お金まわりを一度きちんと見ておくべきタイミングでもあります。
今回は、売れた「今」がなぜ税理士に相談する良いタイミングなのかを、宣伝としてではなく、つまずく前に足元を見る話として整理します。
なぜ「売れた今」が相談のタイミングなのか
税金や社会保険の負担は、売れた年ではなく翌年に遅れてやってきます。だからこそ、お金が入った今のうちに手を打っておくと間に合います。
実際にご相談が集中するのは、確定申告の直前である2〜3月です。しかしその時期に来ていただいても、話せるのは「もう終わった1年」のことだけです。打てる手はどうしても少なくなります。
そしてもうひとつ、締切間際の申告には見落としの落とし穴があります。ギリギリの作業になると、使えたはずの特例まで手が回らないのです。
数字を入力して申告書を出すだけで精一杯になり、有利な計算方法を検討する余裕がなくなる。後述する平均課税などは、その典型例です。
単発の大ヒットで所得が一気に跳ねやすい同人ゲームクリエイター・同人作家の方こそ、この「波」への備えを早めに始める価値があります。
売上が跳ねた年に、確認しておきたいこと
1. 売上の計上タイミングがズレていないか
意外と多いのが、この論点です。所得税では、売上は入金した日ではなく、売上が確定した日で計上するのが原則です。
同人系のプラットフォームは、月末締めの翌月払いというサイクルが一般的です。つまり12月に確定した売上が、入金されるのは翌年1月。
入金ベースで記帳していると、この分がまるごと翌年にずれ込みます。売上が跳ねた年ほど、ズレる金額も大きくなります。
また、支払調書をお持ちの方は注意が必要です。支払調書はその年に実際に支払われた金額をまとめたものなので、帳簿上の売上と一致しないのがむしろ普通です。
支払調書の合計をそのまま売上として申告してしまうと、正しい数字からずれてしまいます。年またぎの部分をどう処理するかは、一度整理しておく価値があります。
2. 経費の取りこぼしがないか
制作の外注費、素材・ツールの購入費、機材、イベント参加費、通信費や家賃の按分。
売上が大きい年ほど、経費を正しく計上できているかで手残りが変わります。外注費については、源泉徴収が必要なケースがないかもあわせて確認したいところです。
3. 平均課税を使える所得がないか
所得税には「平均課税」という制度があります。原稿料や著作権使用料、印税といった変動所得が大きく増えた年に、増えた分を数年に分けたかのように税率を計算し、累進課税の負担をやわらげる仕組みです。
おおまかには、変動所得と臨時所得の合計が総所得金額の20%以上あり、直前2年の平均を超えて増えている場合に検討対象となります。
ここで大事なのは、この特例は自動では適用されないという点です。
確定申告書に適用を受ける旨を記載し、計算書を添付してはじめて使えます。だからこそ、締切に追われた申告では見落とされやすく、実務でも適用漏れをよく見かけます。
4. 消費税のラインと、「2割特例」の終了
売上が1,000万円を超えると、原則としてその2年後から消費税の課税事業者になります。これは以前からの原則ですが、今年はもうひとつ大きな節目があります。
インボイス登録をきっかけに課税事業者になった方が使ってきた「2割特例」(納付税額を売上にかかる消費税額の2割にできる制度)が、個人事業者は令和8年分=今年の申告で終了します。
その後継として、令和8年度税制改正で「3割特例」になりました。納付税額を売上にかかる消費税額の3割で計算できる制度で、令和9年分・令和10年分の申告が対象です。主な要件は次の3つで、法人は対象外とされています。
- 個人事業者であること
- 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること
- インボイス発行事業者の登録を受けていること
ここで、今年の数字が効いてきます。令和10年分の基準期間は令和8年、つまり今年です。
今年の課税売上高が1,000万円を超えると、令和10年分は3割特例が使えず、原則課税か簡易課税で申告することになります。跳ねた年の数字が、2年後の申告のやり方と納税額を左右するわけです。
なお、2割特例・3割特例を使った翌年に簡易課税へ移る場合の届出期限は、その年の申告期限までに後ろ倒しされました。数字が出てから選べるようになった点は、実務上ありがたい改正です。
(出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」インボイス経過措置の見直し等)
5. 来年の負担見込みと、法人化の分岐
所得が跳ねると、翌年の所得税・住民税・国民健康保険料もそろって跳ねます。さらに、一定額以上になると予定納税も加わります。
金額の目安などを先に知っておくだけで、対応はずいぶん変わります(このあたりは8/7公開の動画で詳しくお話しします)。
納税資金を、先に分けておく
そのうえで、いちばん現実的で効果の大きい備えがこれです。どれくらいの税金がかかるかを事前に確認し、その分のお金を手をつけない場所に置いておくこと。
口座に入っている金額は、残念ながら全額が自分の取り分ではありません。所得税・住民税・国民健康保険料、場合によっては消費税。
合わせると、利益に対して相応の割合が出ていきます。しかもこれらは、売れた年ではなく翌年に、時期をずらして順番に請求されます。
一番きついのは、入ったお金を使い切ったあとに請求が届くパターンです。金額の見込みが立っていれば、別口座に移しておくだけで防げます。
逆に言えば、見込みが立っていないと防ぎようがありません。だからこそ、跳ねた年のうちにざっくりでも試算しておく意味があります。
相談するなら、何を持っていくといいか
- 今年ここまでの売上がわかるもの(プラットフォームの管理画面、入金明細)
- 経費のわかるもの(会計ソフトの画面、レシートや領収書のまとまり)
- 去年の確定申告書(あれば。去年と比べてどれだけ跳ねたかがわかります)
完璧に整理してから来ていただく必要はありません。
「今いくら売れていて、何が不安か」がざっくり言えれば十分です。スポット相談で今年の見通しを一度立てておくだけでも、来年の慌て方はかなり変わります。
まとめ
まとまった売上が入った「今」は、確定申告の直前よりもずっと打てる手が多いタイミングです。見ておきたいのは次の5点です。
- 売上の計上タイミングにズレがないか(入金ベース・支払調書ベースの落とし穴)
- 経費の取りこぼしがないか
- 平均課税など、使える特例がないか
- 消費税の1,000万円ラインと、2割特例から3割特例への切り替わり
- 来年の負担見込みとおいておくべき金額の確認
そして、税額の見込みを立てて納税資金を先に分けておくこと。現実的な第一歩は、売上と経費のわかる画面を開いて「今年ここまでの数字」をざっと把握することです。そのうえで不安があれば、一度ご相談ください。
