孫への贈与は、子への贈与とは少し異なる論点があります。これまで定番だった教育資金の一括贈与が2026年3月末で終了したいま、孫世代へどう資産を渡していくか
暦年贈与、相続時精算課税、住宅取得等資金の贈与、そして来年から始まるこどもNISA。それぞれの使いどころと注意点を整理します。
1. 孫への贈与が「効果が高い」と言われる理由
孫への贈与が相続対策として語られるのは、財産が世代を飛び越えて移ることで、相続税の課税回数を一回減らせるからです。
通常、祖父母の財産は「祖父母→子→孫」と二段階で相続され、その都度相続税がかかります。これを「祖父母→孫」と直接渡せば、間にある一回分の課税を経由せずに済みます。
また、相続人ではない孫への贈与には、もう一つ見逃せない特徴があります。暦年贈与をした場合の「生前贈与加算」の対象になりにくい、という点です(詳しくは第3節)。
ただしその一方で、代襲相続人ではない孫が相続や遺贈で財産を受け取ると「相続税の2割加算」の対象になるなど、孫ならではの注意点もあります。
効果が高い反面、制度の選び方を誤ると思わぬ課税につながるため、ここからは制度ごとに整理していきます。
2. 【まず前提】教育資金の一括贈与は2026年3月末で終了した
これまで「孫への贈与」の代表格だった教育資金の一括贈与の非課税制度は、令和8年度税制改正大綱で延長されないことが確定し、2026年(令和8年)3月31日の拠出をもって新規受付が終了しました。
最大1,500万円(学校外の費用は500万円まで)を非課税で一括贈与できる制度でしたが、4月1日以降は新たに口座を開設して拠出することはできません。
制度が終了した背景には、利用が富裕層に偏り「格差の固定化につながる」との批判があったこと、幼児教育・保育の無償化や高校授業料の実質無償化など公的支援が拡充され、制度の役割が相対的に縮小したことがあります。
すでに口座を持っている家庭への影響:2026年3月31日までに拠出済みの資金は、終了後も引き続き非課税で使い続けられます。4月以降の払い出しも問題ありません。
ただし、資金を使い切る前に贈与者(祖父母)が亡くなった場合、一定の条件で管理残額が相続財産に加算される点や、受贈者が30歳に達した時点で残額に贈与税がかかる点は従来どおりです。
領収書の提出期限など、管理ルールも引き続き守る必要があります。
つまり、これから孫へ教育費を含む資産を渡したい家庭は、「教育資金の一括贈与」という選択肢を前提にできなくなりました。ここからは、いま使える代替手段を見ていきます。
3. 暦年贈与——孫に使うときの効果と「加算」の論点
暦年贈与は、年間110万円までの基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからない、最も基本的な制度です。複数の孫に毎年こつこつ渡していけば、長い時間をかけて無理なく財産を移すことができます。
教育資金として都度の支払い、例えば大学に入学するのに入学金を負担したり授業料を代わりに支払う、というのは扶養義務者からの贈与ですので贈与税の課税対象外です。
孫ならではのポイントは「生前贈与加算」です。相続人(子など)への暦年贈与は、相続開始前の一定期間分が相続財産に持ち戻されます。
この期間は令和5年度改正で3年から7年へ段階的に延長されており、令和6年1月1日以後の贈与から適用が始まっています。
一方、相続人でも受遺者でもない孫への贈与は、原則としてこの加算の対象になりません。ここに孫贈与の節税メリットがあります。
ただし注意点もあります。孫が遺言で財産を受け取る、祖父母が孫を生命保険の受取人にしている、孫が代襲相続人になっている——こうしたケースでは孫も加算の対象に含まれます。
「孫だから加算されない」と単純に考えず、その孫が相続でどう絡むかを確認しておくことが大切です。
4. 相続時精算課税——孫に使う場合の年齢要件と使いどころ
相続時精算課税は、累計2,500万円までの特別控除に加え、令和6年からは年110万円の基礎控除も使えるようになった制度です。
この年110万円の基礎控除分は相続時に持ち戻されないため、暦年贈与の代わりに少額をコツコツ渡す用途でも使われるようになりました。
孫に使う場合の年齢要件に注意。相続時精算課税を選択できるのは、原則として贈与者がその年の1月1日時点で60歳以上の父母・祖父母、受贈者が同じく18歳以上の子・孫である場合に限られます。
孫が18歳未満であれば、この制度は使えません。暦年贈与なら年齢を問いませんが、相続時精算課税には年齢の壁がある——この違いは押さえておきたいところです。
また、一度この制度を選ぶと同じ贈与者からの贈与について暦年課税には戻れません。まとまった金額を早めに渡したい場合には有力ですが、後戻りできない選択である点も含めて検討する必要があります。
5. 住宅取得等資金の贈与——孫がマイホームを買うタイミングで
孫が住宅を購入・新築・増改築するタイミングであれば、住宅取得等資金の贈与の非課税制度が選択肢になります。
父母・祖父母など直系尊属からの住宅資金贈与について、省エネ等住宅なら最大1,000万円、それ以外の住宅なら最大500万円までが非課税となる制度で、適用期限は現状では2026年(令和8年)12月31日までです。
この制度の大きな利点は、暦年贈与の基礎控除110万円と併用できること、そして非課税となった金額は生前贈与加算の対象に含まれないことです。マイホーム取得という明確な目的があるなら、まとまった額を効率よく渡せます。
主な要件として、受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上、合計所得金額2,000万円以下(床面積40〜50㎡未満の場合は1,000万円以下)、贈与を受けた資金は購入代金の支払いに充てること(家具・家電や、すでに始まっている住宅ローンの返済は対象外)などがあります。期限と要件の確認が欠かせない制度です。
6. こどもNISA——2027年スタートの「贈与の受け皿」
令和8年度税制改正大綱で、2027年(令和9年)1月から「こどもNISA(こども支援NISA)」が始まることが盛り込まれました。
0〜17歳を対象に、年間60万円・生涯600万円までの投資が非課税となり、非課税期間は無期限。18歳到達後は通常のNISAへ移行する見込みです。
原則18歳まで引き出せなかったジュニアNISAと異なり、一定の要件のもと12歳以降の払い出しが認められる方向で、進学資金の準備にも使いやすくなります。
「贈与」の視点での位置づけ。こどもNISA自体は非課税で“運用”するための制度であって、贈与税が非課税になる制度ではありません。
祖父母が孫名義のこどもNISAの原資を出す場合、そのお金の移動はあくまで贈与であり、暦年贈与の110万円の枠の中で考えるのが基本です。
年60万円の投資枠は110万円の基礎控除の範囲に収まるため、「暦年贈与で渡したお金を、孫の将来のためにこどもNISAで運用する」という組み合わせが現実的です。
教育資金の一括贈与のように一度に大きな額を非課税で渡せるわけではありませんが、毎年の暦年贈与の“出口”として、長期の運用で孫の資産を育てられる点が新しい選択肢です。
なお制度の細部は今後の政令・省令で確定するため、最新情報の確認が必要です。
まとめ——「誰に・いつ・どの制度で」を一緒に
教育資金の一括贈与という大きな選択肢がなくなったいま、孫への贈与は「複数の制度を組み合わせて設計する」時代に入りました。
どの制度が有利かは、祖父母の年齢や財産規模、孫の年齢や置かれた状況——進学を控えているのか、住宅を買う予定があるのか、まだ小さいのか——によって変わります。
制度の損得だけでなく、「いつ・誰に・どう渡すのが家族にとって良いか」という視点も欠かせません。具体的なご家庭の事情に合わせた組み立ては、ぜひ一度ご相談ください。
