「税務調査って、どうやって選ばれるんですか?」――ご相談の中で、よくいただく質問です。
税務調査の対象は、くじ引きのようにランダムに決まるわけではありません。提出された申告書の数字や、取引先などから税務署に集まる資料と照らし合わせて、気になる点がある申告が選ばれやすくなります。
国税庁も、調査対象の選定にAIやデータ分析を活用していることを公表しています(参考:国税庁「国税庁におけるAIの活用」)。
つまり、申告書の数字が「その事業らしいかどうか」は、外からも見えているということです。今回は、その中でも見落とされやすい「棚卸し」と「経費率」の2つを取り上げます。
棚卸し漏れ――年末に残っている在庫は、今年の経費ではない
在庫を持つ事業では、その年に売れた分だけが経費(売上原価)になります。年末の時点で手元に残っている在庫は、翌年以降に売れたときに経費となるものです。
たとえば同人誌の場合、新刊の印刷代を全額その年の経費にしていても、12月31日の時点で在庫が残っていれば、その分は経費から差し引く必要があります。ハンドメイド作品の材料や、物販の仕入れ商品も考え方は同じです。
在庫を計上しないまま申告すると、経費が多すぎて、所得が少なすぎる申告になってしまいます。
よくあるのが、イベント前にまとめて刷った年は利益が少なく、在庫が売れた翌年は利益が大きくなる――という波が毎年くり返されるパターンです。
本人に悪気がなくても、数字の上では不自然な動きに見えてしまいます。
在庫の金額は、原則として仕入れ値(印刷代などの原価)で計算します。同人誌なら「印刷代 ÷ 刷った部数」で1冊あたりの原価を出し、残っている冊数を掛ければ目安になります。
売れ残って価値が下がったものの扱いは状況によって変わるため、個別に確認しましょう。
数えるときは、置き場所ごとに分けると漏れを防げます。
- 自宅で保管している分
- 書店・ショップに委託している分(委託先の在庫報告で確認)
- 通販用に倉庫や発送代行に預けている分
特に委託分は手元にないため、忘れられやすいポイントです。
経費率の異常――数字の「らしさ」から外れていないか
売上に対する経費の割合(経費率)や、売上から原価を引いた利益の割合(粗利率)には、業種ごとにおおよその傾向があります。そこから大きく外れていると、目に留まりやすくなります。
同じ人の申告でも、前年と比べて次のような変化があると目立ちます。
- 経費率が急に上がった
- 売上は増えたのに、利益が増えていない
- 赤字が何年も続いているのに、事業を続けている
赤字が続く場合は「生活費はどこから出ているのか」という点で気にされやすくなります。
一方で、数字の変化にきちんとした理由がある場合(高額な機材を買った、イベントへの出展を増やした など)は、心配しすぎる必要はありません。大切なのは、その理由を説明できるようにしておくことです。
何年も前の数字の変化を、記憶だけで説明するのは意外と難しいものです。領収書や契約書とあわせて、変化の理由を記録に残しておきましょう。
▶ 関連記事:〈経費編〉

選ばれやすい申告にしないために、毎年やっておくこと
難しいことはありません。次の3つを習慣にしておくだけでも、申告の数字はぐっと整います。どれも年に一度、確定申告の準備のついでにできることです。
- 年末(12月31日時点)の在庫を、種類ごとに数えて記録する。委託先にある在庫も忘れずに
- 前年の申告書と並べて、売上・経費・利益の割合を見比べる。大きく変わっていたら、理由を一行メモしておく。特記事項として決算書の記載事項とする。
- 取引先から届く支払調書や、販売プラットフォームの売上記録と、申告した売上がずれていないか確かめる
なお、調査に選ばれること自体は悪いことではありません。きちんと処理していれば、調査の場で説明すれば済む話です。目指すのは「選ばれないこと」ではなく、「選ばれても説明できること」です。
▶ 関連記事:売上除外と重加算税

まとめ
- 税務調査は、申告書の数字と外から集まる資料を照らし合わせて選ばれやすい
- 在庫がある人は、年末の棚卸しを忘れると所得が少なすぎる申告になる
- 経費率や利益率の急な変化は目立つ。理由があれば説明できるように記録しておく
まずは、今年の12月31日に在庫を数えると決めて、カレンダーに入れておきましょう。あわせて去年の申告書を出して、経費率を一度計算してみるのがおすすめです。
