京都の相続に強い税理士ジンノです。
[chat face=”hair_biyou_kirei_ojiisan.png” name=”” align=”left” border=”yellow” bg=”none”] 遺産分割協議書を持ってきたので相続税の申告書だけ作ってもらえますか? [/chat]時々このようなご相談を承ることがあります。弁護士さん、司法書士さん、行政書士さん、士業の方が関与している場合でも時々あります。
これの何が問題か、わかりますでしょうか?
税理士が相続案件に対応している時、遺産分割協議については他の士業さんと全く異なるアプローチをしますし、しなければなりません。
それは税金面を考慮するアプローチです。
はっきり言って他の士業さんとは全く考え方が異なりますので、税務的なチェックがなされる前に遺産分割協議書にハンコを押してはいけません。その理由を解説します。
遺産分割協議とは
誰かが亡くなると、その亡くなった方の財産の分け方には2種類あります。
亡くなった方が遺言を残している場合には、その遺言が最優先され(亡くなった方の意思が反映されているからという理解でいいです)、遺言に従って財産を分けます。
遺言では誰にでも財産を残すことができますし、寄付をしたりする篤志家の方もいらっしゃいます。
何はともあれ基本は遺言があれば遺言に従って財産を亡くなった方の意思に基づいて分けていくことになります。
遺言があっても後述の遺産分割協議はできますし、遺言の有効無効で争う場合もありますが、遺言があれば遺言は最優先です。
では遺言がない場合はどうするか、その時に行われるのが遺産分割協議と呼ばれる手続きになります。
遺産分割協議とは、相続人同士で財産の分け方を決めることを指します。相続人全員が納得するまで財産を分けることはできません。
話し合いで決着しなければ裁判所での調停や裁判を通じて財産の分け方を決めることもあります。
遺産分割協議がまとまれば、遺産分割協議書という書類に財産の分け方を書き起こし、相続人全員で氏名を自署して、実印を押印します。
この遺産分割協議書を金融機関や法務局に持っていって遺産を分ける手続きを行います。
金融機関指定の書類に相続人全員で実印を押して手続きをすることもできますが、あくまで遺産分割協議書による手続きがメインです。
税理士独特のアプローチ
税理士以外の士業さんが遺産分割協議に携わる時、どんなアプローチをするか、というと当たり前ですが揉めないように、という方向性が第一です。
仲の良い親族であれば不動産から何から全部、法定相続割合で分けました、みたいな遺産分割協議書も時折見かけます。
法定相続割合とは、民法で定められた相続割合を指します。
別に揉めないんだからいいじゃないかと思われるかもしれませんが、不動産の共有は避けたほうがいい、というのは相続実務のセオリーです。(この件については別記事を準備いたします)
さらに怖いのは税務的な視点がすっぽり抜け落ちていることです。
というのも、相続税の申告書は遺言または遺産分割協議の内容に基づいて申告をすることになります。
税金のことを考えずに遺産分割協議を成立させてしまうと、とんでもなく税金が高くなってしまうケースがあるからです。
これは後述する相続税の計算の特徴によってこのようなことになるのですが、相続税の計算はたとえ同じ財産を分けたとしても分け方によって税金の金額が大きく違うことがあるのです。
法人税や所得税の計算とはそもそも考え方が違うので、この部分を理解していないと後で痛い目を見る可能性がグッと高くなります。
じゃあ遺産分割協議をした後に分割協議書を税理士に見てもらって、税金が高い分け方になっているなら、分割協議をやり直せばいいんじゃない?と思うかもしれません。
法律的には遺産分割協議のやり直しはもちろんできますが、税務的には遺産分割協議のやり直しは贈与または財産の譲渡になるのです。
分け方をやり直したら余計な税金がかかる、という本末転倒なことが起きてしまいます。
これも税務的な視点がないと理解できない部分かと思います。
というのも遺産分割により財産が移転している場合には相続という事実による財産の移転です。
しかし一旦分割協議が成立している場合には、その財産の帰属(要は誰のモノかということ)は相続人で。すでに相続人の所有物をさらに移転しているので相続での移転じゃない、という判断になります。
相続税計算の大きな特徴
遺産分割協議を税理士が考える場合、税務的なアプローチが先行します。
前述のとおり、相続税は財産の分け方で大きく変わる可能性があるからです。
それは相続税計算の大きな特徴2つによるところが大きいです。
小規模宅地等の課税価格の特例、配偶者の税額軽減、この2つの特例が大きく影響します。
小規模宅地等の課税価格の特例とは
ごく簡単にかいつまんでの説明をしますと、亡くなった方が所有していた不動産についてそのまま相続税を課税すると、具合が悪いことも多いでしょう、という特例です。
例えば亡くなった方のご自宅について、そのまま相続税を課税してしまうと、自宅を処分しないと相続税を納められない相続人が出てくる可能性があります。
相続したがゆえに自宅に住めなくなる相続人がいるというのは、社会的な配慮に欠けるというのは皆さんにもお分かりいただけるかと思います。
非常にくだけた表現になりますが
自宅や貸していた不動産については、そのまま課税すると具合が悪いので一定の条件を満たせば相続税の計算上は不動産の価格を一定割合、減額します
という特例だとご理解いただければ十分です。
この特例ですが、亡くなった方の状況(自宅に住んでいた、老人ホームに住んでいたなど)と、不動産を相続する相続人の状況(亡くなった方と同居していた、持ち家に住んでいないなど)による2つの視点で判定を行う必要があります。
例えば、自宅不動産の場合、この特例を受けられたら、自宅の敷地については330㎡まで80%の減額をすることが可能です。
1億円の自宅敷地であれば、2,000万円に相続税の計算上はなる可能性があるということです。
この特例が相続税に影響する度合いがいかに大きいかお判りいただけると思います。
ポイントは不動産を相続する方の状況にもよる、という点です。
同居している長女さんは特例を受けられるけど、離れたところに住んでいる次女さんは特例を受けれない、そんな状況が生まれやすいのです。
そしてこの特例をよく理解せずに、次女さんが亡くなった方の自宅を相続してしまうと、税金計算上は不利になります。
この特例を受けられるかどうかで全く相続税の桁が違うこともあります。税金ありきではありませんが、税理士が遺産分割を考えるときは、税金計算上最も有利な分け方とそうでない分け方、というアプローチの仕方をまずはします。
それでも税金が高い分け方でよい、というご家族はいらっしゃいますので、それはそれで問題はありません。
税金を抑えられる遺産分割の内容が、ご家族にとっての最適ではない、というのは税理士として心に留めておくことべきことですし、それが相続実務の難しさだと実感しています。
ちなみにこの小規模宅地等の課税価格の特例は相続税計算に与える影響が大きいので、論点・注意点がたくさんあります。
いま私の手元に書籍があるのですが、この特例についてだけ書かれた実務に関する書籍で本の厚さが約5cmあります。
税理士にとっても難しい判断を求められる内容だということがお分かりいただけるかと思います。
配偶者の税額軽減とは
もう一つの特例が、配偶者の税額軽減と呼ばれるものになります。
この特例は、配偶者については、相続財産の半分又は1億6千万円までの財産については相続税を軽減します、という内容になっています。
例えば、相続財産が1億5千万円だとすると、配偶者が全部を相続しても相続税はかからないことになります。
ただしこの特例を受けるためには相続税申告書を提出することが必要です。これは前述の小規模宅地等の課税価格の特例も同様です。
この特例の社会的な背景としては、たとえ夫や妻の財産であっても、二人で協力して築いた財産なので、配偶者について税金は優遇します、ということです。
配偶者が相続すれば税金がかからない、というのは皆さんも納得しやすいかなと思います。
よって、配偶者に相続してもらって相続税を低く抑えよう、という考え方になりがちなのですが、ここには大きな注意点があります。
相続税がかかるくらいの財産を相続している場合、次に配偶者が亡くなる時にも相続税がかかる可能性が高い、ということです。
最初に亡くなった方の相続のことを一次相続、その配偶者の方の相続のことを二次相続と表現します。
相続税を考えるときにはこの一次相続と二次相続のトータルで考える必要があります。
何故かというとここでも相続税の計算上の有利不利が発生してしまうからです。
トータルで税金を考えることの重要性
例を挙げて考えてみましょう。
相続財産は母の財産1億円、夫婦と子供ひとりの3人家族だとします。
特例の内容をお伝えするために、内容を簡潔にしています。
こんな家族構成をイメージしてください。
不幸にもお母さんが亡くなり、父と娘でお母さんの1億円の財産を分けることになりました。(これが一次相続)
娘が言います、「お父さんが全部相続したら相続税がかからないみたいだから、とりあえずお父さんが全部相続しておいてよ」(配偶者の税額軽減を指しています)
父が答えます、「確かにそうだね、そうしておこう」
父:1億円、娘:ゼロ円、このパターンを①とします。
別の分け方を考えるとして、
娘が言います、「お父さんが財産を使いきれなければ結局私のところに財産が集まってくるから半分こずつにしない?」(法定相続割合での分割を提案しています)
父が答えます、「確かにそうだね、そうしておこう」
父:5,000万円、娘:5,000万円、このパターンを②とします。
父は元気なつもりでしたが、財産を相続してほどなく亡くなってしまいました。(二次相続です)父が相続した財産はそのまま手付かずとします。
この2つのパターンについて、一次相続と二次相続の相続税を試算してみましょう。
詳しい計算構造については省略します、税金の違いを感じてください。
パターン①
父の相続税 | 娘の相続税 | 相続税額合計 | |
一次相続 | 0円 | 0円 | 0円 |
二次相続 | ― | 1,220万円 | 1,220万円 |
トータル | 0円 | 1,220万円 | 1,220万円 |
パターン②
父の相続税 | 娘の相続税 | 相続税額合計 | |
一次相続 | 0円 | 385万円 | 385万円 |
二次相続 | ― | 160万円 | 160万円 |
トータル | 0円 | 545万円 | 545万円 |
娘さんはお父さんを介して1億円を相続するか、お父さんとお母さんからそれぞれ5,000万円ずつ相続するか。結局は同じ財産を相続しているにもかかわらず、これだけ相続税額が異なります。
倍以上も税金が違えば検討の余地はあるかなと税理士としても感じますので、このあたりはやはりご説明するべきです。
お父さんが「生活できる最低限だけで構わない」そう言うだけです。
二次相続のことを考慮せずに分け方を考えるとこういうことが起きるのが相続税の計算、というのがお分かりいただけたかと思います。
まとめ
[box03 title=”本日のまとめ”]- 遺産分割協議のやり直しは余計な税金がかかる可能性がある
- 遺産分割協議には税務的なチェックが必要
- 税金の有利不利はゴールではないが判断の基準にはなる
税金の有利不利は目的ではなくあくまで結果です。
相続税の場合は特に税金を低く抑える=いい相続、皆が納得できる相続、ではないのです。
遺産分割協議書にハンコを押すと後戻りできないので、相続税がかかるかどうかも含めて税理士のチェックを入れていただくことをおすすめします
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