売上が伸びてくると、背景や着彩を手伝ってもらうアシスタント、ロゴやグッズのデザインを頼む外注先など、「人にお願いする」場面が増えてきます。
このとき多くの方が「報酬を払えばそれで完了」と考えがちですが、支払う側には税務上のひと手間が発生することがあります。
それが源泉所得税の天引き(源泉徴収)と、年明けの支払調書です。
ただし、これは「外注したら全員が必ずやること」ではありません。まず確認すべきは、自分がそもそも源泉徴収をしなければならない立場なのかどうか。
ここを飛ばして「とりあえず天引き」と考えると、かえって混乱します。今日は判断の順番に沿って、基本を整理します。
まず確認:自分は「源泉徴収義務者」か
源泉徴収とは、個人に報酬を払うとき、支払う側があらかじめ税金を差し引いて、本人に代わって国へ納める仕組みです。この「差し引いて納める義務」を負う人を源泉徴収義務者と呼びます。
ここが出発点です。次の3つを順番に確認すると、自分が何をすべきかがはっきりします。
① 自分が源泉徴収義務者にあたるか
② 支払先が法人か、個人か
③ その業務内容が源泉徴収の対象業務か
この3点について確認が必要で、源泉徴収義務者でなければ源泉徴収する必要はないですし、支払先が法人ならこの場合も源泉徴収不要です。
業務内容が源泉徴収の対象業務かどうかの確認もしておきたいところですが、一番最初に確認すべきは「自分が源泉徴収義務者かどうか」です。
源泉徴収義務者でなければ②と③はそもそも確認が不要になります。
給与を払っていない個人事業の作家は、原則として義務者ではない
人を雇って給与を支払っている事業者は源泉徴収義務者になりますが、従業員を雇わず、給与の支払いが一切ない個人の作家は、原則として源泉徴収義務者にあたりません。
たとえば、スタッフを雇用しておらず、支払っているのは弁護士や税理士への報酬くらい——という漫画家・同人作家の場合、その士業報酬についての源泉徴収は基本的に気にしなくて構いません。
給与の支払いがない個人事業主は源泉徴収義務者ではないため、原稿料や弁護士・税理士報酬を払っても源泉徴収義務を負わない、という整理になっているためです。
ですので、まず「自分は人を雇って給与を払っているか」を確認してください。払っていないなら、外注費について天引きを悩む必要はそもそもない、というのが基本線です。
逆に、アシスタントに給与(雇用)という形で払い始めた場合は、源泉徴収義務者になります。雇用なのか外注なのかの線引き自体が判断を要するため、迷う場合は早めに専門家へ相談するのが安全です。
また青色事業専従者給与は親族への給与ですがこの場合は源泉徴収義務者になるので注意が必要です。給与の支払いをしているからです。
源泉徴収が必要になる場合の3つの判断ポイント
自分が源泉徴収義務者にあたる場合、次は「この支払いは対象か」を見ます。判断材料は、支払先と業務内容です。
② 支払先が法人か、個人か
源泉徴収の対象になるのは、原則として個人への支払いです。支払先が合同会社・株式会社などの法人であれば、源泉徴収は不要です。
「フリーランスだから」「友人への謝礼だから」といった事情は判断を変えません。見るべきは、相手が個人か法人か。
外注先が決まったら、最初に「個人か、法人か」を確認する習慣をつけておくと、後の処理がぶれません。
③ 業務内容が対象業務か
個人への支払いでも、すべてが対象になるわけではありません。
源泉徴収の対象は法律で範囲が定められており、クリエイターの周辺で典型的に対象となるのは、個人へ払う原稿料・デザイン料・イラスト料といった報酬です。
一方で、フリマサービスを介した購入や、対象業務に該当しない支払いは原則として対象外です。
| 確認項目 | 対象になりやすい | 対象外の例 |
| 支払先 | 個人(アシスタント等) | 法人(合同会社・株式会社) |
| 業務内容 | 原稿料・デザイン料・イラスト料 | フリマ経由の購入など |
実際の処理の流れ
3つの条件がそろい、源泉徴収が必要だと判断できたら、流れは次のとおりです。
- 支払うとき 約束した報酬額から源泉所得税を差し引き、残りを振り込む。税率は報酬額の10.21%(同一回の支払いが100万円を超える部分は20.42%)。
例:外注料10万円なら、100,000円 − 10,210円 = 89,790円を振り込み、差し引いた10,210円は預かっておく。※消費税部分を含めて計算するかどうかは事前に決めておく。
- 翌月10日までに 差し引いた源泉所得税を税務署へ納付する(e-Taxまたは金融機関窓口)。
「納期の特例」を申請しておくと、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付できます。規模が小さいうちは申請しておく価値があります。
- 1月末までに 支払調書を作成し税務署に提出する。支払先から求められたら調書を渡しておいてもよいですが基本は支払者が税務署に提出する書類です。
支払調書は「年間いくら払い、いくら源泉徴収したか」を示す書類となります。
よくある誤解と確認ポイント
- インボイスとは別の話 源泉所得税と消費税・インボイスは別制度です。インボイス登録をしていても、源泉徴収が不要になるわけではありません。該当する場合は両方を正しく処理します。
- していなかったとき 天引きを失念していた場合、遡って納付が必要になり、不納付加算税が生じる可能性があります。気づいた時点で早めに自発的に対応すれば、ペナルティは軽減され得ます。
- 支払調書の提出ライン 税務署への提出義務は、同一人への年間支払額が一定額(デザイン料・原稿料等では5万円超)で生じます。受け取った本人への交付は、金額にかかわらず行っておくのが親切です。
迷ったときはどうするか——「源泉徴収しておくに越したことはない」
実務で悩ましいのは、対象かどうかがはっきりしない、グレーに見える支払いです。このとき、判断に迷ったら源泉徴収しておく、という方向で考えるのが安全です。
理由は、後戻りのしやすさにあります。源泉徴収すべきだったのに天引きしていなかった場合、その不足は後から税務調査で指摘されることがあります。
すでに相手へ満額を支払った後で過去にさかのぼって取り戻すのは、現実にはかなり困難です。さらに、納めるべきだった税額に対して加算税などが課される可能性もあります。
一方、本来は不要だったのに源泉徴収してしまった場合は、相手側が確定申告で精算でき、是正の余地が残ります。
つまり、迷ったときに「徴収しておく」側に倒しておくほうが、後のリスクが小さいということです。もちろん最終的な線引きに不安があれば、最初の外注が発生する前に専門家へ確認しておくのが確実です。
まとめ
外注を始めるにあたって、自分が源泉徴収義務者にあたるか、支払調書まで含めた実務をどう進めればよいか以下のフローで確認しておきましょう。
- まず「自分は給与を払っている=源泉徴収義務者か」を確認する。給与の支払いがない個人の作家は、原則として気にしなくてよい。
- ①源泉徴収義務者か ②個人か法人か ③対象業務か、の3点で判断する。
- 必要なら、振込時に天引き → 翌月10日に納付 → 1月末に支払調書、の流れを習慣化する。
- グレーで迷ったら、源泉徴収しておく側に倒すのが後のリスクが小さい。
