京都の若ハゲ税理士ジンノです。
確定申告に向けて医療費の領収書を集めておられる方も多いと思います。病気やけがはもちろんないほうがいいですし健康に感謝したいところですが、既に支払った医療費について確定申告で控除出来るならやりたいところですよね。
医療費控除に関するよくあるご質問と、薄毛治療が医療費控除の対象になるかマジメに考えてみましょう。
医療費控除でよくあるご質問
医療費控除は確定申告の中でも、最も生活に身近な控除項目のひとつです。毎年医療費控除だけは必ずやっている、という方も多いのではないでしょうか。
生活に身近な医療費控除ですので、ご質問をいただくことも多く、ときおり勘違いが見受けられます。
まずはよくあるご質問から医療費控除のあれこれを解説します。
Q1 支払った医療費が還付されるんですよね?
A1 医療費そのものが返ってくるわけではありません。
医療費そのものが還付されると考えている方は意外と多いです。税金の計算上、支払った医療費が返ってくるわけではなく、税金が還付されます。(サラリーマンや年金受給の方で源泉所得されている方を想定しています。)
例えば年間の医療費が30万円あったとします。(簡潔にするため保険金はなしとする)
30万円-10万円(年収200万円以上と想定)=20万円(医療費控除の対象金額)
10万円は医療費控除の対象金額を計算する際の基礎控除のような位置づけです。
年収が200万円未満の方は、総収入金額×5%の金額が10万円と置き換わります。
20万円の医療費控除の金額を所得金額から控除します、と書くと難しく感じてしまいますので、税率を意識しましょう。
所得税の計算上も税率というのが出てきます。この例においては所得税の税率が5%だった場合、医療費控除で還付される税金の金額は20万円×5%=10,000円、となります。
所得税は超過累進税率と言って、所得が増えれば増えるほど税率が大きくなっていきますので、税率を乗じた金額が還付される、と書くと正確さを欠くのですが、あくまでイメージとして捉えてください。
Q2 入院の保険金で高額なものがあるとほかの医療費と相殺するんですよね?
A2 その入院の対象となった医療費とのみ相殺するので他の医療費と相殺はしません。
ご入院のときには医療費がかさみます。高額療養費制度を使っても月額8万円などそれなりに支払うことになります。民間の医療保険に加入している場合、多くが入院や手術に対して保険金が支払われます。
例えば入院費用が10万円、入院に関する保険金が15万円、その他の医療費が20万円だった場合の医療費控除の計算をしてみます。
入院費:10万円
上記の入院に対する保険金:15万円
その他の医療費:20万円
※間違った計算例
10万円+20万円-15万円=15万円を医療費控除の対象と計算する
※正しい計算例
10万円-15万円=△5万円(この金額は他の医療費と相殺しない)→0円
0円+20万円=20万円を医療費控除の対象と計算する
この計算例では入院費に対する保険金についてを例にしましたが、出産育児一時金なども同様の処理となります。
入院費用と入院にかかる保険金は一対一の関係で、引ききれない金額があっても他の医療費から控除しない、と理解しておきましょう。
Q3 家族の分の医療費は控除できないんですよね?
A3 生計一(せいけいいつ)の親族であればその方の医療費も合算することができます。
所得税や相続税など個人の税金を計算するうえで、時々出てくる生計一(せいけいいつ、と読みます)という言葉。
非常に簡潔に言うと、生活をする上でお財布が一緒、という意味です。
基本的には同居している場合には生計一とみなされますし、例えばご夫婦が共働きで同じ家に住んでいるような場合も生計一と認められます。
同居していない場合でも、通勤や通学、療養看護のために同居しておらず生活費等を送金している場合には生計一となります。
生計一の親族であれば医療費を合算することができますので、例えばご家族それぞれで医療費がかかっている場合でも、生計一の親族の中で最も所得税率が高い人から控除すると税金計算上は有利となります。
薄毛治療が医療費控除の対象になるか考えてみる
私はTwitter上などでは若ハゲなどと自分の印象を他人に植え付けていますが、では私自身がもし薄毛治療(特に男性型脱毛症)をしたら医療費控除の対象になるか、はたまた経費算入できるか考えてみましょう。
以下、私見(個人的な見解)が織り交ざりますがご容赦ください。
ポイントは業務上必要かどうか、審美目的か否か、かと思います。私見としては応援したい気持ちはやまやまですが、薄毛治療の費用を経費に算入する、医療費控除の対象にするのは難しいかなと。
業務上必要かどうか(経費に出来るのか)
例えば、薄毛治療(植毛や薬の服用を含むトータルなもの)と似た内容としてカツラがあります。頭にかぶる例のアレです。
カツラの場合、業務に必要かどうかというのはとても重要になってきます。というのもテレビに出たり舞台に出たり、また人前に出ることが職業の一部になっている場合などは自分の見た目を売っているとも言えます。
この場合には、業務にのみ使うモノとしてカツラを経費算入することになります。カツラがないと仕事が減ってしまう可能性もあるでしょう。
もし普段のプライベートからカツラをかぶるという場合には業務用のものとプライベート用のものを区別しておく必要があります。両方に使っていると経費算入は難しいです。
カツラが業務上必要であること、プライベートのものと区別していることなどの要件を満たしているか検討しましょう。
では、業務上にのみ必要だから薄毛治療をするケースというのはどういうモノが考えられるでしょう。例えば薄毛治療を施す際にプライベートと業務上の必要性を分けることができるというのは想像できるでしょうか。
これはプライベートの薄毛治療で、あっちは業務上の薄毛治療でという明確な区分ができればよいですが、それは少し難しいと思います。
薄毛になると仕事がままならず、カツラをかぶることも許されない職業を想像してみると、力士さんは該当するかと想像します。
力士の方は頭髪がなくなって髷がゆえなくなると引退せざるを得ないそうです。すなわち髪が少なくなることで業務に支障がでているものと私は考えます。毛髪の量で職業選択に不自由が出ていると言っても過言ではありません。
ただこの場合でも力士さんにもプライベートの時間があるでしょうから、業務時間とプライベートの時間を分けて薄毛治療費を経費計上することは困難と言わざるを得ません。
薄毛治療が業務にのみ必要というのはやはり難しい面があるでしょう。ジンノが薄毛治療をしてもその費用を経費にする(業務関連性がない)ことは出来ません。
審美目的か否か(医療費控除の対象にできるか)
例えば薄毛治療ではなく、円形脱毛症などの治療に対して行われる医療にかかる費用については医療費控除の対象になります。
医療費控除の対象になるのは治療を目的として医療行為にかかるものです。保険適用か否かという点ではなく、治療に必要かどうかという点です。
一方でいわゆる見た目を整える、美しくするなどの審美目的の医療行為については医療費控除の対象にはなりません。これはつまり見た目を整えるのであって病気ではないという位置づけです。
いわゆるAGA(男性型脱毛症)の場合は、遺伝的要素や生活習慣、加齢によるものなどが考えられるそうですが、どうやら病気ではないようです。生理的な現象と言えるのでしょう。
これは男女問わずだと思いますが、生理的な現象に対して行われる薄毛治療はやはり見た目を整えるという趣旨があるように思います。
一方で、髪の毛が抜ける、薄くなるという現象によるストレスは経験した者にしか分からない精神的苦痛が伴うことが多いです。
私の場合も、薄くなり始めた当初は何とか隠してやろうという気持ちもありましたし、みんなが自分の頭を見ているんじゃないかと思うことも正直言うとありました。
いまは自分が若ハゲであることをオープンにしているので、そのような悩みからは解放されていますが、いま薄毛で悩んでいる人の気持ちはとてもよくわかるつもりです。
精神的な苦痛を取り除くために薄毛治療をする方がいるのも事実ですし、画一的に考えることができないのが人の気持ちでもあります。
ただ、やはり税金計算上は画一的な線引きが必要なことですし、薄毛治療(特に男性型脱毛症)については審美目的だと言われても反証することが難しく感じる自分もいます。
税理士としては涙をのんで医療費控除の対象から薄毛治療に関する費用を除外せざるを得ません。(ちなみにジンノの場合は薄毛治療すらも放棄しています。砂漠化を受け入れているということです)
まとめ
[box03 title=”本記事のまとめ”]- 医療費控除のよくある質問まとめ
- 薄毛治療は医療費控除の対象にならない
- カツラは業務上必要であれば経費算入できる
確定申告をされている方は医療費控除についてキチンとルールを確認しておきましょう。