相続税申告業務で必要書類をご案内するときに現預金がある場合には残高証明書を取ってもらうことをお願いしています。
ほかに預金口座がないということが明らかで手続きに時間や費用をかけたくないという場合には相続人の方の責任で取得しないこともあります。
相続人のかたはすべて把握しているわけではないでしょうから残高証明書を取っておいてよかった、となるケースはあります。
残高証明書でわかること
残高証明書は亡くなった日付でその亡くなった方の名義の預入財産だけを把握できるものではありません。
借入があれば残高証明書に記載されますし、その支店だけの口座ではなくすべての支店の口座に照会をかけてくれます。
例えば京都銀行で残高証明書の発行をした場合、本店だけではなく舞鶴支店などの口座も把握できるというわけです。
亡くなった方が物持ちがよく、預金通帳などもすべてきちんと残していればよいですがそうではないケースはやはりあります。
また相続人の方が預金通帳を探しきれないということもあるわけです。
そんなときに、残っている通帳だけで相続財産を確定させてしまうと漏れが発生する原因になります。
残高証明書でわかることは意外と多いのです。
転勤している場合や口座を複数持っている場合には預金通帳だけで判断することはキケンですからよほどきれいに整理されている場合を除いては、残高証明書を発行してもらうのが安心です。
先日も相続手続きの中で残高証明書を取得したら思わぬ財産が出てきた、ということがありました。
以前は気軽に口座を作れた
いまはマネーロンダリングや犯罪収益に口座が利用されることが増えたため気軽に口座を作れなくなっています。
どの金融機関でも本人が出向いて個人情報に関する証明書類を提出して口座を作るのにも時間と手間がかかります。
いまは手間がかかることが多い金融機関での口座開設ですが、以前は割と気軽にサッと作れたのです。
窓口に行って自分じゃなくて家族の預金口座を作るなんてことは簡単にできました。
これがいま相続税申告の税務調査で問題になることがある名義預金の指摘の原因になっている面はあります。
名義預金の話はこちら
またいまは少し違った形でネット銀行も増えていますので本人であれば簡単に口座を作ることは可能です。
楽天銀行、住信SBIネット銀行、auじぶん銀行、イオン銀行、PayPay銀行、GMOあおぞらネット銀行、SBI新生銀行、これらはネット銀行ですが通帳がないものが多いです。
キャッシュカードがなければ把握すら困難なケースがありますし、ネット証券会社も普段の資料のやり取りはオンラインということが圧倒的に多いです。
通常の証券会社であれば取引残高報告書などが紙で定期的に送られてきますがそういう書類もオンラインで発行されますので把握が難しいこともあります。
相続手続きという面だけで見ると漏れが生じやすい状況になりつつあるといえるでしょう。
相続税申告、相続手続きのかなめは財産の把握漏れ、計上漏れがない状態です。
財産の確定、漏れがないことの重要性
単純に相続財産の把握漏れ、計上漏れがあると相続財産の全体が間違えていることになります。
すなわち税額に誤りがある可能性が高いわけです。
相続財産の計上漏れは相続税申告の税務調査のときにはやはりチェックされる項目の一つです。
また漏れがある状態だと遺産分割協議のやり直しが必要になるケースもあり、そうなると揉め事につながることもあるわけです。
一度やった遺産分割協議のやり直しは相続人間で贈与という税務上の取り扱いになりますので注意してください。
遺産分割協議の後で判明した財産の取り扱い条項をいれておく、もしくはその漏れていた財産について改めて遺産分割協議をする、というのが望ましい対応です。
残高証明書を取らずに遺産分割協議をして万が一漏れが判明した場合には相続手続きを担った相続人に対して、財産を勝手に持っていくつもりだったのではないか、という他の相続人からの疑いがかかるケースも実際あります。
そもそも相続人間の仲が悪くちょっとしたことでも疑いをもたれたり揉め事になりそうであれば、金融機関が発行する公的な書類で財産を把握しておくのはある意味で揉め事防止策として有効です。
相続税申告書をチェックする税務職員も、細かい漏れがある場合には注意して中身をチェックします。
丁寧な計上、漏れがないようにしておく、ということは調査官の心証も左右する側面はありますので丁寧にやっておくに越したことはないのです。
まとめ
相続税手続きで残高証明書で財産把握をしておくことの重要性をお伝えしました。漏れがないように、また計上漏れが揉め事につながらないように丁寧に対応しておきましょう。