相続対策や実際の相続税申告の際には遺産分割協議や遺言について考えていただくことがあります。
要は財産の分け方ですが、その際に「不動産を遺さない」という選択をする方も増えてきた印象です。
不動産を遺さない相続にするためのに考えておきたいポイントを整理します。
不動産を遺さない相続のご要望
例えばお子さんがいらっしゃって相続人だとします。
親などの所有する住居に同居している場合には不動産を遺す方向になりますが、そうではないことのほうが多いです。
ご実家を出て違うところに生活の本拠があり子が自ら住居を購入していたり、その配偶者と一緒に又は配偶者が取得した住居に住んでいる場合は、ご実家を相続すると空き家になる可能性があります。
家というのは不思議なものでだれも住んでいないと朽ちていくスピードが速いと言われており、空き家になるとどんどん住むのに適さなくなっていきます。
また家を購入していないケースでもご実家を出て相当年数が経っている場合には、自分の生活の本拠はご実家ではなく今住んでいる場所で、たとえご実家を相続したとしても実家に生活の本拠を動かすのが難しい、ということも往々にしてあります。
このような状況で親がひとりで実家に住んでいることに対する不安もあるでしょうし、実家を相続しても利用できないだろうから、不動産は親の世代で整理をしたいとご本人が要望したり、また子が親を自分の住んでいる近くでみたい、というご要望が増えてきた印象です。
それぞれのご家族にそれぞれの考え方があり、ご実家に対する感情も様々あります。
考えを尊重しつついいゴールを目指すためには不動産を事前に整理処分しておき、不動産を遺さない選択肢もあるということをご提案することがあります。
譲渡するなら相続前か相続後か
不動産を遺さない選択をする場合には所有する不動産を売却することを検討します。
その際には不動産を所有している方がご生前に売却するか、お亡くなりになった後に売却をするかどちらかです。
可能であれば生前に譲渡することをお勧めしていますが税務的なポイントとしてはそれぞれ以下のように考えられます。
ご生前の譲渡で3,000万円控除、長期軽減税率の適用
お亡くなりの後に相続人が相続した空き家譲渡の特例、小規模宅地の特例
ご生前に自分が所有して住んでいる居住用不動産を売却する際には譲渡益から3,000万円を控除できる特例があります。
この特例が適用できると譲渡益(ざっくりとですが売却価額-取得価額で計算)が仮に3,000万円の譲渡益の場合には譲渡所得税がかかりません。
また譲渡した年の1月1日の時点で所有している期間が10年超の居住用不動産を売却した場合には、税率の優遇があります。(長期軽課:6,000万円以下の場合には所得税率10.21%、住民税率4%)
この長期軽課の特例はお亡くなりの後の譲渡では適用できません。
お亡くなり後に相続人が相続した空き家を譲渡した場合の特例もあります。3,000万円の控除で生前譲渡と一見すると似ていますが要件が一段厳しくなります。
相続した空き家譲渡の特例の要件
・家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと
・マンションなど区分所有建物登記がされている建物ではないこと
・相続開始の直前において相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
・相続から譲渡まで事業に使ったり貸し付けたり住んだしたことがないこと
・一定の耐震基準を満たすこと
・相続の開始があった3年を経過する日の属する12月31日までに売ること
・売却代金が1億円以下であること
というのが大まかなポイントです。
メリットとしては例えば子が複数人で共有して相続し売却した場合にはそれぞれが空き家の譲渡特例を使えます。
また小規模宅地の特例が適用できる場合には相続税額が生前の譲渡よりも抑えられる可能性があります。(一般に不動産は相続税評価額が抑えられるため)
デメリットとしては家屋が一定の耐震基準を満たさない場合には家屋を取り壊してからでないと譲渡特例が受けられず費用が発生します。
不動産売却後の生活もイメージ、不動産は売りたいときに売れない
不動産を売却する場合には上記の税務上の取り扱いもよく確認しておく必要がありますが、売却後の生活もイメージしておきましょう。
介護付き専用住宅などに住まわれたりお子さんの近くに賃貸を借りて住んだりと様々です。
生前の譲渡であればこの辺りのケアは十分すぎるぐらい考えておくに越したことはありません。
また不動産は売りたいときに売れないものであることも覚えておきましょう。
お亡くなりになった後に譲渡をすることにしていても本当に売れるかどうかはわかりません。
当初はお亡くなりになった後と考えていたけれど、生前に良い条件で譲渡ができそうになり熟慮の末に生前の譲渡に切り替えたというパターンもあります。
不動産を売ったり買ったりは通常はあまり多く経験しないので慎重に、税務上の特例は適用要件がきっちりきまっていますのでそのあたりもケアしつつ考えておきたいところです。
まとめ
相続のかたちはご家族の考え方それぞれにより大きく異なりますし、ご家族の数だけ答えがあります。
また絶対的にこれが正解、というものもありませんのでもし相続のことを考えるときにはご家族でよく話し合いを重ねつつ、専門家の知恵もかりながら進めていくのがよいでしょう。