「なぜもっとクライアントを増やさないんですか」——ときどき、そう聞かれます。
答えは単純で、増やせる上限を超えると仕事の質が落ちるからです。8年やってきて、自分がまともに動ける仕事量がだいたい見えてきました。
今日はその話を、できるだけ正直に書こうと思います。独立を考えている同業の方にも、これから依頼を検討してくださる方にも、何かしら参考になるはずです。
8年で見えてきた「自分の上限」
ひとり事務所で税理士業を続けて8年になります。顧問先の数は、徐々に増えていま自分自身が考えている上限に近づきつつあります。
顧問先が増えると何が起きるか。スポット相談の一件あたりにかけられる時間が減り、回答の質が落ちます。
申告前に時間的な余裕がなくなり、確認が雑になりかけます。そして、自分の発信や勉強にあてる時間が真っ先に削られていきます。
独立したての頃は「忙しい=成長している」と思っていました。でも、ある時期を超えてからは違いました。
仕事量と仕事の質が、どこかの一点から反比例し始める。その実感がはっきりとあります。
これは「何件まで」という明確な数字で言えるラインではありません。指標にしているのは、毎週、自分がちゃんと動けているかという体感のほうです。
前のめりに準備できているか、相談に対してきちんと頭が回っているか。そこが鈍ってきたら、それが上限のサインだと考えています。
ご依頼をいただいたときに「ありがとうございます」と素直に思えるかどうか。
増やさない理由—これは「設計」の問題
正確に言うと、「増やしたくない」のではありません。「増やすと壊れる設計」で事務所をつくっている、というのが実態です。
ひとりでやる以上、提供できるサービスの上限は、自分の稼働時間そのものです。そして税務には、外注や分業ができない領域があります。
判断の質と、クライアントとのコミュニケーション。この二つは、誰かに肩代わりしてもらうことができません。
「スタッフを雇えばいいのでは」という選択肢も、一度は真剣に考えました。今も雇用についてはアルバイトまでと決めていて、お客様への対応はすべて自分が行う体制を崩していません。
そのアルバイト雇用も、今後どうしていくかは考えているところです。人を増やす方向ではなく、AIの活用や効率化で、自分の手の届く範囲をどう広げるか。そちらに重心を置いて検討しています。
正直なところ、まだ頑張ればもう少しできる気もしています。でも、無理をしてまで増やしても仕方がない、とも思うのです。
今はちょうど、自分が設定した上限に達しつつある時期です。だからこそ、超えてしまってから慌てて止めるのではなく、クオリティを守るために、いったん自分の判断で止めました。
新規のご依頼をお断りすることはこれまでにもありましたが、それを後ろめたく思わなくなったのは、5年目を過ぎたあたりからです。
断ることもまた、引き受けた仕事への責任の一部だと考えられるようになりました。
クライアントから見たときの意味
ひとり事務所に依頼するということは、こういうことを選ぶのだと思います。担当が変わらない。窓口が一人。判断が最初から最後まで一貫している。
大きな事務所に比べれば、対応できる量はどうしても少なくなります。その代わり、一つの案件にかかる責任の総量がまったく違います。
選ぶ基準として、正直にお伝えしておきたいことがあります。急ぎのご依頼、大量の資料整理、税務以外の幅広い対応——こうしたものが必要な場合は、規模の大きな事務所のほうが合っています。
これは優劣の話ではなく、向き不向きの話です。
一方で、「決算・申告を毎年同じ人に任せたい」「クリエイターの税務に詳しい人に継続して相談したい」という方には、ひとり事務所のほうが合う場面が多いはずです。
一貫して同じ人間が見ているからこそ届く部分が、確かにあります。
まとめ
上限を守ることは、クオリティを守ることと同じだと考えています。
この「増やさない理由」をきちんと言葉にできるようになるまで、8年かかりました。
独立する前の自分には、これがまったくわかっていませんでした。当時は、増やせるだけ増やすのが正解だと思い込んでいたからです。
現実的な第一歩として、ひとり事務所への依頼を検討されている方にお願いしたいことがあります。「自分が何を重視するか」を先に整理してから問い合わせていただけると、話がいちばん早く進みます。
スピードなのか、一貫性なのか、専門性なのか。そこがはっきりしていれば、こちらも適切なご案内ができます。
