2026年5月14日、AnthropicがClaude for Small Businessをリリースしました。
この記事を書いているときにたまたま目に入ったのですが、会計ソフトや決済サービスと直接つながり、月次の帳簿締めから損益サマリーの作成、未回収先への督促メールの下書きまでをAIが自動でこなす仕組みです。
「記帳代行はAIに置き換えられてなくなる」という声が税理士業界で増えているのは知っています。このニュースを見て、改めて自分の考えを整理してみました。
「記帳代行はなくなる」論は、本物だと思っている
結論から言うと、この方向性は否定しません。
AIが会計ソフトに直接つながって月次作業を自動化する流れが、日本でもfreeeやマネーフォワードが同様の機能を載せてくるのは、おそらく時間の問題です。
「記帳をしてあげること」自体が事務所の売りにはなりにくくなる、というのは現実として受け止めています。
ただ、そう言い切るには条件があると思っています。
それは「データが整っている前提」の話だ
AIが記帳を自動化できるのは、そもそも資料やデータが揃っている状態が前提です。月次の帳簿をAIが締めてくれると言っても、締める対象のデータが存在しなければ何も始まりません。
これはAI以前から、税理士業務に共通する構造的な課題です。お客様に資料やデータを適切に、過不足なく揃えていただけないと、仕事が前に進みません。
領収書が手元にない、売上の入金経路が複数あって把握しきれていない、そもそも何をどこに保存しているかわからない。
個人の場合は事業とプライベートのお金の管理が混在している。こういった状況は、個人事業主や小規模事業者では珍しくありません。
AIはデータを処理するのは得意です。でも、データを集めて整える「前段階」は、まだ人が関わらないと動かないことが多い。記帳代行の代替が進む世界は、この前段階が解決された世界の話です。
漫画家・同人作家は、その傾向が特に強い
私が主要顧客にしているのは漫画家・同人作家の方々です。正直に言うと、この業種のかたは資料の収集からしてかなり怪しいケースが多いです。
事務仕事が苦手な方が多く、売上の把握が曖昧だったり、経費の領収書が行方不明だったりすることも少なくありません。「何がどこにあるか」から一緒に整理することが、実際の仕事の入口になっています。
現状、私は毎月の請求書を送るタイミングで資料の共有をお願いしています。リマインドや確認のやりとりも含めて、人力でのフォローが続いています。
AIが自動で月次を締めてくれる世界は、少なくともこの層にはまだ少し遠いというのが実感です。
「なくならない」と「安泰」は、別の話
ただ、「だから安泰」とは思っていません。
スマホで領収書を撮るだけで自動仕訳・自動送信まで完結するような仕組みが一般化すれば、今の「資料が集まらない」問題のハードルはじわじわ下がります。実際これに近い機能がfreeeでもベータ版で導入され始めています。
「今は代替されない」と「5年後も代替されない」は別の話で、楽観できるほど時間の余裕があるとは思っていません。
もうひとつ、採算の問題もあります。資料が揃わない層のサポートは、整った状態のお客様よりも工数がかかります。
その工数に見合った料金体系を設計できているか。「なくならない仕事」であることと、「それで食べていける」ことは別です。
だから私が考えているのは、守りの論理ではなく、積極的な特化です。
漫画家・同人作家という、事務処理が苦手で資料が揃いにくい層に深く関わり続けること。その層のサポートを他の誰よりも丁寧にできることが、AI時代でも必要とされる理由になる。そういう考え方で動いています。
試行中のこと、変わらないこと
そのうえで、今試していることがあります。漫画家・同人作家の方向けに、AIをオンライン秘書的に使える仕組みを作れないかという試行錯誤です。
資料の収集や事務処理の前段階をAIがサポートできれば、お客様の負担も減るし、私の工数も下がる可能性があります。
ただ、これはまだ試している段階です。完成した仕組みではありません。Claude Codeも使い始めて2週間で、うまくいくこともあれば、思ったより手間がかかることもあります。
変わらないことも書いておきます。
- 最終的な税務判断は税理士が行います。AIがどれだけ便利になっても、判断の責任はここにあります。
- お客様との対話や関係性は変わりません。むしろ、効率化で生まれた時間をここに使いたいというのが本音です。
「完成してから発信しよう」と思うと、いつまでも書けない。試している途中でも、考えていることを言葉にしておくことに意味があると思っています。引き続き試しながら、役立てるところで活用していきます。
