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令和4年2月15日裁決 名義預金の範囲についての考察②

公表裁決から名義預金を考える

前回の記事から引き続いて令和4年2月15日公表裁決を解きほぐしていきます。

前回は状況整理から争点整理まで進めました。ここからは審判所の判断を軸に名義預金について考察してみます。(争点3のみ触れます)

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目次

更正処分の根拠

更正処分の概要としては、「本件現金71,000,000円、配偶者L名義のR銀行定期預金10,626,918円、二男M名義のN銀行定期貯金9,500,000円、3,000,000円の合計94,126,918円が申告漏れである」というものでした。

つまりこのおよそ9,400万円が被相続人Kの財産である(名義預金である)ということで更正処分をしています。

その更正処分をした根拠として原処分庁(以下、税務署と表現します)は以下のことを理由として付しています。

要約すると

  1. 相続開始前に被相続人を含む親族の名義の預金口座から預金を引き出した
  2. 税務調査で本件現金のうち6,500万円を提示した
  3. ほかに1,200万円を保管していることを報告した
  4. 配偶者Lは本件貯金(9,500,000円と3,000,000円)についてわからないと供述
  5. 二男Mは本件貯金の存在や作成経緯について知らず、原資も拠出していないと供述
  6. 当初申告に計上した現預金195,070,091円と、本件現金等(前述の94,126,918円)配偶者L名義のP信用金庫預金16,161,101円の合計は305,358,110円である
  7. 被相続人Kと配偶者Lは相続贈与により愛さんを受けたことがないという説明が提出資料から示されている
  8. このことから305,358,110円は被相続人Kと配偶者Lの収入から出捐したものであると認められる
  9. 被相続人Kと配偶者Lの生前の収入金額を元に計算した場合、被相続人Kと配偶者Lの生涯賃金等の割合は95.31%と4.69%に計算できる
  10. この割合を305,358,110円に対して乗じて計算したら被相続人Kは291,036,815円となり配偶者Lは14,321,295円となる
  11. 申告している預貯金、本件現金等の合計は289,197,009円であり計算した291,036,815円を下回っている また配偶者L名義のP信用金庫の預金16,161,101円は計算した14,321,295円を上回っている

もっと簡単にすると、税務署側で調べた生涯賃金や年金などの収入をベースにした金額をもとに計算して、約9,400万円は名義預金だから更正処分をしている、ということになります。

今回の裁決の一番のポイントがこの「生涯収入をベースに現預金の配賦をして名義預金として認定した」という部分です。

審判所の判断でもこの部分が検討されています。

ちなみに請求人(相続人等)はこの理由として付されている内容について間違っているという主張です。(だから不服審判所に申し立てしたわけです)

審判所の判断

ここからは審判所の判断を見てみましょう。

法令解釈といってまずは名義預金についてどう判断するかという部分に触れています。

この部分は非常に大切なので裁決として公表されている部分から引用します。

 一般的には、外観と実質は一致するのが通常であるから、財産の名義人がその所有者であり、その理は預貯金等についても妥当する。

 しかしながら、預貯金は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、また、家族名義を使用することはよく見られることであるから、その名義と実際の帰属とが齟齬する場合も少なくない。このような場合、ある財産が被相続人以外の名義であったとしても、当該財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められる場合には、当該財産は相続税の課税の対象となる相続財産に当たると解される。

 そして、被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその原資の出えん者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することとなった経緯等を総合勘案して判断するのが相当である。

令和4年2月15日裁決より

一般的には外観と実質は一致する、つまり名義人がその所有者であるというのは預貯金等についても言える、としています。

ただ、預貯金については現金化や預け替えが容易にでき家族名義を使用することはよく見られるので、名義人と実際の帰属が齟齬(ちがってくる)も少なくない。

この場合にはある財産が被相続人以外の名義であったとしても、その財産が相続開始時において被相続人に帰属すると認められる場合には、被相続人の財産として相続財産に該当することもある。

その財産が被相続人以外の名義であっても被相続人に帰属するものかどうかの判断は、

  • 財産又はその原資の出えん者(おカネの出どころ、稼いできたひとは誰か)
  • 管理及び運用の状況(誰が管理運用しているか)
  • 財産から生ずる利益の帰属(利益が出る場合、誰に帰属するか)
  • 被相続人と名義人、管理運用する者との関係
  • 名義人がその名義の財産を有することになった経緯

などを総合的に勘案して判断するのが相当、としています。

続いて認定事実として次のことを説明しています。

申告計上している預貯金、定期預金、各貯金の原資については原資を特定できない。また申告計上している名義預金のうち長男、二男、孫名義の預金については存在自体を知らなかった。

預貯金等の管理および運用状況について。配偶者Lが生前から自身の収入や資産とともに被相続人Kの収入や資産を管理している。

被相続人K及び配偶者Lの収入について。被相続人Kは40年弱にわたって地方公務員として勤務し定年後も再就職して収入を得ていた。配偶者Lについても勤務期間等は不明であるがS(会社)等において勤務をして収入を得ていたこともあった。

被相続人K及び配偶者Lからの贈与について、長男や二男、孫は贈与を受けたことはない。

名義預金として当初申告に約1億4千万円を計上した経緯について。税理士である長男は出金を確認していたが行方が不明であったことから被相続人Kと配偶者Lの過去の収入を考慮し、両者の資産形成への貢献度を検討したうえで口座名義に関わらず名義預金として考えられる金額を計上して申告をした。

上記をもとに審判所は検討しています。

主なものとしてピックアップすると

  • 原資はやはり特定できない
  • 地方公務員であった被相続人の生涯収入から合理的に推認される金額よりも、約3億円という金額は多額であり不自然である
  • 配偶者も収入を得ていたと認められる
  • 被相続人と配偶者の収入や資産が明確に区別されていたことを示す証拠がない
  • 申告計上している名義預金は原資を出えんしておらず存在も知らなかった
  • 贈与された事実がないこと等を考慮すると、本件現金(7,100万円)は被相続人と配偶者の収入が混在したものである可能性を否定できない

この場合において収入比率を用いて按分する方法でいずれに帰属するものであるかを推認することは一定の合理性がある。

しかし、審判所の調査によっても被相続人及び配偶者の生涯収入の金額を確認できなかった。これによりあん分計算の前提となる生涯収入に基づく適切な収入比率を求めることができない。ほかにあん分する方法も見当たらないため本件現金の帰属を決定することができない。

申告計上している現預金については遺産分割の対象として分割をしており、名義預金として計上した金額は被相続人に帰属する部分として計上しており積極的にこれを否定する証拠関係はなく不合理なものとまでは言えない。

上記を考慮すると更正処分の対象とした本件現金を申告計上した現預金を超えて被相続人に帰属する相続財産として存在していたものと断定することはできない。よって申告計上している現預金をもって被相続人に帰属していたものとみることもやむを得ない。

定期預金や各貯金についても原資が特定できず、収入がその原資に混在している可能性を否定できない。本件現金と同じく合理性を有する方法であん分計算ができないから、この定期預金と各貯金についても被相続人に帰属していた相続財産と断定できない。

結論としては、本件現金等(約9,400万円)は相続財産であるとは認められず、相続財産であるとしてなされた本件更正処分等は違法であるから全部を取り消すべきとなりました。

コメント

最終的には更正処分が全部取り消しという判断になった名義預金に関する裁決でした。

個人的な見解としては名義預金として断定する材料、合理的な計算方法がほかにないと、当初申告で名義預金と思しき財産を計上している場合には「追加で」ということはかなり難しいだろうなということです。

本件においては生涯収入をもとにした被相続人と配偶者の総財産をあん分をすることを税務署側が試みています。

まずここが審判所の調査によっても判然としなかったことから、この計算方法そのものが本件においては合理性に欠けると判断されています。

推認される生涯収入よりもはるかに高い金額を名義預金として認定しようとしているわけですからその点も考慮されています。

生涯収入を適切に把握する、ということもハードルが高いですし、稼いできたものから生活費等として費消する、使っている分もあるでしょう。また、金融資産として投資をして増えている部分があるかないかなど個別の財産形成要因もあるはずです。

税理士としては相続税申告にあたって名義預金と思しきものがでてきたり、税務調査で行方が分からなくなっていた相続開始前の出金が原資と思しき多額の現金が出てきたりと対応には相当苦慮しただろうなと推測します。

それでもヒアリングや財産形成要因の丁寧な確認を通じて、苦慮しつつも計上した名義預金があるのであればほかに否定する材料や計算方法がなければ、その名義預金の金額は受任されるのだろうなというのが裁決を通じて感じたことです。

審判所の検討冒頭での法令解釈は名義預金を考える上での重要な部分ですので再度確認しておきたいところです。

まとめ

名義預金についての公表裁決を解きほぐしてみてみました。

やはり名義預金として計上したほうがいい財産かどうかは相続税申告時によくよく確認とヒアリングをして、計上するかどうかを総合的に勘案する必要があります。

名義預金は長く夫婦関係が続いているとより発生しやすくなるものですし、あっても不思議ではありませんので心配な方はお近くの税理士に一度相談するのもよいでしょう。

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この記事を書いた人

京都市下京区で税理士をやっています、ジンノユーイチ(神野裕一)です。
相続や事業のお困りごとを丁寧に伺い、解決するサポートをしています。
フットワーク軽く、誠実に明るく元気に対応いたします。

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