毎年、国税庁や国税局から申告実績や調査実績が発表されます。
業種に絞って申告漏れの金額や件数などを発表する資料があるのですが、そこに時々漫画家がランクインすることがあります。
漫画家が税務調査で申告漏れを指摘される理由や内容について、少し検討してみます。
無申告のケースが最も多い
漫画家が申告漏れを指摘されるケースとして最も多いと考えられるのが、無申告の状態です。
昨年や一昨年あたりから、漫画家の方の申告漏れや無申告について報道されることがありました。
動画配信者などもそうなのですが、漫画家は特に有名な方が検挙されてしまったこともあり、注目された事例がありました。
私の事務所でも漫画家や同人作家のお客様が多いのですが、ご依頼をいただく理由の一つとして、「自分ではできない」ということと、「ちゃんと申告しておきたい」という気持ちがあるという方が多いです。
漫画家の方の顧問をしていて感じるのは、やはり「申告漏れが自分でやっていると起きそう」「無申告になってしまいそう」という不安があるということです。
ものすごく悪気があるというわけではないのですが、どうしても忙しさに負けてしまい、申告や決算が後回しになっているケースを本当によく見かけます。
「顧問をお願いしたいのですが」というご相談をいただいて、昨年の分を見せていただくようにお願いしても、「実は昨年も申告していなくて」と言われることも実際ありました。
そういったケースだと、昨年の分を一緒に申告する、早めに申告をして今年の分に着手するということは、提案事項としてよくあります。
やはり忙しさに負けてしまうことが、漫画家の場合は多いのかなというのが私の印象です。
漫画家の無申告が判明する理由
この事務所ホームページの記事やYouTube動画でも何度もお伝えしていますが、漫画家や同人作家の方の無申告が判明する理由として大きく考えられるものの一つが「支払調書」です。
支払調書というのは、例えば出版社と漫画家の関係で考えると、出版社は漫画家から原稿を預かって、それを出版します。
その原稿に対して支払われるものが原稿料です。また、出版社はその原稿を本にしたり電子書籍で配信することで印税を漫画家に支払うことになります。
漫画家に支払った印税や原稿料からは源泉徴収をすることになりますので、出版社は漫画家に払う前にを源泉所得税として天引きし、それを税務署に納めます。
漫画家自身が受け取る金額は、源泉徴収された後の金額になります。税金は前払いしている状態です。
1年間の支払い金額の内容や源泉徴収の金額をまとめて、出版社は税務署に「支払調書」というものを提出する義務があります。
この支払調書は、税務署に本来提出するもので、漫画家本人に提供する義務はありません。
なので漫画家本人はそれをベースに申告をすると間違いが発生するケースもあるのですが、ある意味で、出版社から税務署に「この作家にいくら払った」という情報提供がされていると考えてもらっても良いでしょう。
税務署の方では、支払調書の内容と申告内容を照合することがもちろん可能と考えられます。
ですので漫画家や同人作家については、出版社から提出される支払調書から申告しているかどうかは調べればわかると考えておいた方がよいです。
作家本人は支払調書の存在を知っていたとしても、それが税務署に提供されていることを知らないケースもあるでしょう。
忙しさに負けてしまって、無意識に無申告になっている状態が税務署に筒抜けの状態とも言えます。
そうなると税務署としても無申告の状態を把握しやすいわけですから、調査につながるという流れです。
また、時々あるのが「毎年還付になっていたので、申告しなくてもいい、後回しでもいいと思っていた」という方もいらっしゃいます。
ただ、実際のところそれが還付になっているかどうかというのは、やってみないとわからない部分もありますので、無申告の状態はやはり避けた方が良いです。
結果的に納付になっていると、無申告によるペナルティなどのダメージが大きくなっていきます。
後回しにしてしまうという気持ちについて、私はお客様である漫画家や同人作家の方に聞いたことがあるのですが、やはり皆さん自信がないとおっしゃるケースも多いです。
特に商業出版で連載を抱えているケース、同時進行で制作にかかりっきりであれば、スケジュール的に絵を描く時間でいっぱいいっぱいで、申告や決算に手が回らないというのは本当によく見聞きします。
そこの部分をサポートしてもらうだけでも、絵を描く時間に集中できたりしますので、税理士に相談して依頼するのがおすすめです。もしそういう心配がある場合は、早めに顧問のご相談をしておいた方が良いでしょう。
まとめ
漫画家の方が税務調査で申告漏れを指摘される最大の理由は「無申告」です。
必ずしも悪意があるわけではなく、創作活動の多忙さや申告手続きへの自信のなさから、つい後回しにしてしまうケースが多い印象です。
一方で、出版社から提出される支払調書により、税務署は漫画家の収入状況を把握できる仕組みになっています。
「還付だから申告しなくてもいい」という認識も危険で、実際に納付が必要な場合、無申告のペナルティは重くなります。
創作活動に専念するためにも、税務申告は専門家にサポートしてもらうことをお勧めします。不安がある方は、お早めに税理士への顧問相談をご検討ください。
