不動産を売却した際の申告についてご相談があった際に、売却した不動産の取得価額のお話が出てくることがあります。
一番望ましいのは取得したときの契約書等で金額がわかることです。ただし昔の契約や相続してきたものだと契約書が残っていないケースもあるわけです。
そんなときに取得価額をどのように把握するか、市街地価格指数はそもそも使えるのかという話をお伝えします。
取得価額は税額への影響が大きい
不動産を譲渡したときの所得税の計算は以下のような流れになります。
売却対価-取得価額=譲渡益
譲渡益×所得税率=所得税
この流れです。
売却は申告のタイミングから見ると直近で近いですし売却の契約書を紛失することは考えづらいですから対価はすぐわかります。
問題は取得価額です。
取得価額を把握できるかどうかにより譲渡益の金額が大きく変わり、ひいては所得税の金額も変わります。
原則としては取得時の価額が分かるものをもとに計算等をして算出します。契約書などがその根拠資料として一般的です。
こういった根拠資料がない場合には概算取得費として、売却価額の5%を採用しても良い、ということになっています。
仮に1,000万円の売却価額で取得価額を調べても分からない場合の概算取得費は5%ですから、50万円となり、譲渡益は950万円として計算をします。
これがもし取得価額が500万円ということが分かれば譲渡益は500万円。
税率が長期譲渡で15%だとすると概算取得費を採用したときの譲渡所得税は142.5万円(950万円×15%)で、500万円の取得価額を採用できたときの譲渡所得税は75万円(500万円×15%)と大きく変わります。
取得価額をいかに計算できるか、根拠資料から採用できるかがポイントであることがよくわかります。
では市街地価格指数で算出した取得価額を採用することのリスクはあるでしょうか?
市街地価格指数採用のリスクは高い
市街地価格指数とは日本不動産研究所がリリースしている指標です。
過去からの都市圏ごとの宅地の価格推移を指数として公表しているものですので一見すると取得価額として採用できそうに見えます。
ただし以下のような課題があり、取得価額として採用するには慎重な判断が必要です。
- いわゆる六大都市圏しかカバーしていない
- 特定の市や場所の指標ではない
- 個別な不動産の価格推移などを明示するものではない
- 広い視野でのマクロ的な指標にとどまる
これらの点を十分に考慮したうえで採用するかの検討となります。
裁決においても市街地価格指数を採用して算出した取得価額を譲渡所得計算上採用することはできないという内容のものが多く、否定される可能性が高い状態です。
市街地価格指数を採用する前に、不動産売買の取引先からの資料の収集、取得時の相続税評価額が算定できる場合にはその価額、基準地価や公示地価が近傍にある場合にはその価額などを参考にして取得費を推計する方法のほうが望ましいと考えられます。
また金融機関から取得にあたって借り入れをしているのであれば登記簿からその金額が把握できることが多いので、そこからの推計も選択肢のひとつです。
新興住宅地域であれば隣近所で売り出し時の地域の価格表などが手に入ったケースもありますし、中古取得の物件であれば取引相手からの契約書の取得なども検討しましょう。
推計するにあたっての市街地価格指数の採用はかなり否認のリスクが高いと言わざるを得ませんので、くれぐれも安易に採用しないほうがいいと私は考えています。
まとめ
市街地価格指数による譲渡所得の計算についてお伝えしました。ネットなどには採用できると記載があるものも見かけますが、採用できるケースはかなり限定的ではないかなと考えています。
市街地価格指数の冊子を取得してみてみるとリスクが高いということが、よくわかりますので興味がある方は一度取ってみてはいかがでしょうか?
取得価額としてどの価額を採用するかは慎重にかつ丁寧に検討しましょう。