こんにちは、京都の若ハゲ税理士ジンノです。
漫画家さん向けに売上、経費と確定申告のチェックポイントなどを確認してきました。
今回は平均課税という税金計算のしくみについて確認をしていきます。
去年、一昨年よりも印税・原稿料がものすごく増えた、という方は適用できると税金計算が大きく変わりますので、こういう制度があるんだなということを理解しておきましょう。
平均課税とは
所得税の計算は暦年、つまり1月1日から12月31日までに発生した事業などの所得を元に計算します。
また累進課税制度といって所得が増えれば増えるほど、税率があがっていきひいては税金が増えていく形式をとっています。(分離課税の所得を除きます)
この1年間の所得を累進課税制度で計算するルールが大原則です。ただ事業をしていると年間所得が大きくばらつくことがあります。
2017年は所得が1,000万円で、2018年は200万円、2019年は1,500万円、みたいなことになる事業もあるわけです。
それはご本人の事業に関する努力もさることながら偶発的な要因であったり、自然資源に基づくものでこちらでコントロールできないものもあります。
こういったコントロールできない要因に対して税金計算上の特例として平均課税というものが設定されています。
平均課税制度の対象となる所得は変動所得と臨時所得に分類されていて、いずれも列挙されています。
変動所得
事業所得や雑所得のうち、漁獲やのりの採取による所得、はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠、真珠貝の養殖による所得、印税や原稿料、作曲料などによる所得
臨時所得
①土地や家屋などの不動産、借地権や耕作権など不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権、特許権、実用新案権などを3年以上の期間他人に使用させることにより、一時に受ける権利金や頭金などで、その金額がその契約による使用料の2年分以上であるものの所得
②公共事業の施行などに伴い事業を休業や転業、廃業することにより、3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受ける補償金の所得
③不動産、不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権、工業所有権等を3年以上の期間他人(その者が非居住者である場合の法第161条第1項第1号に規定する事業場等を含む。)に使用させる(地上権等の設定を含む。)ことにより一時に受ける権利金等で、その契約による年間使用料の2倍以上のもので譲渡所得以外のもの
④鉱害その他の災害により事業などに使用している資産について損害を受けたことにより、3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受ける補償金の所得
⑤職業野球の選手などが、3年以上の期間特定の者と専属契約を結ぶことにより、一時に受ける契約金で、その金額がその契約による報酬の2年分以上であるものの所得
(いずれも国税庁HPより)
小難しい内容が書かれていますが漫画家さんの確定申告において注意したいのが変動所得に該当する「印税や原稿料、作曲料などによる所得」の部分です。
売上の中に印税や原稿料があれば変動所得となりますので、平均課税制度の適用要件を満たせば税額計算で特例計算を採用することができます。
適用対象のかた
ここからは漫画家さんの変動所得に絞って解説をします。
平均課税が適用されるのは以下の要件を満たしている方です。
前々年、前年に変動所得がなかった方や、前々年、前年に変動所得があってもその合計額の2分の1の金額が本年の変動所得の金額に満たない方については、本年の変動所得の金額と本年の臨時所得の金額との合計額が本年の総所得金額の20%以上であること
↓2020年をベースに考えて解きほぐすと
2018年と2019年に変動所得がなかった方
2018年と2019年の変動所得の平均(足して2で割る)の金額が2020年の変動所得の金額に満たない方
↓
2020年の変動所得の金額が今年の総所得金額の20%以上であること
(※)臨時所得についても平均課税の適用がありますが、漫画家さんにとって臨時所得があるケースは非常にまれですので変動所得についてのみ解説しています。
変動所得の計算
平均課税が適用できると税額計算が有利になります(通常の税金計算よりも税額が抑えられます)。適用できるかどうかについて変動所得の計算が必要となりますのでこちらも確認していきます。
変動所得とは売上のことではなくて売上から経費を引いたものになります。
漫画家さんの場合で言うと、印税や原稿料を得るためにかかった経費の金額を差し引いて変動所得を計算します。
印税や原稿料には紙の書籍や原稿によるものもありますが、いわゆる電子書籍を販売したことによる印税も含まれます。
一方で書籍を印刷して本を売っている場合やイベントでの同人誌販売については印税や原稿料ではありませんので、そもそもが変動所得計算の対象外です。
漫画家さんにとってはイベントでの売り上げももちろん大事ですし、印税・原稿料についても同様に収入源のひとつです。多くの漫画家さんにとっては両方の売上があるケースが多いです。
変動所得の計算は売上から経費を差し引くとお伝えしましたが、印税・原稿料の収入にかかった経費と書籍販売にかかった経費をキッチリ区分できる場合には変動所得計算も問題なく簡単です。
ですが多くの場合には両方の収入に渡って経費がかかっていると考えられますので、そういう場合は売上の割合で合理的に区分するしか方法がないと考えられます。
事業所得や雑所得のうちに変動所得とそれ以外の所得とがある場合には、それらの事業所得や雑所得の必要経費は、変動所得の収入金額に対応する部分とそれ以外の部分とに区分して計算します。
なお、それぞれの収入金額に対応する部分の金額が個別に計算できない必要経費については、その必要経費の種類や性質に応じ、収入金額の比や従事割合、使用割合その他適切な基準によってあん分します。
(※)国税庁HPより
このあたりは専門的な話しになりますのでお近くで相談できそうな税理士に確認をして、可能であれば申告書を作成してもらったほうが安心でしょう。
平均課税計算のしくみ
さいごに平均課税計算を適用できるとどれくらい税額に影響するか確認しておきます。
平均課税の計算は5分5乗といわれることがありますが、大まかな解説をすると変動所得を5分の1して計算した税額を5倍する、ということです。
そんなに違わないのでは?と思うかもしれませんが、所得税の計算は所得が増えれば増えるほど税率が上がっていく累進課税制度です。
5分の1できると税率が下がりますので、税金計算そのものに対するインパクトが非常に大きくなります。仮に変動所得が500万円だったとして平均課税を適用してみると(他の控除項目等は割愛します)
(シンプルに金額を確認するため復興特別所得税も省略しています)
平均課税の適用前
5,000,000円×20%-427,500円=572,500円
平均課税の適用後
5,000,000円÷5=1,000,000円
1,000,000円×5%=50,000円
50,000円×5=250,000円
シンプルな計算過程としていますが、倍以上の税額の差が生まれています。
これは変動所得が増えれば増えるほど税額の差が大きくなりますので、変動所得が多額にある場合には平均課税が適用できなかなと検討していただいたほうがよいでしょう。
まとめ
平均課税そのものをご存知でない漫画家さんもおられますが、気が付いたときには時すでに遅し、というわけではなく5年分は還付申告できる可能性がありますので諦めるのはまだ早いです。
青色申告だけの制度でもありませんので、もしご自身で申告をしていて適用していない場合には一度税理士にご相談をしたほうがよいでしょう。