中小企業の会計や税務において悩みどころなのが貸倒損失です。計上タイミングの検討や必要なことについて、少し整理をしておきます。
貸倒損失とは
貸倒損失とは、売掛金等が貸し倒れることによって計上する損失のことです。売掛金が貸し倒れるというのは、取引先からの回収が難しくなったことを意味します。
中小企業の経理担当者だと「赤伝票を切る」と言ったりするのですが、赤伝票は売上高のマイナス処理ですので、そうではなく貸倒損失という損失を計上することになります。
仕訳例としては、「借方・貸倒損失/貸方・売掛金」という形です。
貸倒損失を計上することは、企業にとって大きな損失です。本来であれば回収できるものが回収できないということになるからです。
品物を渡したり、サービスを提供したり、工事が完了したり、業務として完了したときに請求書を発行しているはずです。
その請求に対して回収ができないということは、要はただ働きどころか、その仕事に対してかかった費用も回収できないということになります。
そのため、貸倒損失はできれば回避したいことではあるのですが、ある程度の規模になってくると、やむをえず発生するケースもあります。
税理士の立場で見ると、中小企業で税理士が変更になるケースだと、貸倒損失等がないか、いわゆる「長期滞留債権」と呼ばれるものがないか確認をすることが多いです。
例えば、2代目、3代目になってくると、先代の時に発生した長期滞留債権があるケースもみかけます。
本来であれば貸倒損失として計上するタイミングがあったにもかかわらず、放置されてしまっているケースがあります。
そういった場合は、タイミングを逸してしまっている可能性が高いため、貸倒損失として計上はするけれど、税務上は自己否認するという形をとることが多いです。
貸倒損失を計上できるタイミングは皆さんが思っているよりもかなり厳格というか厳しいのでその点には注意が必要です。
回収できなくなったタイミングを適切に把握できないと、過年度のものは税務上の損失計上が難しいと思っておいたほうがよいです。
法人税基本通達を確認
中小企業にとって法人税を計算するときの税務署側のルールになるのですが、基本通達というものがあります。
これは国税において、基本的にはほぼ全ての税金のルールに対して制定されているもので、基本的には税務署側のルールになります。
通達はあくまで運用上のあちらのルールですので納税者を拘束しないとも言われます。
ただこちらとしても、その税務署側のルールを全く無視して申告をするということはかなりリスキーですので、ここで貸倒損失に関する法人税基本通達を確認しておきましょう。
法人税基本通達の9-6-1から9-6-3までが、貸倒損失に関する規定として設けられています。
- 9-6-1:法的に破産や倒産をしている状態のものについて、貸倒損失を認めるという内容
- 9-6-2:取引先が債務超過などに陥っていて回収が実質的に難しいという時に計上することができるという内容
- 9-6-3:一定期間取引が停止した後に回収ができなくなったものについて、状況によって貸倒損失を計上できるというルール
まず、貸倒損失を検討する際には、このどれに該当するかということを確認することが大事です。
また、事前に貸倒引当金の計上をしておく、個別で引当金の処理対応をしておくというのも必要なことです。
いきなり貸倒損失を計上すると、検討しているのかどうかを疑われる可能性がありますので、取引先の状況に合わせて確認をしておいた方が良いでしょう。
税務調査で指摘されないために
税務調査において貸倒損失が指摘されるケースは非常に多いです。
というのも、税務署から見ると適切なタイミングで計上されているかどうか、内容が正しいものかどうかを確認することが多いからです。
もし仮にこの貸倒損失が否認されると、延滞税などを大きな金額を納めることになり本税と合わせて数百万という可能性も出てきます。
そのため、税務調査で指摘されないために、ある程度こちらとしても事実(証拠と考えてもらってよいです)を積み重ねておく必要があります。
前段で触れたように、いきなり貸倒損失を計上するわけではなく、例えば、請求書を送っているけど回収が難しいという場合には、売掛金から破産更生債権に一度振り替えておくというのも必要でしょう。
これは決算のタイミングなどで行うことになりますが、回収ができないからといって請求書を送らないというのはやめておいた方が良いです。
請求書を送るなどして、債権を請求する、入金を促すということはすごく大事なことです。
もし請求書が宛所不明で返ってきたとしても、そういったことを記録として残しておくことは税務調査で指摘されたときの状況証拠として有用です。
また、取引先に売掛金の残高照会をしておくというのも有効と言われています。
いくらいくらの売掛債権を認識しているのでそちらでも確認してくださいということを相手方に通知するということです。こういったことも大事なことになります。
また、最終的にどうしても貸倒損失に計上せざるを得ない相手方が、夜逃げ同然で法的整理も行われる見込みがないという場合には、債権放棄を検討する必要があります。
債権放棄については民法の規定にあり、相手方に通知することが必要です。こちらだけで勝手に判断するとリスキーです。
例えば内容証明や特定記録などで相手方に「あなたに対する売掛金は放棄します」という意思表示をしておくのが望ましいとされています。
このプロセスを飛ばしてしまうと、貸倒損失として計上が難しいと言われる可能性がありますので、貸倒損失は金額が大きいケースは特に丁寧に対応しておく必要があります。
具体的な対応手順としては:
- 請求書を定期的に送る
- もし宛所不明で返送されてきたらその記録を残す
- 残高照会をかける
- 最終的には内容証明や特定記録で債権放棄の書面を郵送する
- 場合によっては相手方から決算書などを取り寄せて債務超過であることを確認する
5については基本的には決算書などの財務関係書類の開示に協力をしてくれない取引先の方が多い印象ですが、連絡ができる場合などにはそういったことも相談して検討してみてください。
まとめ
貸倒損失の計上は、中小企業にとって避けられない課題の一つですが、適切な対応をしないと税務調査で問題となる可能性があります。
重要なポイントは以下の3点です。
1. 法人税基本通達(9-6-1~9-6-3)のどれに該当するか確認する
法的整理の状況、債務超過の状態、回収不能期間など、相手方の状況に応じた適用要件を確認しましょう。
2. 事前に証拠となる事実を積み重ねる
いきなり貸倒損失を計上するのではなく、請求書の継続的な発送、残高照会、破産更生債権への振替など、段階を踏んだ対応が重要です。
3. 最終的な債権放棄は書面で明確に
内容証明郵便や特定記録郵便を使って、債権放棄の意思表示を確実に残しておくことが税務調査対策として有効です。
貸倒損失は金額が大きくなりがちですので、日頃から取引先の与信管理を徹底し、万が一の際には適切な手続きを踏むことで、税務リスクを最小限に抑えることができます。
