相続税申告において債務控除を考えるときに気を付けたいポイントを整理しておきます。
債務控除の債務とは
債務控除は基本的な認識としてご本人が支払うべきものが亡くなったことによって支払えなかった、という項目です。
ここでポイントになるのが「確実と認められるもの」というワードです。
その人の債務(未払金、未払費用、借入金など)があればなんでも計上できるわけではなく確実と認められるかどうか、というのが計上の際に検討するポイントになります。
医療費や介護関係の費用、自宅や介護施設の家賃・施設利用料などはご本人が支払うべきものですし計上することにあたってわかりやすいです。
ご質問をいただくのは保証債務や連帯保証債務が債務控除の対象になるか、ですが原則として保証債務は確実と認められる債務ではないので控除の対象にはなりません。
ただし一部例外として「ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証人がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償権を行使しても弁済を受ける見込みのない場合には、その弁済不能部分の金額については、債務控除の対象となります。」(国税庁HPより)
よほどの場合でない限り保証債務は債務控除の対象にならないという点を理解しておきましょう。
また借用書がないと計上できないかを聞かれることがあるのですが、必ずしも書面で借用書が残っていないとダメ、ということはないです。
(相続税基本通達14-1)
債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。
ただし、借用書があっても原本がないと否認された事例があるのと、当然に借用書があったほうが証拠としては望ましいと考えられるためそういう金銭のやり取りが親族との間でもあるのであれば借用書は準備しておいたほうが安全ではあるでしょう。
借入金か贈与かの問題
例えば親族からの借入金がある場合に債務控除の対象になるものだとして債務控除として計上したとします。
相続税の税務調査があったときに何か問題になることがあるか検討しておきます。
親族間でしたが借用書も準備していて借り入れの目的もきちんと判明しているとします。
亡くなった方の債務控除なわけですので返済が必要なものとなるわけですから、親族から金銭を借り入れている状態です。
税務調査で問題になる可能性があるのは、親族だからという点です。
親族だと内容として甘くなりがちではあるのですが例えば実際に返済の実績が全くない場合はどうでしょうか。
金銭の移動があって返済していない状態だと、相続税の税務調査では本当に借入金だったのか、というのが指摘される可能性があります。
通常第三者との金銭の貸し借りであれば利息を含めて返済があってしかるべきです。
親族間だと返済しなくてよいというわけではないので、返済がないのであればもともと返済してもらうつもりがなかったのでは=贈与ではないか、という疑いをかけられる可能性がでてきます。
返済がないのであれば元から返してもらうつもりもなかったよね、と言われると確かにその可能性も無きにしも非ず。
贈与だと認定れると贈与税などの追徴の可能性が高まりますし、債務控除の対象ではないと認定されると相続税から差し引く分がなくなるため相続税も追徴になります。
今回は債務控除として亡くなった方お金を借りている状況で説明をしましたが、反対にお金を親族に貸している状況でも同じような問題がでてきます。
同族会社への金銭の貸付は相続財産として認定されることが多く、それを返済可能性がないものとして計上しないことが認められるのは相当に厚く高い壁があるのも事実です。
親族間や同族会社宛の貸し借りについては特に返済実績が考慮されることは頭の片隅においておいたほうがよいでしょう。
まとめ
親族間の金銭取引については、借用書の作成と適切な返済実績の確保により、税務調査での指摘を回避することが重要です。
債務控除の基本ルール
- 被相続人が確実に支払うべき債務のみが控除対象
- 保証債務は原則控除対象外(例外あり)
- 借用書は必須ではないが、あると安全
親族間借入の注意点
- 返済実績がないと「贈与」と認定されるリスク
- 贈与認定されると贈与税追徴+相続税での債務控除否認
- 親族間・同族会社との貸借は返済実績が特に重要