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著作権に関する所得の帰属を考えてみる

著作権に関する所得の帰属を考えてみる

個人や法人の所得について誰に帰属するのか、つまり誰の所得なのかというのは税務計算上とても重要な要素です。

Aさんの所得なのかB法人の所得なのかでどういう税金の課税対象となるかが変わりますし、そこが違うとそもそも税務申告が間違っているのではということにもなりかねません。

最近、著作権に関する所得の帰属について考える機会がありましたので私が考えていることなども含めて検討してみます。

目次

所得の帰属とは何か

所得の帰属に関する法律条文をまず確認してみましょう。

所得税法12条(実質所得者課税の原則)

資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する

という内容があります。

名義人ではなく実質的にその収益を享受する人が別にいるのであればその享受する人に帰属する=実質的に所得を得る人のもの、という規定です。

簡単なようで実は難しく、この帰属についても法律的帰属説と経済的帰属説があるとされています。

法律的な帰属を重視するか、経済的な帰属を重視するか、という2つの通説があり、法律的な帰属を重視する法律的帰属説が通説とされています。

法律的な部分を重視して判断しましょうということですね。

ただこれに関しても所得の内容や例えば不動産の使用貸借の問題などがあり一律的にこれをそのまま当てはめることはできないケースもあると考えられます。

著作権は誰に帰属するのか

著作権についてはそもそも誰に帰属するのかを整理してみます。

著作権は著作権法により定義、規定があるためそちらを確認することが大事です。

著作者とは、著作物を創作する者をいい(著作権法第2条2項)、著作者は著作者人格権と著作権を享有する(著作権法第17条1項)。

また、著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない(著作権法第17条2項)とされているため、著作者に著作権が帰属するとされています。

著作者=創作者ですのでそう考えると著作権は創作したひとが所有するというのは比較的わかりやすいと思います。

考察と私見

私の事務所では漫画家や同人作家のかたの顧問を通じて法人化・法人成りのご相談をいただくケースがあります。

この際に著作権の帰属を意識することがあり、今回は著作権の帰属からその所得の帰属、法人化した際の懸念点を整理しておきます。

著作権は著作者である創作者に帰属することになるため、著作物から得られる収益も著作者に帰属すると考えるのが合理的です。

そのため、法人化したあとに例えば個人が所有する著作権から得られる収益を法人側でなんらの手当てもなく受け取ることには所得の帰属の問題が発生し場合によっては税務調査で指摘される可能性はあります。

よく似た話として不動産の所得が誰に帰属するかという問題があるのですが、不動産の所得は不動産の所有者に帰属するというのが基本的な取り扱いです。

そのため、法人側でなんらの手当てもなく個人に帰属すべき著作権の使用料等の収益を受け取ることに問題が生じる可能性があると考えています。

また法人側に著作権を譲渡しているとする場合にはその時価の問題が発生します。

著作権の時価は所得の帰属とは別に算定の難しさがあり、相続税における著作権の相続の場合の評価方法などを参考に算定することが考えられますが、著作物の収益可能期間の判断には難しさを伴います。

仮に著作者である個人から法人に著作権を譲渡したとすると、法人から著作者である個人に譲渡対価を支払うことになることから、著作権の時価によってはかなりの譲渡所得税(個人側で課税され総合課税の対象)となることが考えられます。

法人側に著作権を貸付しいわば転貸しているとする場合にはその管理料の目安をどれくらいにするのかという問題も生じ、この場合には不動産管理法人の管理料等が目安にすることも想定しています。

ただし、不動産管理法人の管理料を参考にする場合、管理料はその収益の多くても10%、5~7%ほどが目安ともされていますので、法人側に収益が残らず残りの部分は著作者個人にわたります。

仮に無償で貸し付ける使用貸借の形をとる場合でも、同族会社の行為計算否認という問題が新たに生じるのでこの方式もかなりの注意が必要です。

法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)

同族会社の行為又は計算でそれを容認すると法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、脱税の意思の有無に関係なく、その行為又は計算を否認し、税務署長がその法人の課税標準若しくは欠損金額又は法人税額を計算することができることとしている

少しわかりにくいかもしれませんが、租税回避目的の行為であったり経済合理性が乏しい内容のものは注意が必要だということです。

作家業で個人に著作権が帰属する場合には法人に著作権を譲渡するか、貸付するかの手当てをしておかない限り、法人側で収益を計上することに合理性がないと判断される可能性もあるわけです。

まとめ

所得の帰属問題は税務上非常に重要な論点です。特に著作権から生じる収益については、著作権法に基づき創作者である著作者に帰属するのが原則であることを理解しておく必要があります。

社会保険料対策や税金対策で個人事業主の漫画家・同人作家が法人化することについてよく相談を受けますが、以下の理由から安易な法人化はおすすめしていません:

1.著作権の帰属問題 – 個人に帰属する著作権から生じる収益を法人が受け取ることには、所得の帰属の観点から税務上の問題が生じる可能性があります。
2.著作権譲渡の課税問題 – 法人へ著作権を譲渡する場合、その時価評価は非常に難しく、高額な譲渡所得税が発生する可能性があります。
3.著作権貸付の管理料設定 – 著作権を法人に貸し付ける場合、適正な管理料の設定が必要となり、多くの場合5~10%程度に留まるため、法人側の収益確保が難しくなります。
4.使用貸借の問題 – 無償で著作権を法人に貸し付ける場合には、同族会社の行為計算否認の対象となるリスクがあります。

法人化には社会保険料の削減や一定の税制上のメリットがありますが、著作権から生じる収益の帰属問題を適切に処理しなければ、税務調査等で指摘を受けるリスクが生じます。

法人化を検討される場合には、著作権の取扱いについて税理士等の専門家とよく相談し、適切な対応策を講じることをお勧めします。

また、法人化後の運営コスト(税理士報酬、社会保険料の事業主負担、法人住民税の均等割など)と収益のバランスも考慮したうえで、長期的な視点での判断が必要です。著作活動による収入が安定しない場合は特に、慎重な検討が重要となります。

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この記事を書いた人

京都市下京区で税理士をやっています、ジンノユーイチ(神野裕一)です。
相続や事業のお困りごとを丁寧に伺い、解決するサポートをしています。
フットワーク軽く、誠実に明るく元気に対応いたします。

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