相続のサポートをしていますと遺言についてご相談をいただくこともあります。揉めないための遺言がおすすめなのですが、残念ながら遺言があっても揉めてしまうケースはあります。注意点をお伝えしておきます。
遺言の有効無効
自筆遺言が法務局で保管してもらえる制度が始まったことや手軽さから自分で自筆で作成する遺言も一定程度多いです。
公正証書遺言だと公証人のいわばお墨付きがあり、遺言そのものが無効である、という申し立てはかなり少ないとされています。
遺言が無効であると申し立てされるケースとしてはやはりご本人の意思能力がその時点でなかったはずだ、という主張が多いとされており、公証人はその点もチェックはしています。
認知症の症状があって意思能力がかなり怪しい、低下している場合には公証人による公正証書遺言は作成できないと考えておいたほうがよいです。
自筆遺言はこうしたチェックが働かないことから、遺言の内容的に不利を被っている相続人や受遺者が「この遺言は無効だ」と申し立てることが多い印象です。
遺言があっても揉めてしまうケースのうち多くが自筆遺言とされていますので、その点をフォローしようと思うと弁護士に相談しサポートしてもらうのがよいでしょう。
遺言作成時の音声録音や映像の録画、医師の診断書の取得のアドバイスなどを検討してくれるはずです。
それでもやっぱり認知症の症状が進んでいると難しいですねという結論になることもありますので、遺言を準備しておきたいのであれば早めに対応しておくのが望ましいです。
遺言の存在を相手に伝えない 遺留分の問題
もともと親族間の仲が悪い場合には遺言があったほうが遺産分割を素早く行い、揉め事をおさえる(遺言がある場合で有効ならば遺言が最優先されます)ことが期待できます。
ただこじれすぎていると、だれだれには遺言があることを言うな、亡くなっていることも伝えなくてよい、などと財産を取得する相続人等に伝えているケースもあるようです。
相続人には遺留分という相続で必ず受け取れる割合があり、遺言であってもそれは守られます。
そのため遺言でAさんに財産を全部と書かれていても、相続人であるBさんはAさんに遺留分を請求することができます。
これは遺留分侵害額請求といって認められた権利です。
また自筆遺言の場合で遺言執行者に仮に前段のAさんが指定されている場合にはAさんは遺言執行者としての義務が発生します。
遺言の内容を滞りなく実現し、遺産を実際に分割する手続きとともに相続人に遺言の存在や財産目録を作成して通知する必要がでてきます。
遺言執行者になっているAさんがきちんと手続きしないと、揉め事がさらにこじれることになります。
遺言があれば全く揉めないというわけではなく、揉め事の可能性を少なくできるということは頭の片隅においておいたほうがよいです。
遺留分の問題も遺言があると出てきますので、そのあたりもケアしておくと万全に近づきます。
まとめ
遺言によって揉め事が減らせるケースはもちろんありますが、遺言の取り扱いや内容によっては揉め事が逆に増えてしまうケースもあります。特に専門家(弁護士・司法書士)のチェックが入ってない内容の遺言が揉め事になっているケースは見受けられます。
税務申告は揉め事があっても待ってはくれませんのでその点も考慮しつつどのような遺言の内容がよいか弁護士や司法書士と相談のうえで検討してください。