漫画家・同人作家のかたで青色申告をしている方も多いですが、きちんと複式簿記の原則通りにやれているかというとかなり怪しいケースもあります。
特に売上の計上基準については整理しておくのが望ましいです。
青色申告と複式簿記の関係
青色申告を選択する理由としてはいろんな税金計算上の特典があるからです。
青色申告特別控除(10万円、55万円、65万円)や、少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一括で減価償却費を計上できる)、損失があっても繰り越せる、青色事業専従者給与(親族への給与支払い)が支給できるなど。
メリットが大きい分、制約もあるわけです。
そのひとつが複式簿記による帳簿付けで、一定程度簿記の知識がないと適切な経理や帳簿付けができません。
青色申告を選択するのであれば複式簿記もセットだという認識でいたほうがよいです。
では複式簿記の何がネックになるかというと、貸借対照表といって資産負債の状況を示した書類の作成と発生主義(原則)による帳簿付けです。
この二つがクリアできていないと青色申告特別控除で55万円、65万円を摘要して計算できる帳簿の要件は満たせません。
ここでは貸借対照表はいったん横に置いておいて、発生主義による帳簿付けについて確認しておきます。
漫画家・同人作家の場合には出版社などの取引から印税や原稿料、著作権の使用料が振り込まれます。
振り込まれたときに売上を計上するのが現金主義です。
また締め日の時点で売上を計上するのが発生主義となり、青色申告する場合には発生主義で売上認識をするのが原則です。
例で考えてみます。(源泉所得税の部分はややこしくなりますので簡便にするため省略しています)
9月末に原稿料等の入金がありましたが、出版社から届いた明細では8月1日から8月31日の集計期間という記載があり、8月31日が売上の締め日ということが分かっています。
この場合、現金主義で入力をすると
9月30日 普通預金/売上 1,100,000円 となりますが、
発生主義で入力をすると
8月31日 売掛金/売上 1,100,000円 売上
9月30日 現預金/売掛金 1,100,000円 売掛金の入金
という内容で異なることが分かります。
売上の明細をよくみる
漫画家・同人作家のかたとお話をしていると支払調書ベースで売上計上しているケースがあるのですがこれは現金主義による計上そのものです。
支払調書は基本的に出版社等から税務署あてに誰にいくら報酬を支払って源泉所得税はいくらでした、という書類で支払った日をベースに作成されます。つまり現金主義による書類作成がなされていることが圧倒的に多いです。
そうなると支払調書ベースで売上計上すると発生主義による帳簿付けができていないことを意味します。
支払調書が手元にあるがゆえにその支払調書と発生主義による売上の計上とにズレが生じていることに違和感があるかもしれませんが、ある意味でその違和感は正しいです。
発生主義で計上しているからこそ発生しているものであって、違和感があるから支払調書ベースで帳簿付けしていい理由にはなりません。
出版社から売上に関する明細が届いているのであればその明細をベースに発生主義で売上を計上するのが正しい処理です。
支払調書に引っ張られないようにしましょう。
また、電子書籍の配信の場合にはかなり遅れて入金になっているケースが見受けられます。
この場合はこちらでなんともできない内容でもありますし、遅い場合には夏ごろに去年の配信による収入の入金があったりするケースもあります。
こういった場合は仕方がないので入金ベースで売上計上するほかありませんし、もし税務調査があったとしてもその旨を説明するほかありません。
原則的に売上の明細があって締め日や計算期間があるのであればそれに沿って発生主義で売上計上するのが正しい処理ですのでその点は間違えないように気をつけましょう。
まとめ
支払調書の情報に引っ張られすぎないようにしましょう。その情報と売上の計上基準は別の問題ということです。
遅れて入金になる売上についてはこちらで仕方がない部分もあるのでルールを決めて継続してその内容で計上する他ありません。