相続税と贈与税は補完、つまり補いあう関係といわれており、2024年から贈与税のルールに変更がありました。
相続時精算課税贈与はデメリットが大きいと言われて久しいですが、あえて相続時精算課税贈与を選択するシーンがあるか、デメリットをどう考えるか整理してみます。
早くはじめて早く終わるのは変わらず有効
相続税対策で贈与をする、というのはオーソドックスな対策のひとつです。
ただし亡くなる直前に多額の贈与をして相続税を逃れようと考えてそれを実行されると相続税申告をする人がいなくなってしまいます。
こうしたことを防ぐため、2023年末までは生前贈与加算3年というルールがありました。
亡くなる3年以内に相続又は遺贈で財産を取得したひとが贈与を受けている場合には相続財産に計算上足し戻して計算をするというルールです。
亡くなることを見越しての贈与は3年間については相続財産に足し戻して計算することになり、3年より前の贈与については足し戻し不要です。
つまり亡くなることを見越してではなく、早くはじめて早く贈与を終えることで3年にかからないようにしておく、ということが有効でした。
2024年の贈与税のルール変更に伴ってこの3年間の足し戻し期間が順次延びていき最終的には7年間の足し戻し期間となります。
よって、より早くはじめて早く終わる、ということが有利になるということです。
そうはいっても難しいよ、という方もいらっしゃるかと思います。そういう方は相続時精算課税贈与を検討することがあるのですが冒頭で触れたようにデメリットが多いとされる相続時精算課税贈与の制度をデメリットを踏まえつつ適用するかどうか。
デメリットを視点を変えて検討してみます。
相続時精算課税贈与のデメリット
相続時精算課税贈与のデメリットはいくつかありますが大きなものを3つピックアップして検討してみます。
途中でやめれない→途中で贈与を終わる
相続時精算課税贈与は途中で撤回できない贈与です。
撤回というのは選択して適用した後で、やっぱり暦年贈与に戻す、という意味合いでの撤回ができないということです。
途中でこの制度の適用そのものをやめることはできませんが、もし贈与をしないで済む状態になったら贈与そのものをやめる、というのも選択肢になり得ます。
また、精算課税贈与には以前は基礎控除部分として2,500万円だけでした。トータルの精算課税贈与がこの金額を超えると超えた部分について20%の贈与税がかかります。
2024年からの改正で2,500万円の基礎控除部分に加えて、年間110万円の非課税枠ができました。
この年間の非課税枠110万円については相続財産の足し戻しの対象にならないという点も大きな変更点です。
そのため、途中で撤回はできませんがある程度贈与したら途中で110万円までの精算課税贈与に切り替えるか、贈与そのものをストップすることができますのでどちらかを選択することが可能です。
そういう意味で途中でやめれない精算課税贈与に選択肢ができたとも言えます。
相続税申告で精算→相続税がそもそもかからない
相続税申告の時に相続時精算課税贈与で贈与した分のうちから年間110万円分を控除した金額分は足し戻しの対象です。
暦年贈与の場合は3年が7年に延長されますが、精算課税贈与の場合は選択してから亡くなるまでの期間です。
人が亡くなるタイミングはわからないものですが、足し戻しの対象期間によっては有利不利が出てくることになります。
そのうえで精算課税贈与を選択したいということであれば例えば相続税がそもそもかからない財産規模のケースだと精算課税贈与分を足し戻しても申告不要であれば無税で財産を動かせることになります。
こういった有利不利の前にそもそも相続税申告が必要かどうかの判定をしておくのがよいでしょう。
贈与税率が高い→相続税率のほうが高い
精算課税贈与は累積2500万円の控除を超えている部分について贈与税がかかります。
贈与税率は一律で20%です。
相続税と贈与税の税率の差でも有利不利が贈与をするかどうかの選択に影響を及ぼしますが、相続財産が多額にあって相続税が多額にかかる、税率で言うと20%をはるかに超えているという場合には贈与税を払ったほうが有利というケースもでてきます。
そのため、相続税の試算の段階で相続税率のほうが圧倒的に高い、という場合には相続時精算課税贈与選択で超えている分20%の贈与税でも有利になるケースだと選択肢になってきます。
まとめ
暦年贈与も相続時精算課税贈与もメリット・デメリットがありますので最終的にはご自身で決めていただく必要があります。
贈与しないというのも選択肢ではありますし必ずやらないといけないものでもありません。充分に検討して納得の上で選んでいただくのがよいです。