個人事業主から法人に組織変更つまり法人成りした場合にはいろんな注意点があります。
そのうちのひとつが役員貸付金が発生するかもしれない、ということです。具体的にどういうときに発生するのか見てみましょう。
法人成りの役員貸付金
法人成りをするということは個人事業主で活動していてその事業を法人で行うということです。
法人を設立して個人事業で使っていた固定資産などを法人に売却という形で移転します。
現物出資という固定資産などをそのまま出資するという方法もありますがここでは割愛します。
仮に個人事業時代に、仕事で使う車を買ったとします。300万円で購入して減価償却期間は軽自動車だったので4年とします。
ローンを組んで車を買いました、支払総額は330万円として6年返済とします。年間の支払額は55万円です。
一月に車を購入して12月に法人成りを決め、年明けに法人設立したケースを想定してみます。
1年経ったときに車の減価償却による経費化で、300万円の車の簿価は定額法による減価償却のため75万円が経費、年末時点で225万円の車の簿価です。
ローン返済は年間55万円の返済ですから330-55=275万円のローン残債がのこりました。
ここで法人成りして法人に車を譲渡したとします。簿価での移転ですので法人側は個人から車を買って支払いが発生します。
車/個人への支払い 225万円 ですね。
反対に個人が支払うべきローンを会社が肩代わりするわけですから以下のような状態になります。
個人からの引き受け/ローン残債 275万円 です。
個人への支払いと個人からの引き受けが同じ金額なら問題は発生しません。いわゆるトントンの状態といえます。
差額が出ているのは個人からの引き受けが50万円多いからですね。
つまり法人からすると個人に貸しがある状態です。
このように法人から個人への貸しがあるとそれが役員であれば役員貸付金になります。
法人としては債務のほうが引き受け金額が多いわけですからお金を入れてもらわないと合わなくなります。
基本的に個人事業が債務超過の状態だとこういう風にどこかで帳尻を合わせることになり、役員個人の事業から法人に成ったわけですから、役員貸付金で帳尻を合わせざるを得ないというわけです。
役員貸付金のデメリット
役員貸付金は早期に解消することをお勧めしています。
会社から個人にお金を貸している状態(例え実際にお金を借りていなくても、上記のように帳尻合わせでも発生します)は良くないことが多いからです。
例えば銀行から融資を受ける場合。
役員貸付金があると銀行としては、この会社のお金を貸すと役員個人に流れていくんじゃないか、という不安が芽生えます。
銀行は返せるかどうかも当たり前ですが気にしていますが、もう一方で貸したお金を何に使うのか、資金使途(お金を使う目的)が融資の審査時とか違わないかも気にします。
そのため、役員個人への貸付金がある状態は望ましくないわけです。
またそういう勘定科目がある会社はお金の管理が法人個人できっちり分けれていないとみられる可能性も高まります。
こうなると貸さない理由がどんどん出てくるわけですね。赤字だと余計にそうなっていきます。
融資の場面では役員貸付金がなぜ発生したかは説明しておきたいところですし、早急にお金を会社に入れて解消するなども必要です。
また税務上も会社が個人にお金を貸しているわけですから利息取りなさい、と税務調査で指摘されることがあります。
法人は利益を追求するものという考えがあるので(公益法人などは除く)、未収利息として計上することになります。(お金貸してるけど返済してもらってないから利息を取っているわけ)
こういうものが積み重なっていくと会社の決算書の内容がどんどんわるくなっていきます。
会社のお金を個人的に利用することでも発生しますのでとにかく役員貸付金がある状態は望ましくないです。
まとめ
役員貸付金として会社から実際にお金を引き出すと会計上は役員貸付金になりますが、お金のやり取りがなくても発生することがあります。
法人成りの場合も帳尻合わせで発生してしまうことがあり得ますので、解消するためにどうするのか、役員報酬を充当するなど検討してみましょう。