決算のときに見直しておきたいことのひとつとして役員報酬の金額設定があります。
年に一度、決算のタイミングで決めるわけですが役員報酬金額の設定は事業や考え方に大きく左右されますので、自分がどういう事業の進め方にしたいか、いくらぐらいに設定できると嬉しいか、など判断材料を整理しておくのがおすすめです。
年に一度、決めること
中小企業の役員報酬としては2つが主なものです。ひとつが定期同額給与と呼ばれる毎月決まった金額を支給するもの、もうひとつが事前確定届出給与と呼ばれる決まったタイミングで決まった金額を支給するものです。
いずれも決算確定時の株主総会等で決めることになります。
金額や総額支給額、タイミングを決めるわけですが、今後一年間の支給額を決めるという部分に難しさがあります。
事業の見通しが立っていれば安心して支給金額の設定ができますが、なかなかそういうことは少ないのが現実です。
事業の波がある場合には余計にそうでしょうし、新しいことをしようと考えていて設備投資が必要というケースもあるでしょう。
コロナ禍のときには売上が大きく上下動した事業もあったはずです。
向こう一事業年度(多くが一年間)の役員報酬を決めるわけですが、途中で減らしたり増やしたりできないか、というご相談をいただくことがあります。
会計上は事業年度の途中で役員報酬を増やしたり減らしたりはできます。できますが、税務上経費にならない部分が出てくるので要注意です。
仮に年度の途中で増やした場合にはその増やした部分は税金計算上は経費にならない部分として税金計算をします。
例えば月50万円で最初に設定していた役員報酬を、業績が好調だったので半年経過した時点で月100万円に増額しました。
このとき、会計上は役員報酬として50万円×6ヵ月、100万円×6ヵ月で合計900万円の役員報酬を計上し、会計上の利益が500万円だったとしましょう。
税金計算上は増やした分を経費に計上しないで税金計算をしますので、税金計算上の利益は500万円+(100万円-50万円)×6ヵ月=800万円、と計算します。
税金計算上の利益に税率を乗じて税金計算をするわけですので会計上の利益に対する税金とのギャップが生まれます。
決算書だけを見ていると会計上の利益500万円に法人税等(仮に15%(中小企業は800万円までは15%のため)だとすると)が120万円(税金計算上の利益800万円に15%を乗じて計算)となるため、会計上の利益に対して税金が多く感じます。
だからといって役員報酬の増額ができない、というわけではないので、会計上の利益と税金計算上の利益にギャップができる、ということを理解したうえで実行するのであれば問題はないです。
こういった事情があるとわかってはいても多くの経営者にとっては年に一度しか決めるチャンスがないわけですから慎重に考えたいところです。
判断材料いくつか 軸足をどこにおくか
事業の種類や粗利率、営業利益率なども加味して判断したいという部分もあるでしょう。
ひとり社長で仕入がないタイプの事業だと役員報酬を設定しなければ売上のうち結構な割合で利益が残るみたいなこともあり得ます。
法人税は中小企業であれば税金計算上の利益が800万円までだと15%、それを超える部分は
23.2%です。他の法人関係の税金を考えると30%ぐらいと仮定してもよいでしょう。
所得税(累進課税)と住民税(10%)、法人税(30%)との税率差を考慮に入れて最大限有利になるように役員報酬を設定するという考え方もあります。
仕入はないけれど外注費などを多く投入して新しいサービスを作りたい、という場合などは役員報酬を敢えて低く抑えるというのも考え方のひとつです。
またいくらの役員報酬があれば十分満足できる、ということもあるでしょう。このあたりは家族関係や自分の価値観に左右されるので金額の限定はできません。
それこそ上を見ればキリがないわけですが、勤めているときよりも多く手取りがあればそれでひとまず十分だ、と感じる方もいます。
会社に多く残して最後に役員退職金として引き出したい、というのも考え方としてはありです。
そのためお金が出ていくようないわゆる節税をせずに納税してキャッシュを貯めておきたいというご要望もお客様からいただくことがあります。
経営者自身が個人で不動産投資をしている場合などもありますし、個人のキャッシュと法人のキャッシュを比べてどのポイントを目指すのか、こういったことは度外視で、個人の手取りを最大化したいのか。
考え方次第で役員報酬の幅は大きく変わってきますので、どういう考え方をベースにしたいかを考えておいてもらえるといざ役員報酬を決定する際にブレずに決定できます。
まとめ
同業他社の役員報酬を知ることは実際問題としては難しいですから、経営者本人の個人的な事情や考え方、会社の方向性などを総合的に勘案して決めるほかありません。
そのための考え方の軸ですので、顧問税理士がいれば相談しつつ検討してみましょう。