先日、国税不服審判所のホームページにてR4年1月~3月分の裁決事例が公表され、名義預金の取り扱いについての裁決が掲載されています。
名義預金の認定や範囲について参考になることが多いので、裁決事例について考察してみます。
まずは状況の確認と争点整理です。明日は公表裁決から読み取れること、私見を含む考察についてお伝えします。
公表裁決はこちら(https://www.kfs.go.jp/service/JP/126/04/index.html)から確認できますが、文字がつらつらと書き連ねてあり読みにくい部分もあります。
普段から目にする機会があればよいですがそうではないかたのほうが当事務所ホームページをご覧になっている方は多いと考え、公表裁決の内容を整理してまとめていきます。
まず状況確認
まずは争点の前に状況確認をしてみましょう。
親族関係
K(被相続人であり今回亡くなったかた)平成30年2月に死去
L(Kの配偶者 相続人)
H(Kの長男 相続人 本件の代理人税理士)
M(Kの二男)
今回特徴的なのは相続人である長男Hが税理士であり相続税申告を担当しているということです。
現預金の動き
Kが亡くなる前の平成26年2月から平成30年2月の間に、配偶者LはK名義を含む以下の預金口座から合計85,774,000円を引き出している。
K名義の預金(①N銀行 ②P信用金庫 ③Q銀行)
L名義の預金(④N銀行)
H名義の預金(⑤R銀行)
M名義の預金(⑥R銀行)
この預金の引き出し行為が後々で争点となります。
相続税申告の内容
申告に際して税理士でもある長男は以下の内容を反映して相続税申告書を作成しています。
- ①から③を含むK名義の預金 47,529,896円
- ④を含むL名義の預金 86,867,241円
- ⑤を含むH名義の預金 19,514,336円
- ⑥を含むM名義の預金 20,463,220円
- Hの長女(Kから見ると孫)名義の預金14,695,398円
- 合計189,070,091円 (うちK名義以外の名義預金として計上されているもの141,540,192円)
- 手許現金として600万円(相続開始前の引き出し分の一部と考えられる)
ここまでが相続税申告の状況です。
名義預金として約1億5千万円を計上して相続税申告をしています。
印象としてはこれでも十分多いなという名義預金の金額になっています。名義預金だけで約1億4千万円を計上して申告しているわけですので。
あとで触れる争点では原処分庁(税務署のことです、以下税務署で統一して表現します)は、追加で名義預金があるとして更正処分しています。つまり税務署側は「まだ財産計上として足らない」と言っているわけです。
財産の大きい小さいについてはKの生前の財産形成要因、給与や職業にも大きく左右されるところではありますが、Kは地方公務員であったことが公表裁決で触れられています。ここもポイントです。
税務調査でのやり取り
ここからは申告書提出後の状況として税務調査での経緯が公表裁決に記載されています。
令和元年11月25日に相続税申告に対する税務調査が開始
税務署の担当調査官から本件出金現金(上記85,774,000円の相続開始前の引き出したものを指します)の行方を確認され、65,000,000円の現金の提示があった。
調査の当日に税理士(長男)は調査官に対して以下の書類を提出している。
- 「金融資産形成に係る経緯」
- 「被相続人財産形成貢献度検討」
- 「(資料1)比較者データ」
- 「(資料2)被相続人生涯給与からの資産形成額推計」
- 「(資料3)参考データ」
- 「(資料4)参考データ(その2)」
- (被相続人Kの財産の概要、形成要因など検討し記載した資料です)
また後日、追加で「被相続人妻財産形成貢献度検討(株式売買益除く)」という書類を郵送でも提出している。(配偶者Lの財産形成要因等を検討した資料)
令和元年12月11日に、税理士(長男)は新たに現金12,000,000円が見つかったことを税務署の担当調査官に連絡している。
※税務調査後に提示のあった、65,000,000円と12,000,000円の合計から申告書に計上している手許現金6,000,000円を控除した71,000,000円を本件現金と表現
令和2年4月21日に担当調査官より、本件現金71,000,000円、配偶者L名義のR銀行定期預金10,626,918円、二男M名義のN銀行定期貯金9,500,000円、3,000,000円の合計94,126,918円が申告漏れである旨の指摘をされる。
税務署側は上記の94,126,918円が被相続人Kに帰属する財産(いわゆる名義現預金)であるとして更正処分をした。(納税者側が税務署の指摘した内容に納得できず修正申告に応じなかったため税務署側で申告の内容を決定)
そのため税理士(長男)を総代として国税不服審判所に不服申し立てをした。(税務署の決定処分に納得ができないので調査してもらうため)
争点整理
審判所に申し立てられた内容には3つの争点があります。
(1) 本件調査に係る調査手続(以下「本件調査手続」という。)に本件各更正処分等を取り消すべき違法があるか否か(争点1)。
(2) 本件各更正処分等は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由の提示の要件を欠いているか否か(争点2)。
(3) 本件現金等は本件被相続人に帰属する相続財産であるか否か(争点3)。
(公表裁決より抜粋)
争点1について
調査手続きに違法なものがあると考えているので更正処分を取り消してください、ということです。
税務調査において暴言があった、調査内容についての説明責任を果たしていないということが主な主張内容です。
争点2について
行政手続法第14条第1項は以下のような内容です。
(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
要するにちゃんと理由を示さずに更正処分をしているという主張内容です。
争点3について
更正処分の対象となった本件現金を含む94,126,918円は相続財産に該当しない、という主張内容です。
税務署側も更正処分にあたっていろんな方面から名義預金であることを説明しようとしていますが、その内容が果たしてあっているかどうか、という部分が今回の不服申し立てにおける非常に重要なキーポイントになっています。
次回の記事ではこの争点3について掘り下げていきます。
まとめ
税務署側が計算して主張する内容はおかしい、合理性がない、と納税者側が主張しており結果だけ先にお伝えすると更正処分は違法なもので全部取り消しとなっています。
つまり94,126,918円はK名義の現預金とは言えない、更正処分は間違いだったという裁決内容です。
ちなみに争点1と2については請求人(納税者側)の主張には理由がないと退けられています。
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