相続対策のおはなしを伺う際に、「会社に相続税はかからないと聞いた」という内容を耳にすることがあります。
会社に相続税がかからないのかどうか、すこし整理してみましょう。
会社には相続税はかからないけれど、税金は他にもある
会社には相続税がかからないというのは合っている部分と間違っている部分の両方があります。
例えばAさんが甲株式会社に財産を遺贈(遺言で譲り渡す)した場合はどうでしょうか。
相続税は個人に対して課税されるものであって、甲社には相続税はかかりません。ここが合っている部分です。
ではAさんから遺産を譲り受けた甲社はなんにもなしでまったく利益などを計上しなくてもよいか。
甲社の立場で見ると、無償(つまりタダ)で財産を取得しているわけで、こういう場合は会社側で受贈益という利益を計上します。
タダで何かをもらっているわけですから利益だよね、という考え方です。
ほかにも株価があがったらとかいろいろとあるのですが、シンプルに会社が財産を遺贈されたら相続税はかからないけれど法人税の対象にはなるよ、ということ。
会社には相続税はかかっていないのですが、他の税金(例で言うと法人税)がかかる可能性があります。
相続税だけを気をつけていても、結局は他の税金がかかるのであれば考えたいところですよね。
他にこういうものがあるよ、というのを確認してみます。
会社を設立したら
会社を設立したら相続税がかからない、と金融機関の営業担当者から言われた、という富裕層のBさんがいます。
会社に財産の管理等をしてもらう、いわゆる資産管理会社ってやつです。Bさんは勧められて納得し乙社を作り、オーナーになりました、つまり株主です。
乙社を作って数年してBさんは亡くなりました。相続税はどうなるでしょうか。
株主になった、つまり出資しているわけですね。お亡くなりの時にはその乙社の株式をBさんは持っていますので、相続税の課税対象です。
え?と思うかもしれませんが、オーナーがBさんな訳ですので、そこは動かしようがありません。
この例で言うと結局相続税がかかっちゃったのか、となります。
ではどうしておくべきだったかというと、乙社のオーナーはBさん以外の、できればBさんの家族で財産を引き継ぐであろう人にやってもらったほうがよかったのです。
こういうことは実際に起こり得ることで単なる例ではなく実際に起きていることの一つでもあります。
専門家に相談しないで事を運ぶとこういうことが起こります。
会社に不動産を移転
不動産をお持ちのCさんがいます。銀行の営業担当者からこんなことを聞きました。会社に不動産を移転したら相続税がかかりませんよ、と。
本当だろうか。疑心暗鬼になりつつもCさんは丙社を作って、そこに不動産を移転してしまいました。
子どもたちにも黙って、税理士にも相談していません。
ここでどうなるか。
もしその不動産が先祖から引き継いだ土地で価格が1億だったとしましょう。銀行の担当者が連れてきてくれた不動産鑑定士さんに鑑定してもらったから間違いないはず。
1億円という価格に問題はないとしても、Cさんは会社に不動産を移転しており、譲渡している状態です。
ここでCさんは丙社に不動産を譲渡していますので、その譲渡益に譲渡所得税がかかります。
長年のものだとすると取得価額はあってないような金額ですから仮に全額が利益だとすると、20%で2,000万円の所得税・住民税がかかる可能性が高いです。
相続税の計算は基本的に売買の価格ではなく路線価などを使って一定のルールに従って計算した金額です。
このルールのことを財産評価基本通達と言いますが、財産評価基本通達で計算した不動産の価格は売買の価格よりも抑えられる傾向があります。
また不動産のまま相続すると、小規模宅地の特例などの適用が考えられるため不動産の状態のほうが相続税自体は有利になるかもしれません。
さらに、丙社に資金がない場合にはCさんは丙社に不動産を譲渡したのに譲渡代金が未収の状態になってしまいます。
未収の譲渡代金に相続税がかかるかというと、債権ということになり相続財産です。(Cさんは代金を受け取る権利があります)
結局何のためにCさんが不動産を会社に移転したかわからない、ということが現実問題として起こりうるということです。
まとめ
不動産や法人を使って相続税を何とかしませんか?みたいなコンサルティングや提案が銀行など金融機関から持ち込まれるケースはあります。
そういうときも早計に判断することなく少し立ち止まって考えてみる。なんかおかしい、違和感がある、という場合にはお近くの税理士に一度ご相談してみてください。
くれぐれも営業マンが連れてきたような専門家ではなく、知り合いの紹介とかのほうがいいでしょう。