先日、最高裁で注目されていた裁判の判決がでました。相続税対策で不動産を購入することの仕組みと判決を受けての注意点について解説します。
相続税評価の基本ルール
相続税を計算するときには不動産の評価額を計算する必要があります。これはみながみな、好きな価格で申告をすると公平性が損なわれるためです。(ここは大事なポイント)
土地は路線価もしくは固定資産税評価額と倍率表を用いて計算をしますが、都市部は路線価で、それ以外は倍率表でというイメージでよいです。
建物は固定資産税評価額をもとに貸し借りがあればそれを加味して計算をします。
基本ルールは相続税評価額を使って不動産の価格計算をして相続税をそれをもとに計算してください、となっています。
この基本原則があるからこそ不動産を買うと相続税対策になる仕組みが出てきて、それを活用することを考えるわけです。
不動産を買うと相続税対策になる仕組み
不動産を買うとなぜ相続税対策になるか見てみましょう。
現預金をたくさんお持ちだとしましょう、仮に1億円でマンションを買った場合にはどうなるか。
何もしなければ現預金1億円が残るとします。
不動産を購入したら原則として路線価と固定資産税評価額で計算をするのが基本ルールでしたね?
1億円の内訳として
土地:4,000万円 建物:6,000万円だとしましょう。
土地は4,000万円で相続税を計算するのではなく、路線価で計算をします。
路線価が160,000円/㎡、広さが200㎡だとすると単純計算で3,200万円の評価額と計算できます。
建物は6,000万円で相続税を計算するのではなく、固定資産税評価額で計算をします。概ね購入価格の6割から7割が固定資産税評価額とされています。
仮に7割だとすると6,000万円×0.7=4,200万円です。
不動産を1億円で購入して相続税評価額を計算してみたら、土地:3,200万円で建物:4,200万円で合計7,400万円になった、みたいなことは結構ざらにあります。
でもこれはいままで問題にはなっていませんでした。基本ルールにのっとって計算をしているからです。
ここから仮に不動産を貸しに出すともっと評価額が下がりますし(貸していることを考慮するため)、借入金をすると債務が増えるのでさらに相続税の課税価格が圧縮されます。
借り入れをしなくても、不動産を貸しに出さなくても不動産を購入すればこのような基本ルールにのっとるだけで相続税の課税価格が下がりますので、これをもって相続税対策とできる仕組みです。
仕組みの注意点
この仕組みに対して待ったがかかる判決が最高裁でありました。
路線価などの相続税評価額を計算する基本ルール(財産評価基本通達といいます)で計算することについて以下のように示されました。
相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。
最高裁判決より
とされて納税者が敗訴、まけてしまったわけです。
税務署側はこの基本ルールに基づいて計算することについて総則6項というルールで評価額を見直し、不動産鑑定士による評価額により申告をやり直しした結果の裁判です。
これによりただちに不動産を購入して相続税対策をすることについて待ったがかかった、というわけではなく以下の点がより注意が必要になったと考えられます。
相続税対策としてのスパンが短かった
節税以外の経済合理性が乏しかった
相続が発生してから短期で売却をした
取引価額と相続税評価額との差が大きかった
という点です。
この判決をもってただちに路線価評価しない、というわけではなく当事務所では通常通りに評価をする予定ですが、相続税対策のために不動産を購入しているケースについてはより注意が必要になったと考えています。
やりすぎて目立ってしまうとこのように処分される可能性があるということです。
現行ですでに行われている不動産購入による相続税対策をすべて否定するものではなく、また一方で明確な基準があるわけではないので難しい対応にはなります。
これは私見ではあるのですが最もポイントになったというか税務署側の動きの引き金になったのは短期に売却したことではないかと考えています。
これにより市場価格がはっきりでてしまったわけですので、相続税評価額との乖離がもろに露呈したといえます。
早めの対策、賃貸目的での不動産購入、早期売却しない、というのは不動産による相続税対策のセットになってくるでしょう。
まとめ
不動産を購入して相続税対策をすることの仕組みと注意点についてお伝えしてきました。
判決が出たとはいえ明確な基準が示されたわけではなく、いきすぎた節税目的だけで不動産を購入し時価との乖離が大きかったためこのような結果になったと考えらえます。
すでに相続税対策で不動産を購入している場合やこれから相続税対策をしようと考えている場合には、こういうことが現実に起こりえるという点は頭の片隅に置いておいた方がいいでしょう。
繰り返しになりますがこの判決をもって直ちに路線価評価をやめる、という方向性にはならないと考えています。