京都の税理士ジンノです。
相続対策で養子縁組についてのご相談をいただくことがあります。養子縁組というと、あまり気乗りがしない、そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
税金が大きく変わることもありますので、シミュレーションしてみたり、ご家族の意向を確認したりして、実行するかどうか検討しましょう。
養子縁組が与える相続税額への影響
民法上は何人でも自分自身の養子にしても構いません。人数の制限はないということです。
ただし、相続税の計算上は人数についての規定があり、実子(血縁関係のある子)がいる場合には法定相続人として数える養子の人数はひとりです。
実子がいない場合には法定相続人として数える養子の人数はふたりとなっています。
この相続税計算上の養子のカウントの制限は、相続税計算上は養子の数を無制限にカウントしてしまうと相続税の大きな節税が可能になってしまうからです。
つまり、養子の数を増やせば節税になるということを意味しています。
節税目的の養子縁組がそもそも可能なのか、という点も気になると思います。
平成29年の最高裁判決を簡単に解きほぐしますと、「養子縁組が相続税を節税するために行われたものであり養子縁組が無効である」ということが争点になっていたところ、「養子縁組が相続税の節税のためであっても、それが相互の意思に基づくものであれば有効」という判決が出ました。
相続税の節税目的であっても双方の意思確認ができていれば有効である、ということを意味しています。
相続税の節税目的で養子縁組をしている方でも、お互い(養親、養子)に養子縁組をするという意思が確認できていれば縁組の有効性については問題ないということです。
養子縁組それ自体の良しあしは、それぞれのご家族の考えがありますので、ここでは置いておきます。
相続税を計算するうえで養子がいる場合の影響を考えてみましょう。
基礎控除額への影響
相続税を計算する際には法定相続人(民法で定められた相続人)の人数が税金計算に影響します。
基礎控除額というものが相続税計算上はありまして、課税財産が基礎控除額を下回っていると相続税申告をする必要がありません。
基礎控除額の計算は
3,000万円+600万円×法定相続人の人数
となります。
実子1人の場合と、実子1人、養子1人の場合で、比較計算してみますと
パターン①実子1人の場合
3,000万円+600万円×1人(法定相続人の数)=3,600万円
という計算結果になります。
パターン②実子1人、養子1人の場合
3,000万円+600万円×2人(法定相続人の数)=4,200万円
という計算結果になります。
法定相続割合への影響
養子縁組をすると基礎控除額が増えることに着目する方がとても多いのですが、相続税の計算上は財産の額が多ければ多いほど、実は法定相続割合による影響が大きくなります。
養子縁組が相続税計算に与える影響も基礎控除よりも大きいです。
相続税の計算上、財産を取得した割合で相続税のそれぞれの負担する金額が決まります。
そもそもの相続税総額の計算は、法定相続人が法定相続割合で取得したと仮定した場合の金額を用いて行います。
流れでいうと
- プラスの財産からマイナスの財産を引いて課税対象金額を算定
- 課税対象金額から基礎控除額を引く
- ②の金額を法定相続人で法定相続割合で相続したとして税金を計算する
- ③の金額を合計して相続税の総額を算出する
- ④の金額を実際の相続人が取得した財産の割合で按分する
という順番で計算を行います。
実際に計算してみて数字で示したほうが分かりやすいかと思いますので、引き続いて前述のパターン①と②を用いて上の流れで試算をしてみましょう。
パターン①(実子1人の場合)
- 32,000万円(財産)-2,000万円(債務)=30,000万円
- 30,000万円-3,600万円=26,400万円
- 26,400万円×45%−2,700万円=9,180万円
- 9,180万円の相続税を実子1人で負担
パターン②(実子1人、養子1人の場合)
- 32,000万円(財産)-2,000万円(債務)=30,000万円
- 30,000万円-4,200万円=25,800万円
- 25,800万円×1/2(法定相続割合として計算)=12,900万円
- 12,900万円×40%−1,700万円=3,460万円 3,460万円×2人=6,920万円
- 6,920万円の相続税を実子1人、養子1人で負担
実際に計算してみたところ、パターン①では9,180万円の相続税の試算が、パターン②では6,920万円の相続税の試算となりました。
その差額は9,180万円−6,920万円=2,260万円となっており、決して少なくない金額です。
このようにシミュレーションをしてみるといくら相続税の負担が変わるかというのは、実行する前にチェックしておいたほうが良いでしょう。亡くなった後に養子縁組をすることはできません。
養子縁組のデメリット
養子縁組をする際のデメリットについても考えてみましょう。私は大きく3つあると考えています。
家族関係が複雑になる
日本においては戸籍制度が採用されていますので、結婚・離婚については戸籍にその事実が記載されます。
養子縁組においても同じくで、誰の養子になっているかは戸籍を見ればわかります。
普段は戸籍を見る機会というのは多くないと思いますが、この戸籍に記載される事項が多いことを「戸籍が汚れる」と表現する方がいらっしゃいます。
戸籍への記載事項が多くなることを嫌がる方もいらっしゃいますし、家族観として養子縁組をしてまで相続税の節税をしたくない、と考える方もいらっしゃるでしょう。
通常の血縁関係とは異なる兄弟関係なども法律上は生まれるため家族関係が複雑になります。苗字が変わることもありますのでそのあたりへの抵抗感もあるでしょう。
未成年の養子の場合は手続きが複雑になる
特に未成年のお孫さんが祖父や祖母の養子になる場合には注意が必要です。
未成年者が相続人にいる場合には、特別代理人を選任し遺産分割協議案を家庭裁判所に対して提出して分割案について許可をもらう必要があります。
未成年者がいない場合には必要がない手続き(特別代理人の選任と分割協議案の提出と許可)が発生するということです。
また、この分割案ですが原則として法定相続割合を守る必要があり未成年のお孫さんが多額の財産を相続する可能性があります。
前述のパターン②でいうとおよそ1億6千万円を未成年が相続することについて、あまり好意的な感情を持たない方もいらっしゃいます。人生がくるってしまうと考えるようです。
未成年だと色んな判断が適切にできないであろうがゆえの特別代理人の選任なのでそう考えるのも致し方ないかなと。
遺産分割協議で揉める可能性
単純に相続人がひとりの場合には話し合いの余地はありません。全てを一人の相続人で引き受ける必要があります。
一方で養子がいて相続人が増えた場合には、複数人で話し合いの余地が生まれます。誰が何をいくら相続するのか、という分割協議が発生するわけです。
相続における揉め事の大半はこの財産の分け方をめぐるものですので、一人よりも二人、二人よりも三人のほうがそれぞれの主張が増えるため話し合いがまとまらない可能性が高くなってしまいます。
いまは仲が良くても、相続が発生した時、相続が発生した後も仲が良いとは限りません。相続人が増えると相続税の計算上は有利になりますが、その分揉める可能性も高くなります。
養子縁組を検討してみても良いケース
相続税額が有利になるメリット、養子縁組のデメリットを確認してきました。最後に養子縁組を検討しても良いかなと考えるケースをお伝えしておきます。
- 会社経営者の方で実子が1人、なおかつ後継者の孫がいる場合
- お子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合
- 実子1人で配偶者がいる場合
後継者の孫がいる場合には成人したとき(現行は20歳)に養子縁組をするケースが考えられます。事業承継という意味でも親族の合意が得られやすいことが多いです。
お子さんのいらっしゃらないご夫婦で誰かに財産をこのしたい場合には、甥御さんや姪御さんを養子にされる方がいらっしゃいます。
実子がお一人で配偶者がいる方の場合には、最も抵抗感としては少ないというのが私の実感です。
財産を分けるという観点でいうと遺言があれば事足りますので、必ずしも養子縁組が必要なわけではありません。
この点を十分に理解しつつ、シミュレーションしたり専門家に相談して、ご自身の相続を考えるキッカケにしていただければと思います。
まとめ
[box03 title=”本記事のまとめ”]- 養子縁組をすると相続税計算上は有利になる
- ただし養子縁組をすることのデメリットもある
- シミュレーションをしていろんな可能性を考える
- 分け方という点では遺言が一番シンプル
年末年始はご家族さんで集まる機会もあるかなと思います。こういう時にしっかりと財産の分け方や意思、おカネに関する価値観、家族観を醸成しておくことがスムーズな相続に一番効果的です。