京都の税理士ジンノです。
相続の業務をやっていますと悩ましいことのひとつが、名義財産(名義預金、名義株式など)がありそうな場合の配偶者への伝え方です。
どんな風にお伝えするのか、また生前からの関わりで相続開始後の生活資金の相談があった場合の対策について、私がやっているやり方をお伝えします。
特に配偶者への伝え方は配慮が必要
配偶者の財産の把握の方法に苦慮される場合はあると思います。亡くなった方の財産を開示してもらうことは申告がある場合にはスムーズですが、生きている人の財産を見せてもらうことのハードルは比較的高いです。
なかなか必要性を感じてもらえないことも多く、私自身も苦慮することがあります。まずは亡くなった方の財産からチェックをして確認していくことが必要です。そのうえでこの資金の移動は?という疑問が出てきたら知っていることを教えてもらう、という流れを取ってやっています。
被相続人の配偶者がいる場合で遺産分割協議による分割をするときには、二次相続も併せての相続税額のシミュレーションをすることがほとんどです。
この時に「より詳細に財産概要を教えていただければ今の時点でのシミュレーションがより精度が上がる」という点をお伝えするようにしています。
そのうえで把握した財産の内容として専業主婦で5,000万円とか1億円とかの財産があるという配偶者からの申告があった場合には、必ず財産の形成要因を確認しましょう。
財産の形成要因とはこの配偶者の財産がどのように形成されたのか、ということです。
[box02 title=”配偶者の財産形成要因のトップ3″]- 配偶者自身の親・親戚からの相続・贈与
- 被相続人からの贈与
- ご自身の収入・年金
昭和の終わり生まれの私には金融資産がどんどん増える、土地が毎年値上がりするという経済の状況に対する実感が薄いのですが、これらの原資をバブル期にうまく増やしたというのは割とよく聞くお話だったりします。
いい時代だったんですねとお伺いすることも多いです。
問題はここから先にあります。配偶者の財産形成要因として上記にピックアップしたものがない場合で、多額の財産を持っている場合は、やはり名義財産かなと考えています。
そもそもこれらで説明ができない場合は、じゃあどこからこの財産は来たんでしょうかというお話になるんですね。そして、名義財産の説明をした後、申告書に反映するかどうかを決めていただかなければなりません。というか説得する方向性で話を進めます。
制度的なお話としての配偶者の税額軽減制度
配偶者の財産については相続税計算上の特例があります。いわゆる配偶者の税額軽減制度です。
「ご夫婦で築いた財産という側面があるから、財産の半分か1億6千万円までは相続しても相続税はかからない」
という説明の仕方は相続実務においては割とよく使います。
お二人でコツコツと築いてこられた財産というのも納得しずらい背景としてあります。ここで腹落ちしてくれたらいいのですが、感情論として納得しづらいというのもよく分かります。
場合によってはこのあたりの説明がよく分からないということもあるので、お子さんがいらっしゃれば同席していただいて説明をし、理解を助けるサポートや名義財産を計上することの背中を押してもらうこともあります。
感情に訴えるお話としての穏やかな生活
相続人の方の多くは相続税の税務調査を経験されたことがない方がほとんどです。
イメージでいうと、伊丹十三監督の「マルサの女」という映画の印象が強い方もご高齢の方には多く、税務調査を査察と同義と捉える方もいらっしゃいます。
それほどまでに印象の強い映画でしたし、社会の裏側をのぞく、そんな興味深さとしての面白さもありました。
税務調査に対する不安や心配事というのはやはり相続人の方は多少なりともお持ちです。
もちろんあおることはしませんが、感情に訴える説明の方法として「税務調査があったらどうしようと夜ゆっくり寝れない方もいらっしゃいます。それは隠し事がある、不安なことがある、やましいことがあるとそうなりがちです」
とお話をすることもあります。
申告書を作ると同時にお客様の相続税に関する不安や心配を解消するのも大切です。
夜ゆっくり寝たい、お天道様がみている、みたいな話もよく聞きますが、相続税申告後の穏やかな生活のためという説明も割とよくします。
それでも納得していただけない場合は確認書の作成
説明を尽くしてもご納得・ご理解をいただけない場合もあります。
その場合には、名義財産について税理士から説明を受け、申告書に記載されている相続財産がほかにないことを確認しました、という旨の確認書面に相続人全員で署名捺印してもらうようにしています。
税務調査がくるかどうかはこちらには分からない部分ではありますが、税務調査の可能性が高いのは相続税の特徴のひとつです。このあたりも説明をしておく必要があります。
いざ税務調査になった場合に「そんな説明や話は聞いていません」といわれるとこちらとしても立場がありませんので、ご説明を尽くしてそれでも納得できない・計上しない、という場合にはこちらのリスクマネジメントとして確認書を用意します。
相続開始日以後の生活資金への対策
ご生前からの関与の場合には、相続開始後の生活資金の手当てについて心配と仰られる方も多いです。
相続開始後は金融機関へ連絡をすると預金口座が凍結されます。預金の引き出し制度ができましたが事務的な手間としてはもちろんかかりますし、時間もかかります。
葬儀費用に始まり、お布施、各種医療費・介護費の支払い、食事代、家賃など出費は多くあります。
遺族年金の受給については手続き上3~4ヵ月は申請から支給まで時間を要することが多いですから、少なくともそのあたりまではおカネの心配をしたくないというご要望はあります。
近くに住んでいるお子さんやご兄弟がいれば助け合うこともできますが、最近の相続においては「子どもたちに迷惑をかけたくない」という方も非常に多いように感じていますので、生活資金面での心配をされる方には次にようにお伝えすることがあります。
事前に適切な手順で贈与する
あって困るものでもありませんし、名義財産にならないように適切な手順を踏んで贈与をしておくのは有効です。
贈与は適切な手順で行わないとそれこそ名義預金でしょうという指摘をされる可能性があるので注意が必要です。
預金通帳と印鑑は贈与される人が管理する
現金でやり取りせず、預金口座から口座へ振り込む
贈与契約書を作る
110万円を超えるようなら贈与税の申告をする
生前から贈与プランを作ったり贈与税申告のご依頼がある場合にはこのあたりはくどいぐらい説明しておきましょう。
死亡保険金の活用
相続税対策においては配偶者は税額軽減制度がありますので、配偶者が受取の死亡保険金がある場合には、死亡保険金の受取人を配偶者以外にしませんか、という提案をすることがあります。
そもそも相続税がかからない範囲で財産を相続する予定の配偶者が、非課税枠がある死亡保険保険金(500万円×法定相続人)を受領しても効果が薄れるからです。
ただ、死亡保険金には遺産分割の対象外財産という利点(遺産分割に時間がかかりそうなときは特に有効)と支払いが早いという利点があります。
通常、書類審査に問題がなければ1週間程度で死亡保険金の支給があることが多いですし、自由に受給者が使えるおカネとして受け取れます。
お子さんが死亡保険金の受取人である場合には事前の相続税対策で納税資金に充てることが想定されていることがあるので、そのような場合は納税資金のためである旨を説明しておきましょう。
配偶者ご本人分としての非課税枠(500万円)の死亡保険金をあえて残しておくというのもご要望としてはよくあります。
大きな葬儀をしたり、檀家さんとしてお布施を多めにみたいな時以外は500万円あれば半年~1年間ぐらいは生活としてなんとかなるかと思います。
生活資金がなくなることへの心配というのは配偶者の方には特に大きいかと思いますので、ご提案できることがあればご提案しておきましょう。
まとめ
[box03 title=”本記事のまとめ”]- 名義財産計上の伝え方で「配偶者の税額軽減」をうまく使う
- 感情的に納得できない場合もあるので逆に感情に訴える方法も
- 相続開始後の生活資金の心配については贈与と死亡保険金で対応
相続は税金が抑えられるのがゴールじゃないのが難しい所でもあり魅力でもあります。
実際に相続が起きるとおカネに関するご家族の価値観が非常によく現れますので、尊重しつつ丁寧に説明を尽くすことが大切です。