漫画家・同人作家の方からのご依頼があったときに感じることがあります。それは「もう少し早いタイミングでご相談いただけていたら」ということです。今回は、事前相談の価値について考えてみたいと思います。
スポット相談で最も多い法人化のご相談
スポット相談は、現在別の税理士に顧問をしてもらっている場合やお付き合いのある税理士がいる場合でもご相談いただくことが可能なため、セカンドオピニオン的なご相談が多いのが特徴です。
その後のご契約や依頼につながることもありますが、スポット相談はそれを前提としていませんので、その場限りであることもメリットの一つと考えています。
逆に私としても、その処理や対応に問題があるのではないかということを適切にアドバイスしやすいという面もあります。
このメリットがよく表れるのが、漫画家・同人作家の方の法人化のご相談です。
私の事務所では作家業の方の法人化はあまりお勧めしていないこともあり、他の税理士にお勧めされて心配でスポット相談にお申し込みいただく、という流れが比較的多いです。
法人化の前であればまだ踏みとどまれる可能性が高いのですが、法人化した後だとやはり後戻りが難しいこともあり、できることが限られてきます。
作家業の方の法人化で検討したいポイント
作家業の方の法人化において検討したいポイントとしては、以下のような点が挙げられます。
- 売上の上下動が大きくないか
- 平均課税が使えなくなるがよいか
- 社会保険料は高くなるがよいか
- 役員報酬で生活することになるがよいか
- 著作権の譲渡等の検討はしたか
法人化をした後だとこういった点を対応できていないまま突き進んでしまう可能性が高いので、税務的なリスクもさることながら「なんか思っていたのと違う」と感じる方を多く見かけます。
法人化は税務的には一方通行になりがちですので、事前にご相談いただいて納得の上で法人化をしていただくことをお勧めします。
損をしないようにということもそうですが、「なんか思っていたのと違う」という状態は意外とストレスになり得るものです。
顧問契約や確定申告のご相談
顧問契約や確定申告のご相談もここ2~3年は特に増えていますが、年内であればできていたであろうことができなくなってしまうケースがあります。
ご自身がどこまで対策をしたいかにもよりますが、税務だけではなく社会保険なども検討しておきたいことがありますので、やはり年内のご相談をお勧めしています。
また、最近は個人事業主の確定申告を引き受けない税理士事務所も割と見受けられますし、年明けだと受付終了ということも増えているようです。
税理士側の事情について
税理士側からすると、1月~3月に大量の事業所得の記帳を含めてのご依頼は業務量が大きく偏ることになりかねず、通常の顧問業務などを圧迫するため敬遠されがちという事情もあります。
私の事務所でも年内であれば基本的にお受けしていますが、年明け以降のご相談の場合は、内容や記帳の分量などによってはお断りせざるを得ないこともあります。
一年分の事業所得の記帳はやはりそれなりの分量になりますし、資料の保存や提出などがスムーズでない場合には申告期限ぎりぎりになってしまいます。
そうなると他の申告業務にも影響しかねませんので、やはり事前にこれくらいの分量の業務があるという見込みを立てておきたいというのが税理士事務所側の実情でもあります。
インボイス制度が始まったことにより消費税の課税事業者になっているケースもあるでしょうから、より記帳内容の精度を高めておきたいところです。
そういった事情を加味して年内のご相談をいただけると助かるというのは私の事務所でも同じですので、手に負えなくなってどうにもならない状態になる前にご相談をいただくのがよいかなと考えています。
そういった税理士側の事情を考慮する必要はないという方の場合、その後のお付き合いも難しくなるでしょうし、税理士側には応召義務はないとされていますので、引き受けてくれる税理士を見つけるのは困難になる可能性があることは念頭に置いておいていただければと思います。
まとめ
漫画家・同人作家の方にとって、税務に関する事前相談は非常に重要な価値を持っています。特に法人化については、一度決断してしまうと後戻りが困難になるため、十分な検討が必要です。
また、確定申告についても年内のご相談をいただくことで、より良い対策を講じることができ、税理士側も質の高いサービスを提供することが可能になります。
手に負えなくなる前の早めのご相談が、結果的に相談者のかたにとって最良の結果につながると考えています。