スイス連邦の遺族年金についての相続税計算上の取り扱いについて、非公開裁決を情報公開請求で取得しましたので内容を確認してみます。
前回の鎌倉米国遺族年金事件と争点が同じ部分が多いのと、鎌倉事案のほうが裁決内容はシンプルですのでまだ目を通していないかたはあわせて読んでみてください。
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非公開裁決の概要
大阪国税不服審判所に対して開示請求を行い非公開裁決を取得しました。個人が特定できる部分や金額については黒塗りで非開示となっています。(上京税務署での事案のようですので上京スイス遺族年金事件とこのホームページでは呼称します)
被相続人が亡くなったことにより被相続人の妻が取得したスイス連邦の老齢・遺族年金の相続開始後に増加した追加給付に係る権利及びスイスの職業年金基金の遺族年金に係る権利は相続により取得したものとみなされるとして、相続税の更正処分等を原処分庁(ようは税務署側)が行ったことにたいして、請求人ら(被相続人の妻及び子3名)はそのスイス連邦の遺族年金等の権利は相続により取得したものとみなされないとして原処分庁の全部の取り消しを求めた事案
主文 請求審査をいずれも棄却する(つまり請求人の主張は認められないとされた)
関係法令:相続税法第3条 相続税法第22条 相続税法第24条 国税通則法第74条の11第2項 ほか(非公開裁決 別紙2を参照)
争点など
お父さんがなくなりスイスの遺族年金や受給権をお母さんが取得していたことについて相続により取得したものとみなして税務署側が更正処分をし、それに対して妻と子が相続による取得ではないと争ったものです。
争点は3点
(1)本件各処分の対象、本件調査結果の説明時の手続及び本件各処分の理由の提示に原処分を取り消すべき違法があるか否か
(2)本件受給権は相続税法第3条第1項第6号に規定するみなし相続財産に該当し、相続税が課税されるか否か(筆者注 鎌倉米国遺族年金事件の争点(1)と同じ内容)
(2)本件受給権の価額を相続税法第24条第1項第3号の規定の準用により評価することができるか、また評価にあたり本件受給額及び本件基準年利率を用いて評価できるか否か(筆者注 鎌倉米国遺族年金事件の争点(2)とほぼ同じ内容)
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みなし相続財産とは
民法上は相続で取得したものではないけれど相続税法上は相続財産として取り扱う財産のことをみなし相続財産と表現します。
具体的には死亡保険金、生命保険契約に関する権利、定期金(個人年金保険など)に関する権利などです。今回の裁決事案ではスイスの遺族年金や死亡後に増加する部分を受給する権利がみなし相続財産かどうかについて争いがありました。
課税庁側はみなし相続財産として課税対象として処分をしたため、納税者側(請求人)が不服申し立てをして審判所で審理をした結果が裁決としてまとめられています。
ポイントは日本の遺族年金(公的年金)は相続税の課税対象ではなく、所得税の課税対象でもないという点です。日本の遺族年金は相続税は非課税なのにスイスの遺族年金が相続税の課税対象になるのか、という点がこの事案の争点(2)の内容となっています。
争点(3)は定期金に関する権利の評価方法をスイスの遺族年金にそのまま当てはめて計算するのはおかしいというのが主張の内容です。
鎌倉事案との違いとして争点(1)がありますが、こちらは税務調査時の手続きが違法なものだったのではないか、という内容ですので今回は深く取り上げません。
審判所の判断
争点(1)、(2)、(3)いずれも審判所は請求人の主張を退けています。
争点(1)は調査があった際の説明や手続き不備についての内容で、この更正処分を取り消すような違法はないという結論です。
争点(2)に関しては①スイスの遺族年金や受給権は妻が被相続人から承継したものではなく、被相続人が亡くなったことによりスイス連邦の年金に関する法律の各規定に基づき妻が取得したものなので「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外」に該当すること、②スイス遺族年金を受給する権利は日本の法令上相続税が課税されないこととなる非課税規定が設けられていないこと、を理由にみなし相続財産に該当するものとして相続税が課税されると判断しています。
争点(3)に関しては①定期金に関する権利の相続財産としての価値を計算方法として「給付を受けるべき金額の1年あたりの平均額」として受給額を用いるのが相当であり、②予定利率として基準年利率を用いることは合理的である、と判断しています。
個人的な意見
先週とりあげた非公開裁決の鎌倉米国遺族年金事件とかなり似た内容の請求になっています。米国とスイス連邦の違いこそあれ、基本的な争点としては同じと考えられます。つまりは外国の遺族年金は相続税の課税対象となりうるのかどうかということです。
スイス事案を読んだ感想は鎌倉事案と同じで、裁判所マターとして裁判所に判断を送ったのだろうなということです。
日本に帰ってきたいと考える日本人の方もいらっしゃるでしょうし、どういった結果になるのか個人的な興味もありたまたま同じタイミングで米国とスイス連邦の遺族年金について審査請求となっていたため非公開裁決を取得してみました。
まとめ
本裁決は請求棄却となった後の令和6年8月に提訴され訴訟に移行しており京都地方裁判所にて裁判が進行中の事案となります。
進捗等には注目していますがまた何か新しい情報等がはいりましたら書いてみたいと思います。今回取り上げた事案は京都地裁で裁判を行っていますので折を見て裁判記録も閲覧に行ってみたいと考えています。