米国の遺族年金についての相続税計算上の取り扱いについての非公開裁決を情報公開請求で取得しましたので内容を確認してみます。
非公開裁決の概要
東京国税不服審判所に対して開示請求を行い非公開裁決を取得しました。個人が特定できる部分や金額については黒塗りで非開示となっています。(鎌倉税務署での事案のようですので鎌倉米国遺族年金事件とこのホームページでは呼称します)
被相続人が亡くなったことにより請求人(子)の母が取得したアメリカ合衆国の遺族年金に関する権利は相続により取得したものとみなされるとして、相続税の更正処分等を原処分庁(ようは税務署側)が行ったことにたいして、請求人はそのアメリカ合衆国の遺族年金の権利は相続により取得したものとみなされないとして原処分庁の全部の取り消しを求めた事案
主文 請求審査をいずれも棄却する(つまり請求人の主張は認められないとされた)
関係法令:相続税法第3条 相続税法第22条 相続税法第24条 ほか
争点など
お父さんがなくなり米国の遺族年金をお母さんが取得していたことについて相続により取得したものとみなして税務署側が更正処分をし、それに対して子が相続による取得ではないと争ったものです。
争点は2点
(1)本件受給権は相続税法第3条第1項第6号に規定するみなし相続財産に該当し、相続税が課税されるか否か
(2)本件受給権の価額を相続税法第24条第1項第3号の規定の準用により評価するに当たり、本件受給額及び本件実効金利を用いて評価できるか否か
みなし相続財産とは
民法上は相続で取得したものではないけれど相続税法上は相続財産として取り扱う財産のことをみなし相続財産と表現します。
具体的には死亡保険金、生命保険契約に関する権利、定期金(個人年金保険など)に関する権利などです。今回の裁決事案では米国の遺族年金がみなし相続財産かどうかについて争いがありました。
課税庁側はみなし相続財産として課税対象として処分をしたため、納税者側(請求人)が不服申し立てをして審判所で審理をした結果が裁決としてまとめられています。
ポイントは日本の遺族年金(公的年金)は相続税の課税対象ではなく、所得税の課税対象でもないという点です。日本の遺族年金は相続税は非課税なのに米国の遺族年金が相続税の課税対象になるのか、という点がこの事案の争点(1)の内容となっています。
争点2は定期金に関する権利の評価方法を米国の遺族年金にそのまま当てはめて計算するのはおかしいというのが主張の内容です。
審判所の判断
争点1,2ともに審判所は請求人の主張を退けています。
争点1に関しては①米国の遺族年金には財産的価値があり「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外」に該当すること、②米国遺族年金を受給する権利は日本の法令上相続税が課税されないこととなる非課税規定が設けられていないこと、を理由にみなし相続財産に該当するものとして相続税が課税されると判断しています。
争点2に関しては①定期金に関する権利の相続財産としての価値を計算方法として「給付を受けるべき金額の1年あたりの平均額」として受給額を用いるのが相当であり、②予定利率を実効金利を用いることは合理的である、と判断しています。
審判所では事実認定という直接的または間接的な証拠に基づいて事実を認定し法令解釈に当てはめて結論を出すというプロセスがメインと考えられ、本件のように「そもそも米国遺族年金が相続税の課税対象かどうか」は法律の問題になってきます。
そのため日本の相続税の法律に米国の遺族年金は非課税と書いてないので課税対象だ、という内容にならざるを得ない部分があり、審判所ではなくいわば裁判所マターとして送ったともいえるのかなと。
税務訴訟については不服申し立て前置主義がとられているため、プロセスとして税務訴訟に移行することが想定されていても不服申し立てを行う必要があったと考えられます。
個人的な意見
裁決を読んで検討してみた私の個人的な意見としては、法律(相続税法など)に非課税だと書いてないんだから課税だというのは分からなくもないのですが、そうなると国外で仕事をしてその国の法律に則って納めた年金保険料に基づき支給されるもの全部について相続税が課税されてしまい、帰国するのをためらう理由になりかねないのではと。
国外に流出する富裕層も増えていると聞きますし、富裕層が財産を国外に持ち出すことに対しての国外転出時課税もできてしばらく経過しました。今回の事案は日本に帰ってきてからの事案で逆ではありますが日本の遺族年金と国外の遺族年金との取扱いの違いはやはり大きく差がある状態です。
日本に帰ってきたいと考える日本人の方もいらっしゃるでしょうし、どういった結果になるのか個人的な興味もあり今回は非公開裁決を取得してみました。
まとめ
本裁決は請求棄却となった後の令和6年5月に提訴され訴訟に移行しており東京地方裁判所にて裁判が進行中の事案となります。
ここから2~3年はかかることが多いようですので進捗等には注目していますがまた何か新しい情報等がはいりましたら書いてみたいと思います。来週は本件とは別にスイス連邦の遺族年金について同じような論点での裁決事案があり情報公開請求したものがありますのでそちらについて取り上げてみます。
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