贈与税の改正とそれに伴う相続税への影響が発生しますが、変わることもあれば変わらないこともあります。
人の死期というのはお元気な時にはわからないものです。それでも相続税対策で贈与をするならおさえておきたいことを整理しておきます。
生前贈与加算の対象期間が7年に延びる
生前贈与加算という相続税計算上のルールがあります。今までは亡くなってから3年以内の贈与については、相続遺贈で財産を取得した人はその財産を足し戻して相続税の計算をするルールです。
これが3年間から7年間に延びます。
ただし、令和8年末までは実質的には加算期間の対象は3年のままです。
令和6年1月1日以降の贈与でなおかつ相続開始前7年以内の贈与が対象になるという理解が最もシンプルです。
令和9年以降は加算対象期間が徐々に延びていき、令和13年以降にはじめて完全に7年間の生前贈与加算の対象となります。
相続開始が令和9年以降に徐々に加算対象期間が延びていきますので、まずもって変わらないこととしては贈与をするなら早く始めたほうがよさそう、ということ。
冒頭でも触れましたがお元気な時にはいつまでお元気で贈与ができるか、また死期というのはわからないものです。
病気になって医者からあとどれくらい、と言われたとしてもそこから長く生きる方もいるのは医療の進歩のおかげもあるでしょう。
反対にあとどれくらいと言われているよりも早く亡くなるケースもあります。
少なくとも令和13年に向けて加算期間が長くなっていくわけですから、もし贈与をしたいということであれば早めに取り組み始めたほうがよいです。
相続時精算課税贈与にも110万円の基礎控除枠ができましたのでそちらへの移行なども考えることにはなります。
では、相続時精算課税のほうが圧倒的に有利かというとそういうわけでもないです。
というのも生前贈与加算であれば最大でも7年間の加算対象期間ですが相続時精算課税贈与だと選択した後から亡くなるまでは加算対象期間です。
早く贈与をはじめてお元気な期間が長ければ長いほど加算対象の期間から外れていくことも考えられます。
ここでも死期の話がどうしても出てきてしまいますが、贈与を考えるときにはそのあたりも考慮に入れつつ判断していくほかありません。
可能な限り証拠を残す
贈与税単体での税務調査はほぼないと言われており、相続税申告の際に合わせてチェックしてくることが考えられます。
生前贈与加算の対象期間が長くなること、また相続時精算課税贈与も基礎控除額110万円以下の贈与であれば申告が不要になります。
いままでは相続時精算課税贈与を選択していれば贈与税があろうとなかろうと贈与があれば申告をするのが基本ルールでした。
上記のような変更があるため、より贈与があったことを口頭以外で説明できるように証拠を残しておく重要性が増します。7年前の贈与についてはっきりと記憶しておけるかどうかはかなり怪しいです。
贈与契約そのものは口頭でも成立します、つまり財産を渡します、もらいますで成立するわけです。
また贈与税の申告をしているかどうか納税をしているかどうかと贈与契約が成立しているかどうかは別です。
よって、第三者(この場合は税務署 揉めている相続の場合には相手方相続人)に対して贈与が成立していることを主張するための証拠が口頭だけだと弱くなります。
こういったことを考慮するとより贈与契約書の存在というのは重みを増しますし、確定日付を取っていること、預金口座で資金移動させていること、口座の維持管理保管をしていることなどに気をかけておきたいです。
どれか一つでもかけると贈与が成立しないという訳ではないのですが総合的に見て贈与成立の意思が確認できない、となると不利になっていきます。
せっかく行った贈与も贈与じゃないと言われる可能性も出てくるわけでそうなると相続税対策が効果を発揮しません。
より丁寧な贈与契約の履行、管理、証拠保全が必要になってきます。
贈与の対象者を検討する
今回の改正で変わらなかったのが生前贈与加算の対象者です。
いままでは相続遺贈で財産を取得したひとが対象者でしたので、贈与プランを考えるときには子の配偶者や代襲相続人ではない孫などを検討することがありました。
この点については今回の改正で変わりがないので、引き続き贈与の対象者としてこの配偶者や孫を対象にして検討するのがよいです。
その際には死亡保険金の受取で相続遺贈で財産を取得したひとに特に孫がならないようにしておきましょう。
ここの部分も改正が入るのではという話があったようですが今回はこの部分の改正(生前贈与加算の対象者を拡げる)というのはありませんでした。
贈与計画を立てるときには贈与者の対象も検討しておくことをおすすめします。
まとめ
生前贈与加算の期間延長と相続時精算課税贈与について触れました。相続税対策としての贈与が大きく変わりつつあります。
変わりつつあるのですがやるべきことは変わらない部分も多いですので、専門家にきちんと相談したうえで適切に進めていくのがよいです。せっかく贈与しても無効になってしまっては徒労に終わることになります。