京都の税理士ジンノです。
遺言についてご相談をいただくことが多いのですが、2020年から遺言について大きく変わる点があります。それは、法務局にて自筆遺言の保管制度が始まる、ということです。
先日、法務省から制度に関する一般の方向けの案内がHPにて公表されていましたので、これまでとの違いやどのような利便性があるかを解説します。
制度の概要
遺言をのこす場合、大きく分けて2種類の方式による遺言の様式があります。
ひとつは公正証書遺言といって、公証人と呼ばれる法律実務の経験者(裁判官や検察官など)が公証する(公の証明)形式の遺言です。もうひとつは自筆証書遺言といって、自分で作成した形式の遺言です。
公正証書遺言の場合には遺言をのこした方が120歳になる年まで遺言の正本が公証人役場にて厳重に保管されます。
一方で自筆証書遺言はというと、ご自分で保管するというのが基本になりますので(まれに弁護士さんが預かっておられることもあります)、金庫や仏壇など大切なモノをしまう場所に保管しておきます。
この自筆証書遺言について、全国にある法務局という役所において保管をしましょう、というのが今回の制度の趣旨です。
保管してもらうだけならそんなに変わらないと思われるかもしれませんが、これまでとの大きな違いがあります。
自筆証書遺言の問題点
以前に遺言をのこすのであれば公正証書遺言で残しましょう、という記事を書きました。
自筆証書遺言については現状、いくつか注意しなければいけないポイントがあります。
- 紛失の恐れがある
- 改ざんの恐れがある
- 不備がある恐れがある
ひとつずつ解説していきます。
紛失の恐れがある
自筆証書遺言の場合には、自宅で自分で保管をすることになるとお伝えしました。
遺言を書いたこと、というのはあまり周囲の人に伝えることが少なく、ご家族さんであってもご存知でない場合もあります。
ということもあって、亡くなった後に遺言が相続人の方の目に触れない可能性ということも考えられます。ご自身しか知り得ない状況というのはことさら具合が悪いわけです。
改ざんの恐れがある
そんなに物騒なことがあるのかと思うかもしれませんが、実際にはあり得ます。
特に、遺言を発見した相続人の方に不利な内容になっている場合には筆跡をまねてコッソリ書き加えたり削除したり、やろうと思えばできてしまいます。
場合によっては前述の紛失のように、見つけても無かったことにする、というのは現実問題として自宅で保管する場合にはあり得ます。
不備がある恐れがある
自筆証書遺言の場合は自分で遺言書を書く必要があります。
遺言の書き方というのは民法に細かく規定がなされており、その規定に沿った形式で記載する必要があります。
記載方法については一部緩和されていますが、依然として自分で遺言を書くことのハードルは比較的高いです。
というのも、細かく規定が決まっているので、仮に自分で作成した遺言について書き方を間違ってしまっている(例えば、日付が吉日になっているなど)ことがあると、その遺言自体が無効になってしまう可能性もあります。
せっかくご自分の意思でのこした遺言が相続人の方の目に触れず、また改ざんされたり、はたまた不備があって向こうになってしまうことほど残念なことはありません。
このような事例があることから、自筆証書遺言についても保管制度を創設しようという流れになり、2020年7月10日から全国の法務局で遺言書を預かる制度がスタートします。
法務省発表のポスター
保管制度の利便性
保管制度においては上記の自筆証書遺言の問題点を解決してくれて、利便性を向上させます。
紛失の恐れについては、法務局で遺言の保管をしてくれますので、遺言をのこしているかどうかも含めて相続人の方は確認をすることができます。(遺言書の保管の有無に関する証明書の申請)
また実際に保管されていれば、閲覧し写しを取得することができます。
改ざんの恐れについては、現状は自筆証書遺言がある場合には家庭裁判所にて検認という証拠保全のような手続きを取る必要があります。法務局で自筆証書遺言を預かってもらう場合には、検認という手続きは不要となります。
また、生前に遺言書を預けていることにより、その後に相続人等による改ざんが実質的に不可能となります。
不備の恐れについても同じく、法務局で預かってもらう際に自筆証書遺言に不備がないかを確認してくれますので、不備がある場合には修正等の指導が入ると考えられます。
法務局で遺言を預けるためにはご本人に法務局に出向いていただく必要があるのですが、現状で自筆証書遺言が抱える問題点をクリアできます。
ただし遺言の内容、つまり誰にどの財産を遺すか、遺留分に配慮しているか、などについては法務局においては相談に応じてもらえません。
遺言をのこす場合には、誰に何をいくら、というのがポイントになってきますので、揉め事の起きないような遺言作成のためにも一度専門家にご相談したほうが良いでしょう。
まとめ
[box03 title=”本記事のまとめ”]- 自筆証書遺言には現状問題点がいくつかある
- 法務局保管制度でその問題点が解消される
- 遺言の内容のチェックは専門家にご相談を
2020年の相続に関する大きな変更点のひとつです。上手に制度を活用できるように準備していきましょう。2020年7月10日から開始予定です。