ときおり親族間で折り合いが悪く揉めている相続のご相談があります。相続税の申告がなければ、お互い納得できるまでとことんやっていただくことになるかと思います。
では、相続税申告があるときはどうするか。今回は相続人間で折り合いが悪い場合の申告について整理しておきます。
相続人それぞれで申告できるが…
申告期限は延長されない
実際に揉めている相続のご相談があるときに聞かれるのが、申告期限は延長されるのか、ということです。
相続税の申告期限は、相続人間で揉め事があり財産の分け方が決まらなくても、延長はされません。
亡くなったことを知った日の翌日(多くが亡くなった日の翌日)から10ヶ月以内です。遺産を分けられていても、分けられていなくても変わりません。そこはある意味で法律ですので、シビアに判断されます。
未分割申告という方法
相続特有ですが、財産が分けられていることで適用できる特例というのがいくつも用意されています。そのため、分けられていないことで特例を受けられない不都合というのは生じる可能性が高いです。
そこまでフォローしていないと、分けられていないことの不利益が大きすぎるので、未分割申告という状態で申告をすることができます。
また、その際には「3年以内に分割見込書」という書類を付けて申告をしておくと、実際に遺産分割が決定したときに、その分け方に応じて特例を適用することができるという制度があります。
ただし、特例を適用できない状態で一度は申告しないといけませんので、当初申告での税額が大きくなりますし、遺産から納税するということも現実的には難しいと考えておいた方が良いでしょう。
不動産や株式は、遺産が分けられている状態でないと売却処分するのが難しいケースが多いです。
預金についても金融機関から引き出せる制限がありますので、それを超える納税金額である場合には、相続人が自分の財産から納税するということになります。
揉めている状態が想定されるのであれば生前に納税資金見込だけでも死亡保険金の契約を検討しておくのがおすすめではあります。
共同申告と個別申告
相続税の申告についてですが、原則は相続人それぞれで申告をするということになっています。亡くなった人の財産は同じなので、特例で相続人が共同して申告をするということが可能です。
揉めていない場合には、この共同して申告をするというのが一般的であり、亡くなった人(被相続人)の名前の横に、相続人や受遺者がそれぞれどういった財産や負債を承継したかということを記載するようになっています。
なので、揉めていない場合にはスムーズに、それぞれの協力に基づいて申告を行うことができますが、揉めている場合にはそうもいきません。
揉めているときには相続人がそれぞれで申告書を税理士に依頼して対応することになることが多いです。
そのほかの注意点と対応
一番最初に出す申告のことを当初申告と言いますが、その当初申告が未分割、なおかつ「3年以内に分割見込書」を提出している場合には、後で申告のやり直しができます。
ただし、この申告のやり直しは、その財産の分け方が確定した時から4ヶ月以内です。意外とタイトに感じると思います。
普段あまり相続税申告を対応していない税理士は、更正の請求だと5年以内とほかの税目と混同して間違った認識をしてしまう可能性がありますので、その点は注意が必要です。
そのため、相続人や弁護士などに調停や裁判の進捗確認を定期的に行っておくのが望ましいです。また、相手方からも裁判の確定等があれば連絡をもらえるように、しつこいぐらいに連絡をしておいた方が良いです。
揉めている相続で未分割申告をし特例適用を検討しているのであればスケジュール管理には十分留意してください。
相続人ごとに異なる申告書を提出した場合
また、相続人Aと相続人Bがそれぞれ税理士に依頼して申告書を作成した場合には、他の注意点があります。
一般的に揉めていない場合には、被相続人が1人で相続人が出す申告書は共同で作られていると、申告書の内容というのは基本的に同じになります。
ただし、相続人AとBがそれぞれで申告書を作成して提出している場合には、中身が相違する可能性が高いです。
そうなると、税務署としては、本来であれば被相続人が1人で申告内容は同じであるにもかかわらず、相続人A・Bでそれぞれ違う内容の申告書を出していると、どちらがより適切な内容かということを判断する必要が出てきます。
つまり、揉めていて相続人がそれぞれで申告書を提出し、中身が違うと、税務調査の可能性が高くなると言われています。
その点にはやはり注意が必要ですので、そのつもりで申告対応を行っておくのが望ましいでしょう。
税理士間の事前調整も有効
ただし、相手方から協力を得られない場合というのはもちろんあると思いますので、そういった場合には致し方ない部分もあるかと思います。
ある意味で割り切って、こちらはこちらで申告をするということを、分かる範囲でやっておくのが望ましいでしょう。
それぞれの相続人から依頼を受けた税理士同士で話し合いができる、事前にすり合わせができるようであれば、やっておくことも有効です。
というのも、裁判や調停というのは長くなりがちですので、税務調査の方が早く来る可能性があります。そうなると、税務調査の内容が裁判や調停に影響する可能性も否定できません。
そういったことを考慮すると、税務調査はなるべく避けた方がいいですし、裁判や調停に思わぬ形で影響することは避けた方が良いでしょう。
まとめ
相続人間で折り合いが悪い場合の相続税申告は、通常の申告とは異なる注意点が多くあります。重要なポイントを以下にまとめます。
申告期限について
- 揉めていても申告期限(相続開始から10ヶ月)は延長されない
- 未分割でも期限内に申告が必要
未分割申告の特徴
- 特例が適用できず、税額が大きくなる
- 「3年以内の分割見込書」を提出すれば、後で特例適用が可能
- 相続人が自己資金から納税する必要がある
更正の請求の期限
- 分割確定から4ヶ月以内(5年ではない!)
- 調停・裁判の進捗を定期的に確認することが重要
個別申告のリスク
- 相続人ごとに異なる内容で申告すると税務調査の可能性が高まる
- 可能であれば税理士間で事前に調整するのが望ましい
- 税務調査が裁判・調停に影響する可能性もある
相続人間で揉めている場合でも、相続税の申告は待ってくれません。専門家と連携しながら、適切なスケジュール管理と対応を心がけることが重要です。
