相続の場面で親族間が揉めるということは時折発生します。最も多い印象なのは、財産の分け方について争っているケースです。
これと関連して、遺言についてその成立が問題視されるケースがあります。
遺言を作成したときに認知症だったので、その遺言の内容は無効だということで争いになるケースが多いようです。
一方で、贈与があった場合にも、その贈与契約書があったとしても意思能力の問題が出てくることがあります。
高齢の親族が生前に贈与者になっている場合には、贈与の成立が問題視されるケースがあります。相続の場面でこの贈与の成立が問題視されたときの税務について、少し整理しておきます。
贈与が成立していなかった場合
贈与契約書が仮にあったとしても、ご本人の認知能力的に意思能力がなかったと裁判や調停で判断されてしまうと、その贈与はなかったものとして取り扱われます。
贈与があったときにはそういったことは想定していないこともあるでしょう。
通常の贈与の内容に基づいて贈与税の申告をしていますし、場合によっては、相続税の申告において生前贈与加算や贈与税額控除を使って申告をするはずです。
相続税の申告の当初から贈与が問題になるというよりかは、相続があったときにそれが問題になるケースが多いです。
やはり高齢の方が亡くなるとそれなりに認知能力に問題が出てくるケースもあるようで、認知症になっていたり、多少なりとも年齢に応じて記憶や言動があやふやになっているケースもあるでしょう。
そうした中でも贈与したということであれば、ひとまずは贈与税の申告をして、相続税の申告もそれを反映した形で行うことになります。
税務の側で認知症の有無による贈与契約の成立を判断するのではなく、まずはその事実(贈与があった)という点に基づいて申告をします。
贈与が無効とされた場合の税務処理
では実際に贈与について争いがあり、調停や裁判でそれが無効、つまり贈与が成立していないとされた場合にはどうなるでしょうか。
贈与税について
まず贈与についてですが、贈与契約そのものが成立していないことになりますので、贈与税の申告をまずは取り消す必要が出てきます。
これはそもそも贈与があったという前提が覆り、贈与はなかったということです。
更正の請求という形で贈与がなかったものとして、後発的事由に基づいて申告のやり直し、この場合は、むしろ取り消しと表現した方が良いと思いますが、そういった対応が必要になります。
後発的事由による更正の請求については、その事案が発生して確定した時から2ヶ月以内と、通常の更正の請求の期限である5年よりも短く設定されています。
相続税の未分割の場合の更正の請求期限とも異なるので注意が必要です。
基本的に贈与の契約や遺言の無効については弁護士が窓口になって対応していると思いますので、その相続人から委任を受けた弁護士と裁判や調停の進捗とあわせて確認をしておくのが望ましいでしょう。
相続税について
では、その贈与について、相続税の申告の際に贈与税額控除や生前贈与加算、場合によっては相続時精算課税贈与があったものとして申告をしているケースがあります。
この場合も前提としたそもそもの贈与が成立していないわけですので、相続税の申告のやり直しが必要になります。
相続税申告と贈与税の争いの決着のタイミングがどういうタイミングになるかはわかりませんが、基本的に相続についても贈与が成立していたものとして作成しているわけです。
つまり贈与が成立していないのであればそれを反映して作成した相続税の申告もやり直しということになります。
期限管理の重要性
こういった遺言や贈与の契約の無効についての調停や裁判は比較的長くなりがちです。
そのため、そういったことが見込まれるという場合には、更正の請求ができる期限が2ヶ月と短くなっていることに注意して対応していく必要があります。
相続税の更正の請求で言うと、財産が分けられていない、いわゆる未分割申告での更正の請求の4ヶ月という期限をイメージしがちですが、そうではないケースがあるということを念頭に置いて対応しておくのが望ましいでしょう。
まとめ
贈与契約が後に無効とされた場合、税務上は以下の対応が必要となります。
- 贈与税:後発的事由による更正の請求により、贈与税の申告を取り消す
- 相続税:贈与がなかったものとして相続税の申告をやり直す
- 期限:判決確定等から2ヶ月以内という短い期限に要注意
高齢の贈与者の意思能力が問題となりそうな場合は、将来的に贈与の有効性が争われる可能性を念頭に置いたほうが望ましいでしょう。親族間で争いがある、不仲な場合には特に注意が必要です。
調停や裁判の進行状況を弁護士と密に連携しながら、適切なタイミングで税務処理を行うことが重要です。
