相続税を計算する際には各種特例が用意されています。例えば小規模宅地の特例では、事業用の不動産や居住用の不動産について、相続税を計算するときに特例計算を用いることができます。ただし要件があり、例えば居住用であれば、同居していることなどが要件になっています。
こうした相続税の特例を適用する際に、居住の実態が問題になるケースがありますので、ここで少し解説をしてみます。
居住している実態とは
例えば、冒頭で触れた小規模宅地の特例の「特定居住用宅地等」というものがあります。この特例は、亡くなった方と同居していた方が相続をすると、相続税計算上有利に計算することができるというものです。
330平米までは8割減になりますので、例えば300平米の亡くなった方の自宅の敷地があり、評価額が1億円だとすると、それが2,000万円で計算できるという特例です。ですので、かなり相続税に対するインパクトが大きいといえるでしょう。
こうした特例の存在は、相続税対策を行う上で有利になりますので、できれば適用したいというニーズがあります。事前にご相談をいただいていれば良いのですが、亡くなった後に居住の実態を整えるというのは現実的には難しいため、生前対策を必要とする部分ではあります。
例えば、特例適用の要件のひとつである同居していたという実態は、どのように確認するか。
税務調査で問題になると亡くなった方のご自宅の水道光熱費や、同居していた方が通勤をしているのであれば通勤費の申請など、同居していたであろうことを説明できる資料の確認や、生活の本拠であったことを確認する必要が出てきます。これは、形式だけではなく実態で確認するということです。
例えば、この特例を受けるために住民票を移動させておけば良いだろうという方も中にはいらっしゃいますが、住民票の移動はあくまで形式的なものであって、実態ではないということです。実態とは、実際のところどうだったかという確認になりますので、後で取り繕うのが難しいというのは、そういう意味合いもあります。
税務調査で問題になるケース
前段で触れたように、相続税の計算の特例は税額に大きく影響しますので、税務調査があったときに確認される場合があります。もちろん、長年同居して介護や看護をしていたというケースでは問題にならないことも多いのですが、亡くなった方と同居していたと申告している場合には、その同居していた方の住所地をまず確認することになります。
住所地の確認はマイナンバーで行ったり、戸籍の附票等で確認する方法がありますので、そうした内容で住所の変遷をまず確認することがスタートになることが多いです。
さらに、調査官が同居や居住の実態を確認しようとしたときに、水道光熱費の領収書を提出させることもあります。これは何を見ているかというと、例えば一人暮らしをしている場合と複数人で住んでいる場合とでは、水道光熱費が必然的に変わってくるからです。同居している場合には、一人暮らしの場合よりも水道光熱費が増えていることの方が自然ですので、そうした内容を確認したりします。
他にも、例えば相続税の税務調査の際には、その亡くなった方のご自宅の周辺に聞き込みを行うケースもあるようです。実際にその方が住んでいたかどうかは、周りの方が見ればある程度わかるということもあるのでしょう。
時々問題になるのは、介護のために一時的に住民票を移していたというケースです。こうした場合は、居住していたのは一時的なものという判定になりますので、同居判定にならないというルールもあります。
実際の生活の本拠はどこだったかというのをベースに確認していきますので、住民票やその住所の変遷はあくまで参考的なものであり、住民票があったからといって同居しているというわけではないということを、調査官も念頭において調べてきます。
居住の実態があるかどうか、最近では老人ホームに入られる方も増えているので、その老人ホームに入ったタイミングであったり、生計を一にしていた、いわば同じお財布で生活をしていたということであれば、その内容の確認がされることもあります。
相続税の税務調査は、特に実態がどうだったかを確認される内容になりますので、同居や居住の実態を取り繕おうとすると、厳しく調査されることは覚悟しておいた方が良いでしょう。
生計が一(せいけいがいつ)というのも居住実態とともに問題になるケースがあります。いわばお財布が同じ状態を指しますが、明確な基準がないため実際のお金の流れなどを確認されることになります。
例えば親が老人ホームに入居していて生計一を主張するのであれば老人ホームの費用は誰の負担になっているか、というのは当然に確認されます。
まとめ
相続税の小規模宅地の特例をはじめとする各種特例は、税額に大きな影響を与えるため、その適用要件である「居住の実態」が税務調査で重点的に確認されます。住民票の移動などの形式的な対応だけでは認められず、水道光熱費、通勤状況、近隣への聞き込みなど、実態面から判断されることになります。
特例の適用を検討される場合は、亡くなった後では対策が難しいため、生前から専門家にご相談いただき、適切な対策を講じることをお勧めいたします。