相続対策のご相談でお話を伺う際に、「社会のために役立ててほしい」「お世話になった地域で使ってほしい」といったご希望を聞く機会があります。ご自身の財産を公益のために使ってほしいと考えたときに取れる選択肢についてお伝えします。
ご存命の間にできること
ご存命の間にもできることがあります。それは寄付です。
公益活動を行う財団等は通常の場合でも寄付を募っていますし、市区町村でも寄付を受け付けています。ふるさと納税という形ではなく、まとまった財産を公益のために使ってほしいということで、ご自身が選んだところに寄付をしていただくことは問題ありません。
最近では次のようなニュースもありました。上場会社の創業時メンバーでもあった元取締役の方が、ご自身がお住いの市区町村に市立病院の建て替え等に使ってほしいとのことで多額の寄付をされています。
ほかにも日本赤十字社やあしなが育英会など、一般の方からの寄付で運営がまかなわれている団体は多くあります。公益財団法人と呼ばれる法人の種類のものは、基本的に収益事業は行えず寄付により運営されていますので、ご自身の主義や主張に合う活動をしているところがあれば積極的に検討していただいてもよいでしょう。
ただし、この後の遺贈寄付と同じく、現預金であることのほうが望ましいケースが多いです。というのも、仮に不動産を寄付すると活用の仕方等に制約が出る可能性が高く、売却処分にも時間と費用がかかります。遺言による不動産の寄付の場合には、相続人の方に所得税の申告が必要なケースが出てくるため、より注意が必要です。
もしご存命の間でも団体への寄付を検討する際には、寄付できる財産の確認と事前の問い合わせ等をしておいた方がスムーズに運ぶ可能性が高まりますので、あわせて検討してみてください。
遺言に財産の行き先を書くこと
遺贈寄付と呼ばれる遺言による寄付です。
相続人の方も相続財産の中から寄付することは可能ですが、遺産を遺す方の意思をより反映させようと思うと、遺言によるもののほうが確実です。
ただし、相続人の方には遺留分という、もともと相続できる財産の割合がありますので、その点には注意が必要となります。あくまで可能性ではあるのですが、遺留分侵害で相手方に対して申立てをすることができてしまいます。
例えば、亡くなる方が遺産のすべてを宗教法人に遺贈するという内容の遺言を遺すと、相続人の方がいる場合に争いの種になる可能性があるということです。そのあたりは、相続人がいる方の場合は慎重な判断をしたほうがよいでしょう。
また前段でも触れましたが、不動産を遺贈寄付する場合には、その不動産を遺贈されていないにもかかわらず、相続人が亡くなった方の確定申告をして納税が必要なパターンが出てきます。また、遺贈される公益団体のほうでも、不動産の遺贈を受けると処分等に困る、活用がしづらいという面があるのも事実です。
団体によっては遺贈寄付で不動産を寄付しないようにお願いしている団体もありますので、事前に確認しておいた方がよいです。
まとめ
公益のために財産を活用する方法は、生前寄付と遺贈寄付の2つに大きく分けられます。どちらの方法も社会貢献につながる意義深い選択肢です。
いずれの方法を選択する場合も、寄付先団体の受け入れ体制や要望を事前に確認し、相続人への影響も考慮した慎重な検討が大切です。公益のための財産活用をご検討の際は、専門家にご相談いただくことをお勧めします。
生前寄付のポイント
- ご自身の意思で直接寄付先を選択し、活用状況を確認できる
- 現預金での寄付が最も受け入れやすい形
- 事前に団体への問い合わせをしておくとスムーズ
遺贈寄付のポイント
- 遺言により確実に意思を反映できる
- 相続人の遺留分に配慮した内容にする必要がある
- 不動産の遺贈は相続人の税務申告や団体の受け入れ面で課題となる場合がある