相続人が非居住者、つまり海外に居住している場合には、相続税申告において特に注意すべき点があります。相続税のみならず、場合によっては所得税等にも影響するため、慎重な対応が必要です。
相続人が非居住者の場合の相続手続き
相続人が海外に居住しているケースが増えています。この場合の主な注意点は、遺言書の有無と遺産分割の手続きです。
遺言書がある場合には、その内容に従って遺産分割手続きを行います。遺言書がない場合は、相続人が居住者の場合と同様に遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議がまとまった際には、分割協議書を作成し、署名と実印での押印が必要です。しかし、非居住者の場合は手続きが異なります。
非居住者特有の手続き
非居住者は日本に住民票がないため、実印の印鑑登録証明書を取得できません。そのため、実印に代わるものとして、サイン証明を非居住者の居住国にある日本領事館などで取得する必要があります。
この手続きには相当な時間を要することがあるため、相続人が非居住者の場合は、早めの対応が重要です。
相続税申告について
相続人が海外に居住していても、日本国内に居住していた方が亡くなり、日本国内の財産を相続する場合には、日本での相続税申告が必要です。納税と申告については、納税管理人の選任手続きを行って対応することになります。
その他の税務上の注意点
海外送金の手間
預金のみを相続する場合でも、非居住者の国外金融機関への送金には相当な手間と時間がかかります。上場株式や不動産の非居住者への相続については、さらに複雑な手続きが必要となることを理解しておきましょう。
不動産所得の税務処理
日本国内の賃貸不動産を非居住者が相続した場合を考えてみます。日本国内の不動産から生じる賃料は国内源泉所得とされるため、日本での確定申告が必要です。
また、非居住者が賃料を受け取る際には、源泉徴収が必要なケースもあるため注意が必要です。
不動産譲渡時の注意点
賃貸の場合と同様に、非居住者が国内不動産を譲渡した場合も源泉徴収が必要となります。賃料収入と同様に、日本での確定申告が必要となります。
国外転出時課税の適用
一定規模の財産を持つ方が亡くなった際に、非居住者の相続人が株式等を相続する場合には、国外転出時課税が適用されるケースがあります。
これは、国外に移転される株式等の含み益について所得税を課す制度です。日本国内から海外への資産移転により日本の税金を回避することを防ぐ目的で設けられた措置であり、非居住者が相続する場合には相続財産の内容について十分な注意が必要です。
予期せぬ課税が発生する可能性もあるため、非居住者の方は相続税だけでなく、財産を相続した後の税務についても事前にシミュレーションや検討を行うことが重要です。
まとめ
非居住者が関わる相続は、居住者のみの相続と比べて手続きが複雑化し、思わぬ税務リスクが発生する可能性があります。専門家による事前の相談とシミュレーションを行い、適切な対策を講じることをお勧めいたします。
相続人が非居住者の場合、以下の点に特に注意が必要です。
手続き面での注意点
- サイン証明の取得に時間がかかるため、早めの準備が必要
- 納税管理人の選任が必要
- 海外送金手続きの複雑さを理解しておく
税務面での注意点
- 国内不動産からの賃料収入は日本での確定申告が必要
- 不動産譲渡時の源泉徴収義務
- 国外転出時課税の適用可能性