相続時精算課税贈与について税制改正がありご相談をいただく機会も増えてきた印象です。こういう時は検討してもよいかも、という使いどころやリスクを改めて考えてみます。
税制改正で使いやすくなった?
税制改正があり、精算課税贈与にはなかった110万円の基礎控除部分が設定されました。
この110万円の基礎控除は相続があった際の申告書でも足し戻しの対象外となっています。
つまり無税で贈与できますと。
一般贈与の場合には生前贈与加算の対象期間であれば110万円の基礎控除内であっても足し戻しの対象です。
つまり精算課税贈与のほうが有利な場面も出てくるということになり、それもあって検討したいという方が増えたと言えます。
税理士向けの相続税対策における贈与の検討でも書籍やセミナーで有利不利のラインを検討している内容が増えました。
仮に10年間、相続時精算課税贈与で毎年110万円贈与しているというケースでも、1,100万円は相続税計算時に足し戻しません。
生前贈与加算の対象となる一般贈与の場合は最大で770万円が足し戻しの対象になるため、この差は大きいと感じるかたも多いでしょう。
相続税率が仮に最低ラインの10%だとしても、1,100万円の部分にかかったであろう110万円が相続税上は有利になり、77万円を納める可能性を考えると+77万円になるか-110万円になるかの差がでてきます。
ただし人がなくなるタイミングは誰にも予測ができないことと、ほかの部分での精算課税贈与のリスクは税制改正後も変わらず存在していますので、選択適用するかどうかは慎重に判断すべきではあります。
変わらないリスク
相続時精算課税贈与の税制改正でメリットがフォーカスされがちですがリスクの部分は変わらず存在しています。
撤回できないこと、7年を超えても足し戻しの対象になること、不動産の場合は小規模宅地の特例が使えないこと、この3つは特に注意が必要です。
撤回できないこと
相続時精算課税贈与は一度選択するといわゆる一般の暦年贈与に戻すことはできません。制度としては選択すると辞めれないということを意味します。
贈与しなければそれでよいと言えばそうですが、撤回できないことは意外と重しになる可能性もあるのでリスクとして考えておくべきです。
前段でも触れましたがいつどのタイミングで贈与しているひとが亡くなるかわからないことや贈与を受けていた人が先に亡くなる可能性もあることから、リスクとしては比較的大きいです。
7年を超えても足し戻しの対象になること
110万円の基礎控除部分については相続財産への足し戻しの対象になりません。
これはメリットではあるのですがその部分を超えての贈与については選択から亡くなるまでの期間が長期になったとしても選択した以上は足し戻しの対象となるわけです。
例えば210万円の贈与を5年間にわたっておこない、最後の贈与から7年後に贈与者が亡くなった場合で考えてみましょう。
相続時精算課税贈与の場合:210万円-110万円=100万円、5年分で500万円が足し戻しの対象
暦年贈与の場合:贈与が完了してから7年後に亡くなっているため足し戻しの対象はなし
と計算できます。
早めに贈与して早めに贈与を終えましょうとお伝えすることが多いのですが、このように早めに贈与ができていると7年間の足し戻し対象期間を極力短くすることも期待できます。
長生きしてもらえればもらえるほどその可能性が高まるわけです。
不動産の場合は小規模宅地の特例が使えないこと
現預金のみならず不動産も相続時精算課税贈与で贈与することは可能です。
ただしこの場合には相続税計算時に小規模宅地の特例という相続税計算上の特例は使えないことになります。(すでに贈与しているため相続財産ではない)
そのため本来贈与がなければ小規模宅地の特例が適用できたであろう不動産だったけれど、小規模宅地の特例の対象から外れたため相続税が増える可能性が高いです。
まとめ
相続時精算課税贈与の改正後、はじめての贈与税の申告期間がR7年でした。実際ご相談も多かったですし、特殊なケースとして亡くなった後の精算課税贈与選択の対応もあり、検討する機会は増えている印象です。
ただし安易に選択適用するとお伝えしたようなリスクがありますので慎重になおかつ納得した上での対応が望ましいです。