相続税や贈与税に関する配偶者の特例は各種用意されています。適用する頻度が高いもの低いものありますので、今回はその視点で見ていきます。
相続税の配偶者関係の特例
相続税の配偶者関係の特例はいくつか用意されていますが一番頻度として高く見かけるのが相続税の配偶者の税額軽減です。
いわゆる相続税がかからないとされる範囲が配偶者は大きく、法定相続分もしくは1億6千万円までは相続税が軽減されます。
その範囲に収まっていれば配偶者が取得する財産には相続税がかかりません。
ただし2次相続と言って配偶者自身がのちに亡くなった時にはその財産分が上乗せになっている状態ですので、2回の相続の合計の相続税で有利不利が出ることがあります。
それをどこまで考慮するかはご家族次第です。必ず法定相続分で分けなければいけないルールはありませんし、配偶者の方がお元気という場合や、配偶者の方が元々所有している財産が少ない場合などいろんなケースが想定されます。
遺言を作成する場合なども見込みはある程度付けておいて納得の上でどう分けるかを検討しておきましょう。
小規模宅地の特例も税額軽減の次によく見かける特例です。
配偶者の場合には特に特定居住用という亡くなった方が住んでいた家を相続する場合の相続税計算上の要件がゆるやかに設定されています。
ほかの相続人の場合には細かい要件が親族関係などによって設定されています。
登記上はみるかもしれませんが、税務の現場ではほとんど見かけないのが配偶者居住権の設定です。
特に前段で触れた2回目の相続(配偶者自身が亡くなったことによるもの)での税額計算上有利になるケースがありますが、制度の中身がややこしいことや揉め事がおきないようにという、いわゆる後妻さん向けの制度内容です。
そのためあまり税務の現場では見かけないという状態です。ほかの方法でカバーできる部分もあるので制度自体はそれほど浸透している状態ではなさそうです。
令和5年の一年間で配偶者居住権の登記設定件数は全国で911件というデータがあります。増加傾向ではありますが、居住権設定後に思わぬ形で課税されるケースもあるため、設定は慎重に検討したほうがよいです。
贈与税の配偶者関係の特例
贈与税の配偶者関係の特例については、居住用財産の贈与をすると適用できる特例があります。
いわゆるおしどり贈与と呼ばれるものなのですが、一定要件を満たしていると贈与税が非課税となります。
婚姻期間20年以上、配偶者からの贈与が居住用不動産もしくは居住用不動産の購入資金である、非課税であっても申告期限内に贈与税の申告をする、といった要件があります。
要件を満たすと贈与税の基礎控除額110万円のほかに2,000万円まで贈与税が控除されて非課税となります。
一見すると便利というか適用したと考えるかたも多いかもしれませんが、そもそも配偶者の場合は相続税の各種特例が用意されています。
贈与した居住用不動産等は相続税計算上は考慮されませんし、小規模宅地の特例も使えません。
また贈与による不動産登記、不動産取得税なども必要になってきます。(相続の場合の登記は登記料は低く抑えられており、不動産取得税も相続の場合は課税対象外です)
配偶者自身の財産に居住用不動産が上乗せにはなりますから2次相続の面でも要検討事項であることは間違いありません。
贈与すると損するわけではないですがこちらも慎重に判断したほうがよいのと、贈与してすぐに売却すると「住むつもりがなかった」とみなされる可能性がありますので注意が必要です。
大きな金額になりがちですので税金面でも適用するかどうかをよく検討しておくことをおすすめします。
まとめ
財産の分け方にこうしなければいけない、というルールはありません。ご家族が納得できる形を探すためにも話をする機会を設けておくのがおすすめです。ご家族が集まる年末年始やお盆などが集まりやすい時期で話をしたと伺うことも多いです。
そのうえで適用できる特例は適用していく形がよいでしょう。特例の適用のために分け方を考えるのではなく、分け方が決まったときに適用できるものを適用する形がおすすめです。